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» 2009年11月19日 11時00分 公開

いまさら聞けない シャシー設計入門(5):ぬかるみで片輪が空回り! デフのおせっかい (2/3)

[カーライフプロデューサー テル,MONOist]

ディファレンシャルの構造

 さて、ここまでで「差動」の意味を何となく理解していただけたと思います。しかしどのようにして回転差を吸収しているのかは、全く分かりませんよね。実は現物なしでの構造・差動説明というのは超難解なのですが、何とか理解していただけるように頑張ってみたいと思います。

 また、以降の構造説明時はディファレンシャル自体に負荷が全くない単品状態とお考えください。

 まずは最もシンプルなディファレンシャルの構成部品やそれぞれの名称を見てみましょう。

写真2 ディファレンシャルの構成部品 写真2 ディファレンシャルの構成部品

 リングギアは、エンジンからの動力がトランスミッションの各ギアを伝わり、最終地点であるディファレンシャルに入力されるときに最初に駆動される部品です。FRレイアウト(Front-engine,Rear wheel drive layout)の車であれば、トランスミッションからプロペラシャフトを介してリングギアへと動力が入力されることになります。

 リングギアはディファレンシャルケースに固定されており、ピニオンはディファレンシャルケースにピニオンシャフトを介して向かい合って取り付けられています。つまりリングギアが回転すると必然的にディファレンシャルケースが回転することになり、同時にピニオンシャフトも回転します。ピニオンシャフトが回転することでピニオンも回転することになります。この時のピニオンの回転はピニオンシャフト上を回転する自転ではなく、ディファレンシャルケースとともに大きく回転する公転となります。

 サイドギアは向かい合うピニオンの間に設置されており、中心部にはスプライン(溝)が切られています。このサイドギアのスプラインで、タイヤの回転に直結するドライブシャフト(アクスルシャフト)を結合しています。

写真3 サイドギアのスプライン 写真3 サイドギアのスプライン

 それでは状況別に差動を見ていきましょう。

直進時

 直進時=左右のタイヤの回転数は同じですので、差動は行われません。

 このときの動力伝達は、

 リングギア=ディファレンシャルケース⇒ピニオンシャフト⇒ピニオン⇒サイドギア⇒ドライブシャフト

となります。

 このときに混乱しやすい重要なポイントがあります。まずリングギアは、ドライブシャフトと結合していないということです。写真では結合されていそうな位置関係に見えますが、あくまでもリングギアはディファレンシャルケースと一体になっているだけです。

 また、「ピニオン⇒サイドギア」の動力伝達は、単純にピニオンの歯面でサイドギアを押しているだけであり、ピニオンはピニオンシャフト上で自転していないという点です。ここが最も理解しにくい部分だと思いますが、実際に直進状態におけるディファレンシャルの回転状態を見ると「ディファレンシャルの構成部品全てが一体となっている」ように見えます。それもそのはず、差動していないわけですから、リングギアの回転数と左右のドライブシャフトの回転数は全く同じになります。

右折時

 右折時、つまり旋回時には左右のタイヤの回転数が異なりますので、差動が行われます。ここで復習ですが、右折時におけるタイヤの回転数は、

  • 内側(右)タイヤ=小さい円を描く=回転数が少ない
  • 外側(左)タイヤ=大きい円を描く=回転数が多い

ということでしたね。これを踏まえて動力伝達を見ていきましょう。

 先ほどの直進時と同様に、まずはリングギアに動力が入力されてディファレンシャルケースが回転を始めます。つまりディファレンシャルケースと一体になっているピニオンシャフトも必然的に回転を始めます。

 さて、ここからがディファレンシャルの目玉部分です。

 直進時では左右のタイヤにおける回転数に差がないため、ピニオンはサイドギアを歯面で押しているだけです。しかし旋回時になると外側タイヤに比べて内側タイヤに大きな抵抗が生じることになります。

 それがどういうことかというと、外側タイヤは高速回転しようとしているのにもかかわらず、内側タイヤは通る円が小さいので低速回転しようとします。

 そうです! 内側タイヤが外側タイヤの高速回転を邪魔しようと抵抗するのです。ほかの目線でいえば、内側タイヤの方が外側タイヤに比べてカーブがきつい(円が小さい)ので、タイヤと路面との抵抗が大きくなります。

 電気と同様に、抵抗もまた大きい方より小さい方に力が逃げていくのは、自然の摂理ですよね。ディファレンシャルも抵抗が少ない方を好みます。

 直進時にピニオンが歯面でサイドギアを押していたのと同じようにピニオンが公転して歯面でサイドギアに力をかけても、右サイドギアは思ったように動いてくれません。その抵抗分だけピニオンはピニオンシャフト上で空転(自転)し、同時に左サイドギアの回転を後押しする形で駆動(増速)します。別のいい方をすれば、抵抗差分だけリングギアからの回転力が分配されたということです。

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