知財戦略を実践すれば事業はうまくいくの!? 知財戦略と経営戦略・事業戦略自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識(2)(1/4 ページ)

知財戦略ってなに? お金になるの?? 知的財産戦略を実践して事業に貢献するために必要な機能・要素の定義から、本当に使える知識を身に付けよう

» 2010年02月18日 00時00分 公開
[野崎篤志/ランドンIP,@IT MONOist]

製品開発の戦略作りには技術特許のルールや、技術情報活用の利点を理解しておくことが重要。本連載では知的財産権にかかわるトラブルへの対処法から、特許技術情報を基にした戦略構築の手法までを紹介する(編集部)

前回の復習

 皆さん、こんにちは。日本技術貿易の野崎です。

 前回は知財マネジメントスキル総論のイントロとして、仮の企業“ロボットアーム工業”の路歩社長と地西さんに登場していただき、ロボットアーム工業に降りかかる知財リスクを通じて「なぜ知的財産が重要なのか?」を学んでいただきました。

 なぜリスク面から説明したかというと、事業の存続が危うくなるかもしれない! という危機的状況を思い描いていただかないと、なかなか知的財産の重要性を理解できないからです。

 以前、あるメーカーの元知的財産部長に「経営者や事業部・技術者の方に知財マインド(知財を重視する姿勢)を持ってもらうのに何かよい方法はあるでしょうか?」と質問したことがあります。その方の回答は「よい方法はない!」の一言でした。付け加えて「一番知財マインドが身に付く方法は、他社から特許侵害で訴えられることでしょうね」とおっしゃっていました。

 医療保険のありがたみが分かるのは実際にケガや病気をしてからです。もしも医療保険に加入していないと高額の医療費を自腹で支払わなければなりません。知的財産にもこのようなリスクマネジメント的な側面があります。しかし、知的財産にはリスクマネジメント的な側面だけではなく、積極的に活用することで事業を拡大していくための戦略ツールという側面もあります。今回は知財戦略・知財経営の基礎を学ぶことで、より積極的な意味合いでの知的財産の重要性を理解していただきたいと思います。

世の中にあふれている○○戦略

 最近、書店のビジネス書コーナーに行きましたか? ○○経営や○○戦略といった本のタイトルがあふれていると思います。思い付くままに挙げてみましょう(図1)。

図1 いろいろな○○戦略 図1 いろいろな○○戦略

 図1に示したように挙げていけばキリがありません注1。上記以外にもブルー・オーシャン戦略やコーオペラティブ戦略(協調戦略)など、次々に新たなカタカナ戦略も登場します。

 多種多様な戦略は存在しますが、その中でも企業にとって最も重要な戦略、それは経営戦略(注2)とその下位に位置する事業戦略です。複数の事業から成り立っている企業の場合、事業部ごとの事業戦略があり、その事業戦略を統括するのが経営戦略です。もしも企業が1つの事業で成り立っている場合、経営戦略=事業戦略となります。

 知的財産戦略だけではなく、マーケティング戦略や人事戦略・財務戦略といった各種オペレーション戦略(注3)は、あくまでも経営戦略・事業戦略あってのオペレーション戦略です。つまり、立派なオペレーション戦略があっても、上位戦略である肝心要の経営戦略・事業戦略がしっかりしていなければ、せっかくのオペレーション戦略も意味のないものとなってしまいます。あくまでも、経営戦略・事業戦略あっての知的財産戦略であり、図2のような関係になっていることをしっかりと覚えておいていただきたいと思います。

図2 経営戦略・事業戦略・オペレーション戦略の関係 図2 経営戦略・事業戦略・オペレーション戦略の関係

注1:知財戦略関連の戦略として知的財産戦略、特許戦略、デザイン戦略、標準化戦略の4つを挙げていますが、挙げようと思えば出願戦略、権利化戦略、ライセンス戦略、ブランド戦略など次々出てきます。

注2:全社戦略という場合もありますが、本連載では企業にとって最も上位概念の戦略を経営戦略と呼びます。

注3:機能別戦略とも呼びますが、本連載ではオペレーション戦略と呼びます。


そもそも戦略とは?

 図1でいろいろな戦略があることは分かりました。しかし、そもそも戦略とは何でしょうか?

 「戦略とは……」という定義には古今東西いろいろなものがありますが、ここでは酒井穣氏が『あたらしい戦略の教科書』で主張されている

戦略とは現在地と目的地を結ぶルート

出典:酒井穣著『あたらしい戦略の教科書


 を採用したいと思います。

 企業には目指すべき目的地があります。現在の企業の現在地(企業の内部環境〜自社の顧客や取引先・社員・研究開発レベルなど〜と企業を取り巻く外部環境〜市場・顧客や競合他社の状況〜)と、目指すべき目的との間に存在するギャップをどのようにして埋めていくか、その埋め方(=ルートの設定)が戦略になります。そのギャップを埋めることで、競合他社に対する競争優位性を構築し、それを維持・発展させていく必要があります。

 戦略の定義について確認したところで、知的財産戦略について定義したいと思います。

知的財産戦略とは、経営戦略・事業戦略の実現を知的財産の側面からサポートするための戦略


 と私は定義しています。知的財産戦略も経営戦略・事業戦略同様、現在の自社の状況と外部環境を照らし合わせたうえで、目指すべき目的との間にあるギャップの埋め方を考えることになりますが、知的財産戦略で目指すべき目的とは、あくまでも経営戦略・事業戦略で目指すべき目的と方向性が一致している必要があります。知的財産のための知的財産戦略というように自己目的化しないようにしなければいけません。

 また知的財産戦略と同様によく聞く知財経営(知的財産経営)については、

知財経営とは、知的財産を企業の重要な資源であると位置付けて、経営戦略・事業戦略に反映した経営


と定義しています。

 繰り返しになりますが、知的財産戦略・知財経営のいずれも、経営戦略・事業戦略の下位概念である点、知的財産側面から経営戦略・事業戦略の目的である競争優位性構築をサポートする点、この2点を理解していただきたいと思います。


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