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» 2010年01月27日 00時00分 公開

モノづくり最前線レポート(16):「動的」知財マネジメントが円盤型市場を切り開く (2/2)

[原田美穂,@IT MONOist]
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HOPSで経験した苦い思い、ヘルシアの経験とサントリーの知財戦略

 サントリーホールディング 常務執行役員 R&D企画部長 生産部・知的財産部担当で農学博士でもある辻村 英雄氏は、実際の企業事例として、サントリーが直面した“知財ショック”の状況と、現在の取り組みについて披露した。

 辻村氏によると、洋酒やソフトドリンクを中心とした食品の販売が中心の業界は「基本的にイノベーションを起こしにくい」。製品ライフサイクルが非常に短く、日々新製品開発に奔走しなくてはならないため、「他の産業と比べて食品業界は飲料の原材料についていちいち特許取得するという風潮は少なかった」という。

 そのような業界に、せっけんや入浴剤などで知られる花王が特定保健用食品の認定を受けた「ヘルシア」ブランドを投入。メタボリックシンドローム対策がうたわれた当時、特定保健用食品に認定された同製品は、「メタボ対策飲料」という市場を作り上げた。

 サントリーもこの市場に参入すべくリサーチをかけたところ、いわゆる「パラメータ特許」によって製品原材料の配合などを含む製品製法にかかわる特許がすべて取得されている状況だったという。これが障壁となり、市場参入を断念せざるを得なかったのだ。一方の花王は、機能性飲料として付加価値が高く、製品単価も高く販売できる強いブランドを獲得、食品業界での地位を確立したといえる。

 「こうした知財への取り組み方は、飲料を中心とする食品業界ではあまり行われてこなかった。異業界から参入してきた花王が持つ知財ノウハウを知ったことは非常にインパクトがあった」(辻村氏)

 「パラメータ特許」とは特別にこうした呼称の特許分野があるわけではなく、特許のうちで製法などについて数学的な方法を用いて物質値や物質それぞれの配合を変数として規定する内容を含む特許を指す場合が多い。

 パラメータ特許にも抜け道はある。数値演算で表現されるパラメータ特許においては、数学表現的な「穴」が存在する場合、そこを突いて権利を主張することも原理上不可能ではない。しかし、花王は「ヘルシア」製品だけで数百もの特許を取得している。筆者はそのそれぞれを個別に検証したわけではないので推測になるが、およそ考えられる穴はすでに対処されていたのではないだろうか。

 第2のビールと言われた発泡酒市場についても知財に関する苦い経験があるという。

 酒税法の改正を端緒としたビール値上げ問題への対応として、サントリーは早い段階で、ビールと近い風味を実現した発泡酒「サントリー HOPS」を発売、市場を開拓した。にもかかわらず、製法の独占などといった対策を行わなかった結果、業界でアドバンテージを取ることができなかった。知財による製品保護という考えがあまり浸透していなかった時代でもある。

 「結果的に競合他社の参入を許してしまうことになった」

 と辻村氏は振り返る。これらの出来事が、同社の製品開発や事業戦略と知財マネジメントを考えるうえで大きな転換ポイントの1つとなったようだ。

 現在、同社では辻村氏を中心として、積極的な知財戦略づくりが行われているという。例えば同社が販売する健康食品「セサミン」は、その製法を特許によって保護している。販売においても通信販売方式を採用するなど、流通や生産も含めた戦略を実行し、結果が出始めている。

 「これからは、事業戦略や研究開発と同様に知財戦略の『三位一体』での企業活動が重要になってくる。知財マネジメントは経営レベルでの戦略と、実務レベルでの戦術を持って行うべきと考える」(辻村氏)

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