SolidWorksがついにクラウドへ――基盤はENOVIA V6SolidWorks 2011の概要が明らかに

» 2010年02月04日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 米ダッソー・システムズ・ソリッドワークスは、同社の3次元CADの新版「SolidWorks 2011」に実装予定の新機能の一部について、同社のプライベートイベント「SolidWorks World 2010」(2010年1月31〜2月3日に米国・カルフォルニア州アナハイムで開催)のゼネラルセッションで明かした。今年も、ユーザー要望トップ10を基にして新機能を検討した。新バージョンは、前バージョン「SolidWorks 2010」と比較して、メモリ専有量が減り、460Mバイト程度の軽量化が図られているという。また2次元のドローイングや3次元モデリング関連機能の改善もする。

 モデリング関連では、一部のフィーチャを自動的に取り除く機能を追加する。例えばデータを社外に出す際、機密にかかわる部分や、技術的に重要な部分などを隠ぺいできるようになるという。この機能は日本の顧客から多く寄せられた要望とのことだ。コア技術に関する情報漏えいリスクへの対策はいままでも行われていたが、従来は、複雑な形状のデータに対策する際に、データがエラーになってしまう(化けてしまう)場合もあり得た。

上が本来のモデル。下が不必要なフィーチャを取り除いたモデル

 また細かな機能としては、回転フィーチャを作る際、従来は押し出し量を数値入力で制御するしかなかったが、今回は押し出しを止めたい面を指定できるようにした。溶接のモデリングでは、ライトウェイト(データ量軽減)機能が付いたことで、従来はモデル表示の処理で大きな負担となりがちだった複雑な溶接形状をストレスなく作成することが可能とのこと。またウェルドテーブル(溶接指示のリスト)の作成機能も改善する。

 2次元のドローイングでは、入り組んだ寸法を自動的に整理できる機能を追加する。また穴寸法のテーブル表示では、mmとinchの両方を表示できるようにする。これは、寸法の単位が違う国同士で図面をやりとりする際に活躍する機能とのこと。

 構造解析でも新機能を追加する。通常あるような3次元モデルの解析ではなく、2次元の断面を基にした解析が可能になる。ユーザーが解こうとする問題を簡略化するとき、あるいは教育の現場などで役立つ機能とのこと。2次元で計算処理をするため、3次元での解析よりも処理スピードが格段に速くなるという。

 またこれまでスタンドアロン版で提供していた、「PhotoView 360」をSolidWorks 2011に組み込む。これにより、SolidWorks上で、レンダリングをかけたアニメーションの生成、フォトリアライゼーション機能などが実現する。

レンダリング機能

 ほかにはパイピング機能の向上も挙げられた。パイプをモデリングする際の初期位置を矢印や分度器のようなGUIでコントロール可能。従来の作業では、3次元曲線を使い定義していたため、独特で少々コツのいる操作が必要な3次元曲線の作図になれないユーザーにはうまく扱えない機能だった。

 また、パイピングされた設備内のウォークスルー機能では、カメラの方向のコントロールがGUIにより容易になり、アバターも置けるようにした。

ウォークスルーの機能:中央がナビゲーション。その手前に2体のアバター

 2010まではモデルの再構築を行う際、処理時間への影響度合いの大きなフィーチャを表示する機能があったが、2011からは、さらに影響度の情報を基に再構築から除外する機能(フィーチャーロック)を追加する。この機能も、日本ユーザーからのリクエストが特に多かったという。

再構築の際のフィーチャーロック機能

 このほか「SolidWorks Enterprise PDM 2011」では、出図をする前に、社内規格などに準拠しているかどうかチェックができる「デザインチェッカー」を追加する。

Product DATA Sharing(PDS)

米ダッソー・システムズ・ソリッド ワークス CEO Jeff Ray氏

 さらにゼネラルセッションでは、同社の親会社であるダッソー・システムズの「ENOVIA V6」をバックボーンとした「Product DATA Sharing(PDS)」を発表。Web上にあるシェアリングシステムを利用し、そこに蓄積したモデルを複数のユーザーで共有することが可能だ。SolidWorks 2011の画面、右側に表示させることができ、そこから3次元モデルデータを取り出す、あるいは戻すことが可能だ。PDMを入れるには、設備投資の費用や人員が厳しいような小さな企業および組織に向いているとのこと。

 「クラウド(Web)上に置いたデータは、ローカルのデータよりもむしろ安全ではないだろうか。例えば家に金を置いておくか、銀行に預けておくかの話と似ていると思う」と同社CEOのJeff Ray氏は語った。

 別のセッションでは、クラウドコンピューティングを活用したSolidWorksの未来像として、SolidWorksのプログラム本体をWeb上に置き、OSに依存しない環境のデモンストレーションが行われた。Mac OSを搭載したラップトップPCでSolidWorksのWebアプリケーションにアクセスし、アイコンを指でタッチする、あるいはペンで画面にタッチして絵を書くようにモデリングする様子などを紹介した。ただし、このシステムを実用化するには、さまざまな問題をクリアしなければならず、あくまで研究段階のものだという。

デモの様子

 「今後もENOVIAを基盤としたSolidWorksの開発は進められていく。将来、いまのようなスタンドアロンの形ではなく、クラウド化したSolidWorksも出てくるかもしれないが、あくまでオプション。例えば新しいSolidWorksにもれなく実装してしまうようなことは、当社では考えていない」(Ray氏)

 SolidWorks 2011は、2010年中の発売を予定している。価格は未定。

 同社の発表によれば、2010年2月1日〜3日(米国時間)に開催したSolidWorks World 2010来場者は5000人を超えたという。来年はテキサス州のサンアントニオ・コンベンションセンターで開催するとのことだ。

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