製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

再発防止アプローチによる品質マネジメント改革いま考えるべき品質マネジメント改革(3)(2/6 ページ)

» 2010年07月08日 00時00分 公開

なぜ過去に経験した不具合を再発させてしまうのか?

 製造業の技術部門や品質保証部門の方から、「なぜか過去に経験した同じ不具合を再発させてしまう」というお話をよく伺います。それらの内容から以下の4つの理由に整理しました。

1)真の原因が究明されていない

 市場で発生した不具合の真の原因、根本原因を追究することは案外難しいことですが、大きく分けると2つの理由に分かれるようです。

 1つ目は、市場で発生した問題が再現できずに原因究明ができないことです。デジタル家電や最近の自動車のリコールで指摘された電子制御の問題がこれに相当します。これについては、メーカー側で電子的に操作ログをとるなどで対策を実施することが多くなってきており、今後もこのような対策を増加していく傾向にあるようです。

 2つ目は原因究明作業そのものが不十分で、根本原因まで分析がされていないことです。これは現場のサービスマンがそこまでのミッションをもっていないこと、技術的な知識が不足しているために根本原因に気が付かないこと、組織横断的に根本原因の究明や再発防止策の策定に対する取り組みが実施できていないこと、などが背景としてあります。技術的な課題以外に、組織的な課題もあることが見えてきます。

2)作成した設計ノウハウや再発防止策が分かりにくい

 不具合報告書や、設計ノウハウ・再発防止策は作成しているが、誰にでも理解できるような内容や記述方法になっておらず、コミュニケーション手段として機能をはたしていないことも挙げられます。用語が統一・標準化されていないこと、文字だけで報告されており図や写真がないため伝達が不十分であること、設計ノウハウに定量的な基準がないこと、設計ノウハウが作成された意図や経緯、過去の不具合との関係が把握できないこと、などが原因となっているようです。せっかく設計ノウハウや不具合報告を時間をかけて作成しても、実際の現場での活用がうまくされないともったいないと感じます。

3)デザインレビューでチェックのヌケモレが発生

 設計チェックリスト(設計ノウハウで構成したデザインレビューで用いるリスト)は多くの企業で作成されていますが、蓄積量が多くなりすぎ、逆にレビューモレが発生してしまう、という現象も挙げられます。

 設計ノウハウや再発防止策を蓄積されてはいるのですが、それらが体系的に整理・分類されていないことや、キーワードなどが設定されておらず検索や選別がしにくいことがデザインレビューでのチェックモレが発生する要因となっています。

 製品開発プロジェクトごとに難易度や市場要求が異なるために、適切な設計ノウハウやチェック項目を選択する必要があるのですが、プロジェクトマネージャの悩みはそこにあるのです。プロジェクトマネージャの経験や主観でチェック項目を選定することにより結果的にチェックモレが発生してしまう、チェック項目を絞りきれないためにチェック項目1件に対して十分な時間をかけられない、といったようなことです。

 多くの企業では品質ナレッジ(不具合報告や設計ノウハウ)は部門別のExcelのような表計算ソフトで管理されていて、企業レベルの品質ナレッジマネジメントが不十分な実態になっていると考えられます。ここにも組織的に解決せねばならない課題が見えてきます。

4)部門別に運用されている品質ナレッジ

 ここまでで、品質ナレッジ(不具合報告や設計ノウハウ)が部門別に管理・運用されている問題について述べましたが、運用プロセスが統制されていないことも、ナレッジマネジメントが有効に機能しない要因となっています。

 例えば、筆者は「最新の不具合報告がタイムリーにインプットされていないことが多く、データベースそのものが信用されていないので利用しない」といった設計者の意見を聞いたことがあります。これは情報の鮮度の問題で、品質情報システムの利用者はこの問題には非常に敏感になっています。

 この現象は、登録する側、活用する側の両方に影響がでるために、すぐにナレッジマネジメント運用の陳腐化を引き起こします。ナレッジマネジメントそのものは基幹業務でないため、実施されていなくても製品は開発できますし、業務は回ります。だからこそ、この運用統制ができているかどうかが、表面化しづらい企業の製品開発プロセスの質を決めるものになるのです。

 不具合情報やチェックリスト管理は「記載方法は統一されているが、部門管理が中心」という結果(連載第1回のデザインレビュープロセスの水準調査結果)から、運用は部門別になっている企業が多いという実態が報告されています。品質ナレッジマネジメント運用を「部門別管理」から「組織的管理」に変革することは製造業にとっての重要な課題ではないでしょうか。

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