夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(上)隣のメカ設計事情レポート(4)(1/3 ページ)

リコーの新製品「GXR」は、本体とレンズが切り分けられているコンパクトデジタルカメラ。切り分けの裏に潜んだメカ設計担当者の暗中模索とは?

» 2010年01月18日 00時00分 公開
[小林由美@IT MONOist]

 リコーが2009年12月から発売した「GXR」は、カメラボディーが分割され、レンズが交換できるという、ユニークなコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)。レンズを交換するという概念自体は、一眼レフカメラ(一眼)のようだが……少し違う。

 「GXRのコンセプトには、一眼で少し苦労しているお客さまにもっと気楽に写真を撮ってもらうという考えもあります。写真にそれなりにこだわりがあって、一眼は好き。でも重たい。それに使わない機能も多いという人は、こういう画質にこだわっていて、それなりにいろいろできるコンデジを求めているのではないかと思いました」と、同製品のメカ設計を担当した 同社 パーソナルマルチメディアカンパニー ICS設計室 設計1G シニアスペシャリストの篠原 純一氏は話す。

同社 パーソナルマルチメディアカンパニー ICS設計室 設計1G シニアスペシャリストの篠原 純一氏

 GXRというその名の通り、同社銀塩カメラの名機「GR」が原点である「GR DIGITAL」、「Caplio」起源*GX200より同シリーズから抜けた で拡張性が売りの「GX」がミックスされたようなルックスと性能だ。

 「GR DIGITALは、携帯性を重視し、いつでもどこでも気軽の撮れるものを目指していました。GXは、多少外形サイズを犠牲にしてもEVF(電子ビューファインダー)、テレコン(テレコンバージョンレンズ:望遠レンズ)、ワイコン(ワイドコンバージョンレンズ:広角レンズ)といった拡張機能に重点を置いていました。GXRはその後者、GXの後継機になります」と篠原氏は説明する。ただ今回は顧客ターゲットの一部に一眼ユーザーも想定されるために、外装では、マグネシウム筐体&ラバーグリップのGRを強く意識したという。

篠原氏より補足:「GXR」は実際、「GX」と銀塩一眼レフの「XR」から受け継いでいます。



 今回の記事は2回(上/下)にわたり、このGXRのメカ設計裏話を紹介していく。「上」では「システム(メカ構成)の切り分け検討」、次回の「下」では「着脱機構や操作感覚の検討」を主に取り上げ、デジタルカメラの開発現場がどんな様子なのか、お伝えしていく。

GXR:レンズ周りがスライドで外れる

 この製品について、詳しいことは「ITmedia +D LifeStyle」の記事(以下、関連記事)でご覧いただきたい。


GRDの設計の背後でこっそり動いていた「やっかいなヤツ」

 「当社はデザイン(デザイン区)と設計・開発(開発区)が別事業部になります。GXRの構想は、デザイン区が先行して行っていました。私たち開発部隊が、GR DIGITALの開発に一段落つけたころのようです。企画区とは連携していたようですが、開発区にはほとんど相談はなかったです」と篠原氏は話す。知らないうちが、花だった!? まさかこんな話が待ち構えていたなんて……。

 いまから約2年前(2007年)のある日、デザイン担当が企画担当、設計担当との打ち合わせに持ってきたのは、GR DIGITALの外形形状を基に、レンズ部がごっそりと外れるように作ったデザイン案(写真)。

GXRのデザイン案

 いまの製品と比べると、小さい。「企画区やデザイン区は理想形態を想定するので、製品は得てして、要求よりも成長してしまう」と篠原氏。ともあれこの時点では、レンズ部が外れること以外のコンセプトが不明確で、非常にざっくりとした案だったという。

上から、GR DIGITAL(製品)、GXRのデザイン案のモック、GXR(製品)

 「デザインは別に、GRに固執したわけではなかったようです。何か次に、新しくて面白いものができるか、考えてみたアイデアの1つが『レンズの部分が外せると、いいんじゃない?』ということでした」――これは、やっかいな案件がきた。篠原氏は正直、そう思ったという。

 その案件は、これまでリコーが、デジカメの世界では取り組んでこなかった領域への第一歩であって、その構想はさまざまなアイデアやニーズを喚起し、同社の可能性を広げるものだということは、篠原氏も当然、重々理解していたのだが、「現実的にはめちゃくちゃ高いハードルだ」という気持ちが、同氏の心中ではどうしても勝ってしまう。

 リコーがこれまで得意としてきたコンデジは、一体で完結した単体製品。ところが、デザインが持ち込んできたのは……2つのものが組み合わさるという「システム製品」。つまり“組み合わせ”が生じることによって、互換性の確保や検証条件の増加といったさまざまな障壁が発生してくることになる。 何よりメカ設計者と

しては、強度や耐久性、操作性といったさまざまな課題をクリアした着脱機構を開発しなければならない。

 外形的には、少なくとも、縦横高さともにカバー2枚分ずつ大きくなり、不利になることも必至。そのうえデザイン&企画側からは、「銀塩GRの外形を超えてほしくない」(幅117mm、高さ61mm、奥行き26.5mm)とのリクエスト……。

 このように、ざっと考えただけでも、これまでの開発とくらべ、道の険しさがうかがえる。設計課題は案の定、面倒なことばかりとなった。

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