輝き放つ車載LED(1/5 ページ)

かつて、自動車で用いられるLEDと言えば、リアランプやメーターパネルの表示灯の光源として用いられる赤色もしくは黄色のものが中心であった。それに対し、現在ではへッドライトをはじめとするさまざまな自動車システムで高輝度の白色LEDが使用されるようになった。その結果、車載LEDの市場は大きく拡大しようとしている。本稿では、LED開発の歴史を概観した上で、LEDの特徴と、車載用途におけるLED採用のメリットについてまとめる。また、ヘッドライトをはじめとするLEDの採用事例や、車載用LEDドライバの開発動向について紹介する。

» 2010年04月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

自動車システムに最適、普及への課題はコスト

 発光デバイスとして、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)が発明されたのは1962年のことである。当初は、表示色が黄色〜赤色の波長域(600nm前後〜800nm)に限られており、輝度も低かったため、用途としては機器の動作表示用などに限られていた。

 LEDの適用範囲を広げるきっかけになったのが、1992年に発明された実用的な輝度を持つ青色LEDである。1995年には、この青色LEDのベース材料であるガリウム窒素(GaN)系材料を用いることにより緑色LEDが発明され、光の3原色である、赤、緑、青をLED光源で実現することが可能になった。そして、1996年には、青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせることにより、白色LEDが実用化された。この白色LEDの登場により、LEDを照明機器に適用するための道が開けたと言える。当初の白色LEDの発光効率は、白熱電球の1/3程度の5ルーメン(lm)/Wであった。しかし、その後開発が急速に進んだことにより、現在は100lm/Wを実現した量産製品が登場している。そして、LED電球などの照明器具や、液晶テレビのバックライトなど、白色LEDを用いた製品市場も急拡大している。

 民生用機器におけるLEDの採用拡大に合わせて、自動車システムへのLEDの採用も広がっている。調査会社の矢野経済研究所は、2009年の車載用LEDチップの世界市場規模を50億個と見込んでいる。この数字は、2008年比で37%増となっており、2007年の約2.1倍に相当する。そして、2010年には市場規模は66億個に達し、2015年には140億個まで拡大すると予測している。

 自動車におけるLEDの用途は、主に照明系と表示系のシステムに分けられる。照明系には、自動車の前方を照らすヘッドライト、自動車後方に設置するブレーキランプなどのリアランプ、さらにはマップランプなどの車室内照明がある。表示系としては、警告ランプの表示などを含めたメーターパネルと、カーナビゲーションシステム(カーナビ)などに用いられる液晶ディスプレイのバックライトが挙げられる。

LEDの特徴

 LEDの市場拡大を支えているのが、発光デバイスとしてのLEDの高い性能である。LEDは、白熱電球や蛍光灯と比べて、消費電力、寿命、デザインの自由度、制御性、環境に対する負荷の少なさなどの点で上回っている。

 まず、消費電力については、同じ明るさの照明器具であれば、白熱電球の約1/10、一般的な蛍光灯の約1/2で済むと言われている。電球を例にとると、消費電力が60W相当の白熱電球の明るさを得るには、電球型蛍光灯では約14W、LED電球では約6Wで済む。この省電力性能が、LEDに“エコ”なイメージを与えている最大の要因である。

 寿命(点灯時間)については、白熱電球が1000時間、蛍光灯が1万時間であるのに対して、LEDは10万時間と長い。ただし、照明器具に用いられる高輝度の白色LEDは、発熱によってLED素子とパッケージが劣化するため、寿命は数万時間程度にとどまる。

 また、LEDは、ほかのデバイスに比べてデザインの自由度が高いとされている。これは、発光原理の違いによるところが大きい。半導体素子そのものが発光するLEDは、小さくかつ平坦な形状の光源となる。一方、内部でフィラメントを発光させる白熱電球や、ガラス管内部の放電により蛍光体を発光させる蛍光灯は、一定以上の大きさが必要になる。さらに、LEDは、ほぼ理想的な点光源として扱うことができるため、白熱電球や蛍光灯では実現できないような形状の照明機器を設計可能なことも利点になり得る。

 制御性については、明るさ調節の性能指標である調光比の制御性と、発色性の2つに分けることができる。LEDでは、PWM(パルス幅変調)制御を行うことにより、明るさを0〜100%の間で自由に調節することが可能である。また、専用のLEDドライバICを用いれば、「非常に低い明るさ」といった調光なども高い精度で行える。一方、発色性については、赤色、緑色、青色のLEDとさまざまな蛍光体を組み合わせることで、白熱電球や、蛍光灯では実現できない色を作ることが可能だ。

 最後に、環境に対する負荷が少ない材料を用いるというLEDの利点は、主に蛍光灯との比較によるところが大きい。蛍光灯は、欧州の有害物質規制(電子機器のRoHS指令と自動車のELV指令)の規制対象物質である水銀を使用している。現在は、蛍光灯内の水銀は規制対象から除外されているものの、2012年からはこの除外規定が廃止される見込みである。例えば、液晶ディスプレイのバックライトの光源として用いられている冷陰極蛍光ランプ(CCFL)や、自動車のヘッドライトに用いられている高輝度放電ランプ(HID)は、蛍光灯と同じ原理で発光することもあって水銀が用いられている。このため、LEDによる代替や、水銀を用いない製品の開発が進められている。

 こういったLEDを使用する上でのメリットに対して、デメリットも指摘されている。最も大きなデメリットとなっているのが、高いコストである。2009年初頭の時点での電球型製品の価格を比較すると、LED電球が約8000円であるのに対して、白熱電球はその1/100、電球型蛍光灯は1/10程度だった。2009年後半に入り、価格競争によってLED電球の価格は4000円前後まで下落したが、依然として高コストである。ほかにも、物体を照らしたときの色の見え方の指標である演色性については、蛍光灯とは同等レベルであるものの、白熱電球よりは劣ると言われている。

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