設計者CAEも、そろそろレベルアップしなくちゃ!ベンダさん、全員集合! 設計者CAE討論(1)(2/3 ページ)

» 2010年01月29日 00時00分 公開
[小林由美MONOist]

解析における座学教育の必要性

――いまの設計現場は、それを設計者が理解できるかどうかはともかく、解析結果の数値(絶対値に近い値)について言及しなければならない状況に追い込まれつつあるといえます。ですが、そんな状況とは裏腹に、設計者の解析に関する基礎知識が大きく欠落していることが大きな問題であると栗崎氏は指摘します。

栗崎 解析に関する知識の浅いユーザーさんは、デフォルトのメッシュサイズを使い 、自動で解いて、それが正しい答えだと思ってしまいます。ところがちょっと知っているユーザーさんなら メッシュサイズを変え、何回か解析し、変位が安定してきたところで、「さて、このあたりを取ってみようか」と応力を見にいくものかと。そもそも有限要素解析では、変位、ひずみが求まり、そして応力が求まることを知らないユーザーさんがたくさんいらっしゃる。それにもかかわらず、まず応力を見ようとするユーザーさんが、多いこと……。

>>設計者の材料力学に関する知識の現状は「仕事にちゃんと役立つ材料力学」で説明されています。

 私どもでは、『解析工房』という解析教育のプログラムを運営しています。ソフトの操作そのものを教わる機会はたくさんあるけれど、解析をする以前の基礎知識(座学)を習得する機会がないといって、私どものプログラムを受けにこられるのです。「ミーゼス応力って何」「主応力って何」「どっちをどういうときに使えばいいの」って、本当に純粋で基本的なことで悩んでいらっしゃる。

 そこで、各ベンダの皆さんには、解析のための座学教育についてどうお考えか、ぜひお尋ねしたいのですよ。もし御社で、解析工房のような取り組みがあれば、まずそこに行くと私は思うんですよね。受講料も私どもよりずっと安くできるでしょうし。それなのに、高いお金を払ってでも、わざわざこのような小さな会社にきてしまうのです。私どもは嬉しいのですが……。

CFdesignジャパンの張 明氏

 私が知っている限りですが、流体解析ソフトを扱うベンダさんのほとんどが、座学教育プログラムに取り組んでいます。無償の講座も、よくやっていますし。私がかつて在籍した大手の解析ベンダでも、流体の基礎講座をやっていました。ユーザーさんの意見を聞きながら、分かりやすく丁寧な資料をそろえていました。流体解析の思想そのものだけではなく、伝熱、複射、燃焼、連成解析……などそれにまつわるすべての知識をカバーしています。当社自身はまだ小さいですが、お客さまのニーズを聞きながら、セミナーを充実させようとしております

芸林 当社では定期的なものとしては、やっていません。ただコンサルティングサービスの一環として、お客さんの要望があった場合で、似たようなことをした実績はあります。ただ、それが重要だとは常日頃から感じているんです。私自身も、ぜひ受けてみたいですし(笑)

 当社はスタートしてからまだ1年半ほどなので、現実的には操作関連のセミナーしか開けていない状況です。ただ村田製作所の社内ツールとして長年使ってきた中で、材料力学や有限要素法の教育をずっとやってきたので、そのノウハウや資料の蓄積があります。あとはユーザーさんからどれくらいの要望があがるかです。私どもも、座学教育のニーズは確実にあり、かつ重要であると認識しています。当社のソフトはカバーしている範囲は広い(7種類の解析をカバー)こともあって、どういうコースを用意したらいいか、まだ構想をしている最中です。

笹谷 当社では『なでしこクラブ』という女性ユーザーさん限定の樹脂流動解析の勉強会を無償で開催しています。ここでは操作トレーニングが主体ではなく、金型の基礎知識や、成形不良の種類・発生原因や、客先工場の見学などを実施しています。ただ、このような活動をそれ以外の一般層に広げていこうとすると、(当社が)キャパシティオーバーしてしまうため、そこに留めているのが現状です。

芸林 それを望んでいる方は、確実にいると思うんです。ただ、私自身がお客さんとしゃべっていて、その要望を直接聞くことがあまりないんですよね……。

キャドラボの栗崎 彰氏

栗崎 お客さんが、レベル高い方々ばかりだから?

芸林 うーん……それか……、お客さんが恥ずかしいのかもしれない(笑)もしくは、私にいってもしょうがないと思われているのか。

 ある程度、(ベンダさんに対して)抑えている部分があるのではないですかね? そういう座学習得の場は、ユーザーさん自身が用意するものであって、ベンダ側の人にお願いすることじゃないと思っていらっしゃるのかも。

栗崎 なるほど。

芸林 正直いえば、そういうスタンスでもあります。

栗崎 私は、MONOistであのような基礎知識の連載を書いているから、「この人だったら」と思って 話をしてくれるのかもしれませんが……。

選定や導入の際の注意点

――「どうか、ここだけは気をつけて!」という、導入失敗を回避するための注意点はありますか?

栗崎  本音でも建前でも結構です。すごく重要なことだと思います。

芸林 導入と併せてコンサルティングも受けることが大事だと思います。適切にコンサルティングを受ければ、間違いなく使えるようになります。

栗崎 コンサルティングの併用が一番というわけですね。逆にそこがボトルネックにはなりませんか? コストもかかりますから。

芸林 「操作は分かるけれど、その結果に自信が持てない」では、使われなくなって終わりですよね。それは結局、余計なコストがかかってしまうだけになるのではないでしょうか。それから、導入やコンサルティングを受ける以前に、まず“意気込み”が大事かもしれません。「取りあえず、上からやれといわれたからいれた」では、うまくいかないことが多いです。当社としてはもちろん、買っていただきたい。でも、「いわれたから……」ではやはり、失敗してしまい、その購入が無駄になってしまうというケースが多くなります。会社の仕組みの問題もあるのかもしれませんが、ともかくそれが「決定事項」であって「やらなくちゃいけない」、「業務の評価に影響する」ということなら、ユーザーさん自らが奮い立ってやるものではないかと。

栗崎 とてもいいご意見ですね。要はコンサルティングによって、そのアプリケ−ションに関して知識と経験が深い人から、それを最短期間で伝えてもらおう。そして、それを受け入れるだけの高いモチベーションも持ちましょうっていうことですね。

 当社の製品はいまのところ、どちらかというとより、トップダウンの導入よりは、現場の担当さんがフリーの試用版(3カ間:機能制限なし)を実際に使い、気に入ってくださった後に購入してくださるというケースが多いです。担当者さん自身でしっかり判断してもらい、導入してもらうルートになっているせいか、「導入したものの使われない」という状態にはなりにくいようですね。やはり注意点としては、「ボトルネックを評価せずに購入してはならない」ことではないかと。

栗崎 貴重な意見ですね。ちゃんと評価しなければ、ボトルネックになるぞということですね。

面白いコメントが出ると、笑いがわきます

 私自身もずっとメーカー(村田製作所)の人間だったもので、実際、経験をしたのですが、解析ソフトウェアを自社で導入する際、ベンチマークをその道のプロがやるというケースが結構ありますよね。ただ、それがいざ、担当者レベルまで落ちてきたときに、うまく使えないということがよくありました。ベンダの担当者さんにベンチマークさせると、チャンピオンデータが出てきちゃうでしょう? しかも、決裁者の方がそれをすっかり信じてしまうという……。

栗崎 私もかつて、そんな“チャンピオンデータ”をたくさん作ってきたものです……(笑)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.