Googleも想像しなかった“先を行く”Android展開組み込みAndroidレポート(1/2 ページ)

組み込み機器へAndroid適用を図るOESFは、先月「Android Steps Ahead 2010/Tokyo」を開催。講演と展示で示されたAndroidの“うねり”をリポート。

» 2010年05月12日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]

 4人の創設メンバーが「OESF(Open Embedded Software Foundation)」を立ち上げたのが2009年3月。「Androidの可能性はケータイにとどまらない」と訴え、オープンかつコモンな組み込み機器向けAndroidフレームワーク「OESF Embedded Master」の開発・普及に乗り出してから1年が経過したわけだ(Embedded Masterは、2010年3月に初公開され、同年6月末には「バージョン2」がリリース予定)。

 今回の「Android Steps Ahead 2010/Tokyo」は、その成果と近未来像を示すものだった。

わずか1年で組み込み業界に影響をもたらす存在に

 基調講演は、OESF代表理事の三浦 雅孝氏がメインスピーカーを務めた。まず、同氏はOESFの活動状況を説明。それによると、会員企業が当初の23社から8カ国73社に増え、コンシューマ電子機器の一大製造拠点である日本、韓国、中国、台湾、ベトナム(R&Dセンター)にオフィスを展開済みという。わずか1年でOESFは、組み込み業界に影響をもたらす存在になっている。

三浦 雅孝氏 画像1 基調講演メインスピーカーを務めたOESF代表理事の三浦 雅孝氏

 続いて、Androidデバイスの普及をドライブするAndroidスマートフォンの市場動向が紹介された。「全世界ですでに40機種以上のAndroidスマートフォンが出回り、Google CEOのシミュット氏によれば、現在1日6万台が出荷され、2、3年でiPhoneの市場シェアに追いつく見通しという。iPhoneにはないAndroidの特徴、オープンソース、ハードウェア非依存が強みになる」(三浦氏)。

 もちろん、OESFが目指すのは“Beyond Cell Phone”の領域だ。さらには、STB(Set-Top Box)やDPF(Digital Photo Frame)などホーム機器の領域も越え、自動車、オフィスにもAndroidデバイスを浸透させていく。基調講演では、さまざまなAndroidデバイスが稼働するリビングルーム“Digital Living”をステージ上にしつらえ、Beyond Cell Phoneが現実となりつつあることを実演してみせた。

 最初の実演では、仕事から帰ってリビングでくつろぐという体の三浦氏が「ニュースでも読もうか」と手に取ったのは、Androidベースの電子書籍リーダー、Barnes&Noble製「nook」とSpring Design製「Alex」である。「米国ではKindleがすごい勢いで売れているが、電子ブックリーダーは数年のうちに日本でもブレークし、大きなビジネス機会となるだろう」(三浦氏)。

Androidデバイスによる“Digital Living”をデモンストレーション 画像2 Androidデバイスによる“Digital Living”をデモンストレーション

 国内で初披露となったAlexは、6インチのE Inkディスプレイ、3.5インチのタッチパネル液晶のデュアル画面を持つユニークな製品。当日はブースでの実機展示も行われ、来場者から関心を集めていた(ハフトテクノロジーにより2010年夏にも国内で発売予定)。タッチパネル液晶で音楽アプリケーションを稼働させながらE Inkディスプレイで書籍を読んだり、「WebView」(Webブラウザ)などデュアル画面対応のAndroidアプリケーションを楽しめる。

デュアル画面がユニークなAndroidベース電子書籍リーダー「Alex」 画像3 デュアル画面がユニークなAndroidベース電子書籍リーダー「Alex」

 続いての実演は、Androidを活用したSTB&IPコミュニケーションだった。デモ機のSTBには、Home Jinniのメディアセンターソフト、Sigma Designsのメディアプロセッサ、MIPS Technologiesのプロセッサコア、D2 Technologyの組み込みVoIPソフトが使われていた。三浦氏はSTBに録画した番組やビデオ作品を1080p解像度でスムーズに再生する一方、YouTubeやJoostに接続したり、テレビ画面に表示されたIP電話の着信に応対してみせた。

 MIPSがAndroidを積極的にサポートしはじめたことにより、デジタル家電で多用される高機能・高性能なMIPS系SoCをAndroidデバイスに活用しやすくなった。これは組み込み機器へのAndroid適用にかなりの追い風になりそうだ。なお、OESFのEmbedded Masterは当初、対応プロセッサはARMコアだけだったが、現在は「Enhanced MIPS32 CPU Core」もサポートしている。

MIPSベースSOCを搭載したAndroid STB 画像4 MIPSベースSOCを搭載したAndroid STB。メディアセンターソフトはカナダHome Jinniの製品を採用している

 さらに、世界各国の企業が開発したさまざまなAndroidデバイスの実演が見られた。KDDIの“スマートブック”「IS01」は、ネットブックとスマートフォンの中間で新領域を開きそうだった。仏ARCHOSのMID(Multimedia Internet Device)「ARCHOS 5 internet tablet」は、クレードルを介したHDMI接続でテレビ表示が可能なのに加え、DLNAプレーヤ機能を有し、ほかのデジタル機器に保存されたコンテンツを表示できた。中国の精伦电子のSTB「天幕H3」では、AV制御やマウスパッドを統合したBluetooth対応キーボードが目を引いた。スウェーデンPeople of Lavaが“世界初のAndroid TV”とうたう「Scandinavia」では当然、Google MapやYouTubeが自然に扱えた。

 続いて「あらゆるAndroidデバイスは“クラウド”につながる」として、Androidデバイスとクラウドサービスの連携例が提示された。その1つがスマートグリッドである。管理画面が紹介されたThe Energy Detectiveのスマートメーター「TED 5000」は、すでにGoogleのWebアプリケーション「PowerMeter」とAPI連携を果たしており、Webブラウザを搭載したAndroidデバイスで家庭の電力消費状況をリアルタイムにチェックできる。当然、近いうちにTED 5000向けのAndroidアプリケーションも登場してくるだろう(iPhoneアプリケーションはすでに登場)。

伊藤 篤氏 画像5 ヘルスケア分野でのAndroidデバイスとクラウドサービスの連携を語るKDDI研究所の伊藤 篤氏

 ヘルスケアもクラウド連携が期待される分野という。ここでゲストスピーカーとしてKDDI研究所の伊藤 篤氏が登壇。自社のAndroidベースSTBで次のようなアイデアを実演してみせた。デジタル体重計の測定データをBluetooth経由でSTBへ転送。そこからクラウド上の管理サーバに再転送・蓄積し、STBやスマートフォンでビジュアルな閲覧を可能する。これなら場所を選ばず、家族や医師との情報共有も可能である。「アクセス手段が固定かモバイルかに関係なく、同じコンテンツをさまざまな端末で利用できるようにするのがFMC(Fixed Mobile Convergence)の考えだが、同じアプリケーションをさまざまな端末に搭載できるAndroidならば、容易にFMCを実現できる」(伊藤氏)。

 次に取り上げられた車載分野もAndroid適用が着々と進んでいるようだ。世界初の“Androidカーナビ”といわれた中国Archermindの製品は、実際に2010年春から上海汽車のセダンにビルトインされはじめたという。世界的にはiPhoneの最大ライバルとなるMotolora「Droid」は、PND(Portable Navigation Device)機能の評価が高い。国産製品としては、OESFのAutomotiveワーキンググループ(WG)のコーディネータを務めるミックウェアがPND製品を披露した。

Androidを搭載した車載製品 画像6 Androidを搭載した車載製品。中国Archermindの製品はすでに量産車へのビルトインがはじまっている
山内 健太郎氏 画像7 「ツナガル」が自動車の基本機能になると語るミックウェアの山内 健太郎氏

 ゲストスピーカーとして登壇したミックウェアの山内 健太郎氏は次のように話した。「環境保全と安全性が課題である自動車では“ツナガリ”が走る・曲がる・止まると同じ基本機能となってくる。携帯端末、人、車、街、スマートグリッドやクラウド……。あらゆるものとつながりながら最適に走行する。その世界をAndroidで実現したい」。OESFのAutomotive WGにはカーナビ専業大手の富士通テンやアルパインも参加を果たし、活発化しているようだ。

 先に発表されて注目を集めていた「OESF Market Place SDK」についても、リーディング・エッジの山本 昭弘氏より説明がなされた。同SDKは要するに、iPhoneの「App Store」、Androidスマートフォン向けの「Android Market」と同じアプリケーション流通基盤を組み込み機器向けで構築することを支援するもの。機器メーカーやキャリア、ソフトサプライがそれぞれバラバラの流通基盤を立ち上げても、ユーザー、開発者にとっては使いにくく、基盤も集約されない。OESFとしては同SDKにより標準化を図りたい考えだ。

 山本氏は「6月末公開のEmbedded Master 2には、マーケットプレイスを利用するための機能を組み入れ、サプライヤにはAPIとデザインライブラリ、開発者にはJavaライブラリを供給する。われわれのSDKを利用したマーケットプレイスがすでに5、6つ立ち上がると聞いている」と話し、同SDKで構築したサイトでの商品購入を実演してみせた。iPhoneの成功を見ても分かるとおり、機器の普及にはアプリケーション流通市場の影響が大きいだけに注目されるだろう。


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