東大、念願の総合優勝! さよならSkywave650第7回 全日本学生フォーミュラ大会 レポート(4)(2/3 ページ)

» 2009年10月22日 00時00分 公開
[小林由美MONOist]

レギュレーション改正と東大

 第7回大会からのレギュレーション改正について、後藤さんは次のように述べた。「昨年の日本大会が始まる前、アメリカの大会が終わった後、8月の時点で、今回の改正について大体の内容が明らかにされていました」。東京大学チームは分かった時点で、早め早めで、自動車技術会に質問するなど、情報収集を進めたそう。そのおかげもあって、今回のレギュレーションの改正そのものは、車両の設計・製作スケジュールに大きく影響しなかったとのことだ。

 ただコスト算出方法はこれまでと比べて大幅に変わり、早く準備を始めていたとはいえ、危機感は強く持っていたという。それでも何とか乗り切ることができたそう。

計算項目が増え、しかもミスまで厳重チェック――東京大学チームをもヒヤヒヤさせたコスト算出の改定とは?

 事前提出の書類のうち、特に難所といわれるのがコストレポートだ。しかも上記で説明したように、計算方法がガラッと変わった。そのうえ今年から、貨幣単位がドルに統一された。昨年までは円単位で計算していた。

 「パーツ同士を組み、穴にボルトを入れ、ナットを裏から当て、ボルトを締めて……というレベルに作業をばらして計算します。あらかじめ、自動車技術会さんから作業別のコスト対応表が配布されました。例えば、『ラチェットを使って径Xmmのボルトを締めた場合、1ユニット当たり0.75ドル』『溶接は、1cmあたり 0.15ドル』という具合に決められています。つまり、組み立てや加工で、どういうツールを使ったかを見ていくんです」(後藤さん)。

メカノデザイン工房の工作機械:チームメンバーたちは自ら工作機械を操る。工作機械は授業で使うもの

 これまでは、部品を組む際のボルト締結にしても、ざっくりとした組み立て時間を基に計算を行えばよかった。計算項目も、上記と比べると、だいぶ少なかったという。今回の改正で、作業量は確実に増えた。

 もちろん配布された対応表の中に見つからない作業も出てきた。そういった場合は、事前に自動車技術会に申請し、新たに算出ルールを作ってもらう。日本でしか使われていない部品、例えばマスタシリンダやブレーキキャリパなども申請を出さなければならなかった。新たな計算方式採用の初年度ということで、自動車技術会にも多くの質問が殺到したとのこと。運営側も大変だ。

 計算項目が細分化されて多くなったうえに、計算ミスの減点基準も明確化された。昨年度までは、審査員の裁量次第だったという。これからはどんなに些細(ささい)な計算ミスをしても、減点されてしまう。膨大な量の計算をなるべく効率化し、担当者の負担をできるだけなくすことで、ミスを減らしていくしかない。

 東京大学では、コストレポート製作については3年生のメンバーが中心となって行っている。そこでは秋元さんの作ったExcelの計算マクロが活躍している。「すべて手入力するのは大変ですし、計算ミスも怖いので、マクロを組んで計算の一部を自動にしました」(秋元さん)。

 コストレポートの準備から提出までは、約1カ月とのことだ。提出は、期限ギリギリだったとのことだが、それは毎度のことだそう……。

分厚いファイルで、2冊編成!

 「審査員の方に、これはやり過ぎといわれました。でも情報が足りないよりはずっといいと思って」と後藤さんが見せてくれた、2冊の分厚いファイル。

分厚いコストレポートのファイル

 「コストレポートにも、それなりにコストが掛かりました」と後藤さんは笑った。もちろん、メガ盛りな点については、来年は改善していくとのこと。その中身がどうなっているかは、秘密!

合同走行会

 車両を熟成していくには、走り込みが大切だといわれる。前回の記事で、上智大学も述べていたが、東京大学は走り込みの回数がとにかく多い。「今年は26回、コースで走りました。そのうち、大会会場のエコパのコースでは3回ぐらいですね。トラブルが起きない限りは、そこで100周ぐらい、丸1日走り続けます」(後藤さん)。特に大会会場のコースで走ることは、車両セッティングにおいてはとても有意義となる。エコパのコースは、普段は駐車場で、通常のカートコースより滑りやすいとのことだ。

 自動車技術会主催のものとは別に、東京大学は静岡理工科大学と共に、3年ほど前から合同走行会を主催している。「まずは僕たちが走りたいからと始めた走行会ですが、1校だけでコースを確保するのは非常にもったいないです。一緒に走るチームが、3つか4つはいた方がいいので、開催前に他校に対して呼びかけを行います」(後藤さん)。

 両校は、経験の浅い学校に対しても呼びかけを行っている。学校の中には、コネクションの面や土地の事情、手配が不慣れであることなどで、走りこみの機会を作ることが難しい場合もある。そういった場合、このような機会は重宝されるだろう。

 日本の学生フォーミュラ大会は、上位校と下位校とのレベル差が大きく開いてしまっている現状だが、自動車技術会としては満遍なくレベルが上がってほしいとのこと。そのためには、学生たちの試走の場を増やすことが大事だとフォーミュラ実行委員会で広報を担当する本田技研工業の中村 博氏も述べていた。東京大学と静岡理工科大学の取り組みが、参加校のレベル底上げにつながっていくことを願うばかりだ。


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