東京高専が2度目のImagine Cup世界大会へImagine Cup 2010 組み込み部門レポート(2/2 ページ)

» 2010年04月06日 00時00分 公開
[八木沢篤,@IT MONOist]
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完成度の高さが際立った東京高専の電子母子手帳システム

 優勝した国立東京工業高等専門学校のCLFSは、昨年のエジプト大会でチーム内最年少だった有賀 雄基氏が中心となり、卒業した先輩たちに代わる新メンバー(久野 翔平氏、松本 士朗氏、Lydia LING YIENG CHEN氏)を集め、組織した新生チーム。

 前大会同様、日本の母子健康手帳の有効性(注1)に着目し、「幼児死亡率の引き下げ」「妊産婦の健康の改善」の2つの課題を解決するソリューションとして「Electronic Maternal and Child Health Handbook」を発表。体温計、体重計、メジャー、血圧計などの各種センサやカメラ、タッチパネルモニタを搭載したネットワーク対応の電子母子手帳システムを考案し、前回大会の内容をさらにブラッシュアップして、見事日本大会で優勝をもぎ取った。

電子母子手帳システムの構成 画像6 電子母子手帳システムの構成
※注1:日本の母子健康手帳の導入は1948年。1950年に6.01%だった乳幼児の死亡率が、2004年時点で0.28%まで減少しているという。


 彼らは日本の母子健康手帳が、妊娠から出産、育児におけるカルテ・教科書としての役割を果たしている点に注目。母子健康手帳が担う、1)妊娠から出産後までの妊婦の健康・生活状態、乳幼児の健康診断の結果を管理する「記録機能」と、2)妊娠・出産・育児に対する正しい知識、妊娠後の注意点、乳幼児に異変が生じた際の対処法などをサポートする「教材機能」の大きく2つの機能を組み込み技術で実現することを目指した。

母子健康手帳の機能 画像7 母子健康手帳の機能

 前述した各種センサによる日常的な母子の健康状態の記録・確認や、カメラとネットワークを利用した医師による遠隔診断などのほか、日常生活やトラブル時の対処法などを「ibisUI(Icon Based Instruction Set User Interface)」と呼ばれる独自のユーザーインターフェイスで直感的に表示する仕組みを用意。医師・医療サービス不足や識字率の低い地域への対応が図られている。

ibisUIのイメージ乳幼児の身体能力を確認する機能 画像8(左) ibisUIのイメージ。日本の文化の1つである漫画やアニメをヒントにした独自ユーザーインターフェイス/画像9(右) 乳幼児の身体能力を確認する機能。「はいはい」や「つかまり立ち」ができたかどうかを○×で記録する

乳幼児の身長を確認する機能バングラデシュのグラミンフォン 画像10(左) 乳幼児の身長を確認する機能。黄色い領域(青い線と線の間)に入っていれば順調に成長していることが分かる/画像11(右) 発展途上国でネットワークが利用できるのか? バングラデシュのグラミンフォンを紹介

 また、発展途上国などでの利用を考える際、ネットワークインフラの課題も懸念事項として挙げられるが、CLFSは発展途上国の中で最貧国といわれるバングラデシュのグラミンフォンを例に携帯電話による通信手段の可能性についても調査していた。

 昨年のソリューションをベースに開発を進められた点は、他チームよりも有利に働いた要素といえるが、世界大会初戦敗退という苦い経験をバネにソリューション以外の点をしっかりと改善してきた点も今回の結果につながったといえる。例えば、プレゼンテーションの流れをしっかりと練り込んでいる点や、有志メンバーのバックアップの下、ソリューションの概要を記した小冊子を作成したり、ibisUIで使われているアニメーションの改良を行ったりなど。10分間という短い時間の中で伝えたいことがしっかりと、そして簡潔にまとめられており、完成度の高さが特に際立っていた。

 今回CLFSのリーダーを務めた有賀氏は「前回は先輩たちの後について行けば何とかなるという感じだったが、今回のチームメンバーは皆年下。わたしがチームを引っ張っていかなければと思っている」と語り、1年前の彼からは想像もつかないほどたくましく成長を遂げていた。なお、日本大会で不在だったLydia氏は現在、母国マレーシアに一時帰国しており、現地での母子の健康に関する調査を行っているという。「調査結果を基にソリューション、プレゼンテーションをさらに磨き上げたい。実装面では、現在、実現できていないカメラや血圧計機能、ネットワーク機能を世界大会に向けて開発したい」と有賀氏。

 CLFSのソリューションについて、審査委員長を務めた神奈川工科大学 教授 木村 誠聡氏は「アイデア、システム、プレゼンテーションすべて良かった。世界大会では『このソリューションがなぜWindows Embedded CEでなければならなかったのか? スマートフォンで実現できるのでは?』といった質問を受ける可能性もある」と世界大会に向けたアドバイスを贈った。

旧CLFSのメンバー 画像12 有賀氏と昨年チームCLFSを結成し、エジプト大会に出場した先輩たち(左から佐藤 晶則氏、長田 学氏、宮内 龍之介氏)も応援に駆け付けていた

斬新なアイデアが光った組み込み開発部門 日本大会

 2位となった専修大学のGreen Islandは「環境の持続可能性の確保」をテーマに、マングローブを乗せた浮島を放流することで効果的に二酸化炭素を回収する人工浮島「Green Island」を提案。シェパードと呼ばれる人工浮島を中心にグループを形成し、衛星通信やBluetooth、WiMAXなどを用いて監視・管理しながら、自律航行を行うというもの。人工浮島を海に放流し、その上で木を育てるという発想は4チームの中で群を抜いていたように感じた。

人工浮島「Green Island」のイメージ衛星通信やBluetooth、WiMAXなどを用いて監視・管理 画像13(左) 人工浮島「Green Island」のイメージ/画像14(右) 衛星通信やBluetooth、WiMAXなどを用いて監視・管理

 3位となったサレジオ工業高等専門学校のSP2LCは、ミレニアム開発目標の中で「開発のためのグローバル・パートナーシップの構築」を選択。発展途上国が抱えるさまざまな問題を根本的に解決するためには、“政府が安定している必要がある”とし、移動型電子選挙システム「DeSK」を考案した。RFIDを用いることで選挙時の不正防止や電子化による集計作業の高速化を実現し、さらに小型端末の特性を生かし、遠隔地への出張投票所として利用可能な点をアピールした。

DeSKのシステム構成DeSKの投票方法理 画像15(左) DeSKのシステム構成/画像16(右) DeSKの投票方法理

 4位の大阪電気通信大学のKON!! は「普遍的な初等教育の達成」をテーマに、識字率の低い地域での初等教育を支援する「Visual expression of the structure of the homepage using Virtual Reality」を提案。文字を使わずに複数人で音声会話を交えながら、教育的価値の高いWebページを閲覧することで、識字率の低い人や学校が近くにない人でも授業を受けられるというもの。

システムイメージ(1)システムイメージ(2) 画像17(左) システムイメージ(1)/画像18(右) システムイメージ(2)

 斬新なアイデアという点では、専修大学のGreenIslandは(言葉は悪いが)世界大会ウケするような壮大なソリューションだったといえる。しかし、デモンストレーションができるまでの作り込みができていなかった点やプレゼンテーションの完成度で、CLFSには一歩及ばなかったように感じられた。そのほか2チームについても、やはりトータルの完成度でCLFSとの差が結果として表れてしまったといえる。



 Imagine Cup 2010 組み込み開発部門 日本大会の激闘を制し、2度目の世界大会行きを決めた国立東京工業高等専門学校のCLFS。本番まで残りわずかだが、自分たちのソリューションをさらに磨き上げ、ポーランドで大活躍してもらいたい! 7月に行われる世界大会での彼らの活躍については、また別の機会にお伝えできればと思う。

集合写真

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