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» 2010年03月10日 00時00分 公開

設計者CAEを始める前にシッカリ学ぶ有限要素法(7):3人中2人が間違える!? 片持ちばりの計算をしよう (2/3)

[栗崎 彰/キャドラボ,MONOist]

 さて断面2次モーメントの意味も分かったところで、早速片持ちばりの変形量を計算してみましょう。

 ぜひ自分で公式に代入してこの片持ちばりの変形量を手計算で求めてみてください。これと同じ例題を解析工房でも行っていますが、正解率はなんと30%! 約3人に1人しか正解できないのです。その原因のほとんどが単位換算とその位取りの間違いです。皆さんもぜひ自力でチャレンジして、自分がめでたく30%サイドなのか、残念ながら70%サイドなのか判定してみてください。

図4 片持ちばりの変形量の解答

 皆さんの解答はいかがでしたか。ちゃんとした答えが出るまで、ぜひチャレンジしてみてください。

同じ片持ちばりを有限要素法で解析してみる

 次に同じ片持ちばりのモデルを有限要素法のソフトウェアを使って計算してみましょう。皆さんが使っているソフトはさまざまだと思いますが、そのソフトウェアのクセや精度を把握するためにもぜひ同じように片持ちばりを解析してみてください。

 まずは手元にある設計者向けのCAEソフトで解析してみます。このソフトウェアは3次元CAD形状からカンタンに解析ができるものです。そして、その3次元CADソフトはメカ設計ではかなりメジャーなものです。3次元CADを解析モジュールとともにクリーンインストールし、何も設定を変更せずに解析してみました。

 このソフトウェアには、材料データベースが「参考として」存在します。金属の項目の中には「鉄」と「スチール」が……。普通だったら鉄を選んでしまうところですが、念のため鉄のヤング率を確かめてみると、「1.2GPa」! ほとんど軟鋼の半分ではないですか! おお、危ない……。危うく間違えるところでした。スチールは「2.0GPa」となっています。あくまでも「参考として」の材料データベースですが、ヤング率を確かめずに使ってしまう人もいるかもしれません。細心の注意を払ってもらいたいと思います。ひょっとしたら材料データがない方がまだミスが減らせるのではないでしょうか。ちょっと驚きましたが、気を取り直して、スチールを選んで早速解析してみました。

 これからいくつか変形図が登場します。ただ変形量があまりにも小さいため、それを可視化するために何倍かにデフォルメして表現していますのでご注意ください。すごく変形しているように見えますが、大げさに表現されているだけですよ。このソフトウェアがはじき出した答えは変形量が0.127mmで、理論解である0.218mmの60%弱の値です(図5)。

図5 変形量が0.127mm!?

 何も考えずに、何も数値を確かめずに解析してしまうと、こういう結果になるのです。本当は0.218mm変形するのに、0.127mmしか変形しないと思って設計してしまうことにもなりかねません。

 なぜ変形量が少ないのか……。その答えは四面体1次要素だからです。第5回で説明した四面体1次要素のデンジャラスなところがモロに出てきてしまったわけですね。原因も分かったところで、四面体2次要素にして再度解析してみました(図6)。

図6 四面体2次要素にすると変形量が0.224mm

 今度は変形量が0.224mmに。まあまあといったところの結果です。ちょっと気になるところはヤング率。現在は2.0GPaです。それを2.06GPaに変更して、さらにもう一度解析してみました(図7)。

図7 今度はヤング率をキッチリと手計算のもの合わせると0.217mm!

 今度は手計算で求めた答えとピッタリと一致しました。読者の皆さんは、もうとっくのとうにお気付きかと思いますが、ここでの教訓は2つ。

四面体1次要素は使わない

 これは前回もお話ししましたが、今回の実験で身をもって分かっていただけたと思います。それにしても要素のデフォルトが四面体1次要素ではマズいのです。

付録の材料データベースを信じてはいけない

 今回は材料データベースに惑わされました。「鉄」と「スチール」。鉄は純鉄に近いヤング率となっていて、スチールはいわゆる構造材で使われる鉄のヤング率でした。危うく鉄を使うところでした。ですから付録の材料データは信じてはいけません。今回使用したソフトウェアでは、一連の解析作業の流れの中でヤング率を目にする機会はありませんでした。せめてヤング率くらい表示してくれればいいのですが……。

栗サンの「一休みコラム」:僕はそれを神解析と呼ぶ

 この連載では、解析のはじめの一歩ともいうべき、すっごく初歩的な解析の話をさせていただいています。ところが世の中にはすごい解析がたくさんあるんですね。

 つい先日、衝突解析を扱うソフトウェア会社に訪問する機会がありました。車の衝突や原子炉のミサイル攻撃をシミュレーションするものです。そのカタログをいただいたのですが、普段は見慣れない人体モデルが……。解析というと機械モノばかりを扱ってきたので新鮮な驚きでした。骨格はもとより内臓の部位1つ1つまで、すべてがそろっています。しかも驚くことに、西洋人や東洋人、子供から老人まで、ありとあらゆる人体のモデルが存在するのです。しかも衝突の解析ですから、数百分の1秒という間の出来事……。どれほど複雑で難しい解析なのか、想像すらできません。

 車の衝突実験の代わりに使う、または人がぶつかっても“壊れない”という設計をするのではなくて、人を守るために“壊れる”設計(※壊れることで、衝撃を吸収する)をするのに使うのだろうなぁ、と思いをめぐらせてしまいました。人体モデルを見たときには、正直、ナマナマしい感じがしました。一見冷たそうで無機質で小難しい数値解析が、血の通ったものと交錯する一瞬ですね。

 このように、僕の想像すら及ばない解析が世の中にはたくさんあるはず。僕はそれを「神解析」と呼びます。これからもそういう世界を少しずつ垣間見たいと思います。



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