アーキテクトモデルの実現とアルパインの取り組みモノづくり最前線レポート(15)(2/3 ページ)

» 2009年12月07日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

アルパインがDSM3カ年プロジェクトで実現した「ブレない」開発体制

 ここからは、セミナーで紹介された製品企画・開発工程の改革事例を紹介しよう。車載AV機器、ナビゲーション機器などのメーカーとして、国内外の自動車メーカーにOEM提供を行っているアルパインの取り組みだ。同社製品は特にハイエンド車への提供が多いのが特徴だ。一方で、自社ブランドでも高機能製品を展開しており、一般ユーザーからの支持も厚い。

 当日は導入事例としてアルパイン 理事で共通開発副担当でもある江尻 和繁氏が登壇した。江尻氏は同社でメカ設計部門を担当、その後、設計開発のデジタル化プロジェクトで指揮を執るなど、開発工程の改善活動推進に注力してきた人物だ。

 同社は国内外の自動車メーカーと取引をしているため、すでにアジア地域では中国に2拠点、北米市場向けにはメキシコ、欧州向けにはハンガリーと、各地に拠点を持っている。

 同社では、6年ほど前からDM(Digital Manufacturing)活動を実施、詳細設計以降の開発工程での設計情報の3次元化を実現しており「詳細設計以降の開発工程の整流化はある程度実現している段階」(江尻氏)だ。

 しかし、詳細設計以降のプロセスがスムーズに行くようになったいまもトラブルが発生するケースが見られたという。

 そこで、同社では新たに、2007年から「DSM」プロジェクトを発足させ、問題の洗い出しと解決に取り組んできた。「DSM」のそれぞれの文字には、「Design」「Structure」「Matrix」、「電気」「ソフトウェア」「メカ」、「大規模」「製品」「ムリ/ムダ/ムラなく」という3つの意味がこめられているそうだ。

アルパイン 理事 共通開発副担当 江尻 和繁氏 アルパイン 理事 共通開発副担当 江尻 和繁氏

 その背景として、江尻氏は3つの動機を挙げた。まず、同社がグローバルで展開しているOEM製品でのニーズが多様化している点。同社製品が複数の自動車メーカーにOEM供給されていることは、先に言及したとおりだが、それぞれのメーカーは、自社の自動車の特徴に合わせた製品を求めるようになってきているという。同社ではニーズに的確に応える製品提案が必須となりつつあるというのだ。

 第2に、製品そのものも複雑化しているが、多様化するニーズに迅速に応えるためには開発体制を見直し、「世界同時開発」を可能にしていく必要がある。従来のように日本国内で開発を実施し、順次、北米や欧州に展開して行くスタイルではなく、日本での開発工程の途中ですぐに海外での開発も開始することで、リードタイム短縮を考えていく必要に迫られていた。

 第3に社内要因として、製品の複雑化に伴い、提案や引き合い、構想設計といった上流工程での混乱が問題となり、上流工程の業務プロセスの改善が課題となっていたという。

 これら3つの動機のほかに、このプロジェクトには「提案力向上」というもう1つの目的もあった。「自動車メーカーが詳細な仕様までを指定していたので、それをそのまま製品化していけばよかった時期がありました。しかし、現在、メーカーは製品について詳細な仕様を提示せず、こちらからいいものを提案していくスタイルに変わりつつあります。そのためにも、いままで以上に、いい提案をしていく必要があるのです」(江尻氏)

 こうした背景から、アルパインではDSMプロジェクト3カ年のロードマップをしいた。

 まず、国や地域、顧客毎の差異を吸収すべく、定めるプロセスの粒度を決定し、標準のマイルストーンなどを策定する。

 さらに「技術ばらし」の工程で、要件となる技術をばらしていく作業を行う。この段階で、製品開発の直接の担当者だけでなく、顧客との窓口でもある営業部門担当者にも通じる専門用語ではない形での要件定義を行っていく。技術ばらし工程での検討を経たうえで、あらためて仕様書として再構築する。

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