国際安全規格から見るサービスロボット産業Windows Embeddedセミナーレポート(4)(1/3 ページ)

組み込みシステム・ソフトウェアに関する各種勉強会や情報交換会、セミナーなどを通じて、教育と研究・技術開発の両面において広範囲な産学連携活動の場を提供する「組込みシステム研究会」は、新潟・長岡技術科学大学で組み込みセミナーを実施。マイクロソフトや地元長岡の組み込み関連企業、組み込み関連の業界団体が講演を行った。

» 2010年02月12日 00時00分 公開
[八木沢篤@IT MONOist]

 2010年2月9日、組み込みシステム・ソフトウェアに関する各種勉強会や情報交換会、セミナーなどを通じて、教育と研究・技術開発の両面において広範囲な産学連携活動の場を提供する「組込みシステム研究会」は、新潟・長岡技術科学大学において組み込みセミナーを実施。マイクロソフトや長岡に拠点を置く組み込み関連企業、業界団体の有識者が招かれ、組み込みシステムに関するさまざまな講演が行われた。

 本稿では最初に登壇した長岡技術科学大学 技術経営研究科 システム安全専攻 准教授 木村 哲也氏の講演を中心に同セミナーの模様をお届けする。



国際安全規格から見るサービスロボット産業の展望と組み込みシステムへの期待

――サービスロボット安全国際規格(ISO13482:Robots and robotic devices - Safety requirements - Non-medical personal care robot)の発行も数年以内に予定され、また国内外でサービスロボットの産業化につながる社会的・技術的制度の整備も進められているという。

木村 哲也氏 画像1 長岡技術科学大学 技術経営研究科 システム安全専攻 准教授 木村 哲也氏

 最初の講演では、ロボットの制御工学、レスキューロボットの研究を経て、現在、主にロボットの安全性の研究に取り組む長岡技術科学大学 技術経営研究科 システム安全専攻 准教授 木村 哲也氏が登壇。「国際安全規格から見るサービスロボット産業の展望と組み込みシステムへの期待」と題し、講演を行った。

安全に対する考え方のギャップ

 「日本の“安全”の考え方は、国際的に見るとズレがある」。これは木村氏が安全性に関する研究に着手したばかりのころ、よく関係者・有識者から聞かされた言葉だそうだ。

 この指摘に対し、当初、木村氏は「日本の製品は世界中で売れているというのに何が違うのか?」「安全とは、そもそも使う人に注意してもらえばいいものではないか?」と疑問に感じていたという。しかし、いざ国際安全規格(ISO/IEC)を紐(ひも)解くと「人に頼った安全はNG。まず、設計・開発側が技術で安全性を高められるかを突き詰めること。そのうえで、使用者にゆだねるとあり、優先順位が明確に決められていることに気が付かされた」と木村氏はいう。

 そもそも安全性の問題は、「実際の事故、もしくは内部告発が起こるまで顕在化しづらい」(木村氏)。現在、事故が起こっていない状況でも、「それがたまたまなのか、きちんと安全性が配慮されているのか区別が難しい」と木村氏は語る。そのため、「安全の手抜きもできてしまう」と木村氏は警鐘を鳴らす。――2010年2月8日、航空機用の座席製造の安全試験結果を改ざんしたとして、小糸工業が業務改善勧告を受けたニュースは記憶に新しい。その理由は「試験に失敗すると納期が間に合わなくなるため」だったとか……。

 では、手抜きが原因で実際に事故が起こったらどうなるのか? 訴訟社会といえる米国では懲罰的な高額の賠償金支払いが開発元に科せられるだろう。では、欧州はどうか? 「欧州は懲罰的な裁判に頼るのではなく、社会制度として安全を担保する仕組みを設け、安全性を確保している」とCEマークを例に挙げて、木村氏は説明した。

 ヨーロッパのような強制的なマーク制度は中国や韓国でもはじまっているというが、「日本ではそこまで強制的な施策が取られていない」(木村氏)とのこと。日本の場合、事故が起きた後、本当に安全性に問題がなかったのかという追究がはじまり、そこで問題が発覚すれば賠償金を支払うというような流れが一般的だ。「賠償金も米国ほど懲罰的な意味合いは少ない。つまり、日本はどちらかというと消費者よりも製造元(開発者)にやさしい国といえる」(木村氏)と安全に対する意識のズレを指摘した。

夢物語ではなくなりつつあるサービスロボットの展望・課題

 続いて、本講演の主題であるサービスロボット産業の展望・課題、そして組み込みシステムに対する期待について木村氏の考えが披露された。

 「日本ではいま、新しいロボット産業が立ち上がろうとしている」。これまでロボットというと工場などで稼働する産業用ロボットが中心だったが、「サービスロボット」と呼ばれる人間の代わりに介護や除雪作業をしてくれるロボットが登場しつつあるのだ。少し前までは、サービスロボットの登場は“夢物語”だったが、本田技研工業のASIMOなどを見て分かるとおり、それは現実のものとなりつつある。それも「数年から10年くらいの間でビジネスとして成立するフェイズにまできている」と木村氏はいう。

 現在、急成長しているサービスロボット産業も当然、安全性について配慮しなければならない。木村氏は「NPO 安全工学研究所」の一員として、三菱重工のホームロボット「wakamaru」の安全鑑定を行った経験を紹介。「国際安全規格の視点からwakamaruが十分に安全かどうか、開発元が主張する安全性が妥当なものかどうかをチェックした」。現段階で、サービスロボットには定められた安全規格がない(関連規格がないため、認証ではなく鑑定となる)。そのため、製造元は第三者による安全設計レビューと立会い検査を依頼・実施し、現在の技術レベルで可能な限りのリスク低減が行われているかどうかを認定してもらうことで、安全への配慮責任を果たしているという。

wakamaruの安全鑑定(1)wakamaruの安全鑑定(2) 画像2(左) wakamaruの安全鑑定(1)/画像3(右) wakamaruの安全鑑定(2)

関連リンク:
wakamaru

 続いて、木村氏はサービスロボットの最大の魅力でもあり、最大の欠点として、“多様性”を挙げた。

 ある決められた目的で使用される産業用ロボットは、使用者、利用環境、利用方法が“一定”であるが、サービスロボットの場合、それらが多様であるとし、「これがサービスロボットの最大の魅力でもあり、最大の欠点でもある」(木村氏)と語った。レスキューロボットであれば、災害現場により環境はさまざまであるし、状況によって利用方法も変わってくる。さらに、空港や家庭内などで利用されるサービスロボットの場合は、利用者が子供からお年寄り(さらにはペット)まで実にさまざま……。「これらすべてにおいて安全性を担保することは非常に手間の掛かることだ」と木村氏はいう。

ロボット実用化での特徴 画像4 ロボット実用化での特徴

 ここで日本におけるサービスロボット産業の"いま”に目を向けてみよう。読者の皆さんは2005年に開催された愛知万博(愛・地球博)を覚えているだろうか。万博では、さまざまなロボットが披露され、開催期間中、長期間にわたりデモンストレーションを実施していたが、実はここで「国際安全規格に基づいた安全性のチェックもできるだけ実施していた」(木村氏)という。木村氏はこの万博を「次世代ロボットの元年」とし、その後、プレ普及段階を経て、2009年度から生活支援ロボット「実用化プロジェクト」がスタートしたことを紹介した。NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となるこのプロジェクトでは、ロボットの機能面ではなく、安全性にフォーカスし、今後5年間で検証と基準の確立を行い、さらに国際標準獲得を目指すという。詳細については「生活支援ロボットの実用化を目指したプロジェクトをスタート」を参照していただきたい。

米国におけるレスキューロボットへの取り組み

 次に、木村氏は日本よりもサービスロボットへの取り組みが先行している米国での災害対応ロボット(レスキューロボット)の技術標準化について紹介。米国では、利用環境・方法が多様なレスキューロボットを評価する標準化を検討し、実証する取り組みが進められているという。実際、実証試験場でレスキューロボットを動かして、技術標準に基づく評価、さらにレスキュー隊員による評価を行い、技術標準の精度を高める取り組みなどが進められているとのこと。

米国テキサスにある実証試験場の様子実証試験場で動かしている様子 画像5(左) 米国テキサスにある実証試験場の様子。つぶれた駐車場を再現した施設。普段はレスキュー隊のトレーニングにも使われているとのこと/画像6(右) 米国に招待され、長岡技術科学大学と地元長岡の鉄鋼関係の中小企業の集まりで共同開発したレスキューロボットを実証試験場で動かしている様子

 日本でも同様にロボットの安全性について検討が進んでいるが、米国の場合は軍事ロボットの技術をいかにしてレスキューロボットに応用するかという検討・標準化も進められているという。「日本ではあまり考えられない発想だが、米国では軍事ロボットは1つの産業として確立されている」(木村氏)。

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