意思決定力のある“学習する組織”の構築セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(5)(1/3 ページ)

本稿では、日本企業の経営者が直面している重要な経営課題として、在庫をめぐるバリューチェーン内の不協和音と、団塊の世代の退職やグローバル化による組織学習の問題を取り上げ、S&OPプロセスを使ってどのように解決するかについてご紹介します。

» 2010年05月17日 00時00分 公開

機能別組織によるバリューチェーン内の不協和音

 作業を専門分化し効率性を高めるために誕生した機能別組織には、残念なことに、組織間の業務や活動の重複や対立がつきものです。とりわけ需要と供給を扱う部署の間では、製造側と営業側で需給バッファたる在庫の責任のなすり付け合いが頻繁に行われています。

 この「責任のなすり付け合い」というバリューチェーンにかかわる最重要テーマについて、筆者がコンサルティングや講演でしばしば紹介するお気に入りのストーリーを紹介することにしましょう。

在庫責任のなすり付け合いと製造業破滅へのスパイラル

 まず、図1をご覧ください。

図1 「製造業 破滅へのスパイラル」 図1 「製造業 破滅へのスパイラル」(拙著『図解ERPの導入』(日刊工業新聞社)参照)

 以降では、拙著『図解ERPの導入』を引用しながら「製造業 壊滅へのスパイラル」のストーリーを図1の右上から真下に向かって説明します。

 「営業が出してくる需要予測は金額表示であり、さらに顧客からのオーダーがギリギリまで確定しないため、数量で測る生産計画の作成にはまったく使い物にならない(1:以下、図中の番号を示す)。

 そこで、生産部門ではやむを得ず昨年の生産実績をベースに独自に生産・購買計画を作っている(2)

 当然の帰結として需給は一致せず(3)、営業からは、重要顧客の納期に間に合わないとして督促が多発し(4)、生産側ではやむを得ず緊急のスケジュール調整を行い、しかも採算の合わない小ロットでの生産を強いられることになる(5)

 だが一向に顧客サービスは改善される様子もない(6)。そこで、製造能力の向上を狙って機械を増設し、在庫の積み増しで対応しようとする(7)

 しかし、残念なことにスケジューリングがうまくいかないため、結果として、需給のアンバランスはますます広がり(8)、督促は慢性化し(9)、顧客サービスの悪化とコストの高騰というダブルパンチに見舞われる(10)。揚げ句の果てに競争力が低下してしまう(11)

 そこで、この事態を打開すべく経営陣から現場に改善の圧力が掛かるが(12)、マーケティング、営業、生産、購買、製品開発、財務といった部門の間で責任のなすり付け合いが発生する(13)

 組織は分裂状態となり(14)、生産性はますます低下し(15)、最終的には経営陣の交代(16)につながっていく、という製造業が破滅へと真っ逆さまに落ちていくストーリーです。

 さて、ここまでお聞きになった段階で、貴社の現状が特殊なケースではないことがお分かりのことと思います。

 症状の深刻さの程度を示すために図の右側にレベルを付記してみました。貴社の病状はどのステージにあると認識されているか挙手してみてください(注)。

 さて、読者皆さんの組織の症状はどのステージにあるのでしょうか?


注:拙著『図解ERPの導入』(参考文献1)より引用し、一部編集を加えています。


重要性が高まる「学習する組織」作り

内憂:団塊の世代の退職によるナレッジの消失

 日本企業は、欧米企業のように業務活動やプロセスをマニュアル化したりシステム化するといった「形式知」化を進めることは不得手で、長年、現場の経験や勘といった「暗黙知」に頼ったヤリクリによる組織運営を実施し、大きな成果を上げてきました。

 この方式がうまく回ったのは、現場に「技術は盗むもの」といった言葉が通用するやる気のある優秀な人材がそろっていたからにほかなりません。

 しかし、その暗黙知も、「2012年問題」とも称される団塊の世代の一斉退職により、一挙に失われるリスクを抱えています。

外憂:グローバル化が日本企業に強いるコミュニケーション能力の向上

 一方で国外に目を転じると、グローバル化によって、海外市場の代理店や販売会社などの販売拠点、そして生産拠点の海外移転などに伴って、バリューチェーンの各要素は分断されつつあります。加えて、プレーヤーとして、異なる人種、さまざまな言語、文化、そして習慣を持った人材が参画するようになり、彼らと円滑にコミュニケーションを取ることのできるマネジメントプロセスを構築する必要性が高まっています。

 また、ヒト・モノ・カネ・情報を巻き込んだグローバル化の大きなうねり、IT化の進展、さらには「百年に一度」と語られるリーマン・ショックを端に発した金融危機など、経営を取り巻くリスクに対して、競合他社より迅速に対応することのできる「学習する組織」の構築が急がれているのです。

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