動作経済の原則1:身体部位の使用についての原則実践! IE:方法改善の技術(6)(3/4 ページ)

» 2010年07月21日 00時00分 公開

〔原則4〕できるだけ物の力を利用すること。

 できるだけ、物の力を利用すべきであるという原則ですが、特に、それが人の筋力によって制御されている場合には、最小限に減少させなければなりません。物の力は「質量×速度」で表されます。作業における総重量は、材料の重さ、工具の重さ、身体の運動部分の重さの総和です。

 ここでいう「物」とは、材料、工具、使用する身体部位などをひっくるめたもので、これらの慣性力などを利用し、ムリをしないように動作の順序を組み立てていくということになります。また、このように考えた場合に、道具の重量も含めて道具を選ぶべきであるということにもなります。また、できるだけ、はずみを利用するように動作を構成するということも含まれます。

 動作中に、運動している身体部位、使用している工具類、部品や材料など、想像以上の力を必要としています。動作中の総重量は、これらの重さの総和であることは前述のとおりですが、ストッパーやレバーなどを活用して、力を効率よく軽減させることによって、作業を速く進めることができます。

 バネを利用することによって、反対方向に反発力を生じさせ、治工具などを工夫することによって、手で物を運ぶという動作を少なくすることができます。重量や抵抗については、慣性力や反発力によって最小なものとしていくことができます。

 動作中に重力を活用することは、ほかの改善活動に比べて費用的には少額なものとなります。重力を活用した代表的なものとして、シュートが考えられます。さらに、空気圧やバネなどを応用し、動作要素の中に組み入れることも考えられます。

 この原則の実現のために作られた道具というものは少なく、ほかの目的の道具などに、この考え方を取り入れて活用するのが普通です。しかし、手で使うハンマーなどは、慣性を使って強い力を出すもので、理屈からいえばこの原則そのものの道具であるといえます。

 また、慣性以外によく使われるのは弾力です。重い物を扱うときに使う「図4 バランサー」もこの例で、重量の半分くらいの力でスプリングを引き伸ばし、それに引っ掛けて持ち上げれば半分くらいの力で持ち上げることができます。

図4 バランサー 図4 バランサー

〔原則5〕運動の方向を急変しないようにすること。

 円滑な連続曲線運動は、突然の急な方向変換を持つ直線運動と比べて、疲れも少なく、動作時間も大幅に短縮することができ、速やかな動作に効果的です。動作の方向や変換に関して、円滑に行われることが大切であるという原則です。

 動作の方向に対してムリが生じると、疲労が増大して作業速度が低下することにもなります。両手を活用するときは、同時に離れて同時に中心部に戻れるように考えて作業設計を行うことが大切です。また、上下方向の移動に対して、水平方向の移動の方がムリがなく、また角度によっても動作時間が変動します。さらに、方向転換などが発生すると時間的にも疲労面においても差が大きくなります。これは、突然鋭い方向の変化を伴うような直線動作よりも連続的な曲線動作の方が経済的動作であるということです。

 方向を急変するためには、物理的にいえば大きな加速度が必要となって大きな力が必要で、生理的にいえば大きな筋肉の働きが必要なことになります。そこで、これらの大きな力、つまり、疲労を防ぐために急変を避けるようにするわけです。

〔原則6〕動作を拘束や制限のない自由な運動となるようにすること。

 条件によって、動作を制約すると動作時間がかかります。動作中に方向調節や急停止、障害物を避けるなど、いろいろな条件が加わる場合と、制約のない場合とでは動作時間の長短に大きな差が生じてしまいます。動作を制約している要因を確認し、これらを取り除くか、軽減させるかによって疲労が少なく、経済的な動作とすることができます。

 この法則は、簡単には、自動的運動という用語も使われ、「制限された動作よりも直線的動作の方が、速く、容易で、しかも正確である」という意味です。直線的動作は、それに反対する括抗筋を持たないから速くて容易な動作となるためです。ここでいう、直線的動作というのは、野球のバットを振ったりするような(弾道的)動作をいい、制御動作とは、動作の途中で人為的に制御して、何かに合わせようとするときに起こる動作です。手加減とか、合わせとかが必要のない動作、簡単にいえば、無造作にできる動作がいいということです。

 この原則を実行するための道具としては、さまざまなガイドやストッパーがあります。「図5 投入用じょうご」のようなものを使えば、物を置く位置を心配する必要もなく、また、手をその位置で止める必要もなくなります。ガイドの代わりに、前述の「図2 落とし送り装置」を使うこともできます。また、「図6 突き当て」を使えば、そこに当たって、止まるところまで無造作に動かしてやればよいことになります。広く考えれば、治具などもこの目的によく使われています。「図7 工具ホルダー」も同様に、工具の先端が少しだけホルダーに入ったときに手を放せば、手を止める必要もなくなり、しかも工具はいつも定まった位置に納めることができます。

図5 投入用じょうご 図5 投入用じょうご
図6 突き当て 図6 突き当て
図7 工具ホルダー 図7 工具ホルダー

〔原則7〕不自然な姿勢や身体の重心を上下する動作をしてはならない。

 この原則がある理由、身体をねじったり、傾けたり、そのような姿勢を続けると、疲れたり、身体に悪い影響を及ぼすので、これらの運動を避けるようにすることと、身体の重心を上げ下げ(実際には下げるから、後で上げなければならなくなる。床置きなどは典型的な例)。すると、それだけの重さを不必要に運搬していることになり、これは価値のない動作であるから、できるだけやめるようにということです。

 要するに身体に対して、ムリを掛けることを戒めているわけです。実際には、水平移動に対しては関心が高いのですが、多くのエネルギーを消費する上下移動には関心が薄いというのが一般的ではないのでしょうか。ぜひ、上下移動の距離や移動させている重量に高い関心を持ってもらいたいと思います。不自然な姿勢や身体を上下する作業は、作業中の作業者の後ろ姿を見れば、動作分析をしなくてもすぐに発見することができます。そのような作業は、やりにくい作業でもあり、ムリ・ムダ作業が存在している工程ですし、作業時間にもムラが発生していますので、すぐにそのような作業や動作は、排除しなければなりません。

 この原則に対する道具としては、床置きを防ぐための部品置き台車、品物の高さを維持するための「図8 ワーク・ポジショナー」や調整するためのテーブル・リフターなどがあります。また、手で出し入れする棚などは、下段に重い物を置かないようにすることが重要です。適正な高さは、野球のストライク・ゾーンの高さとほぼ同じです。

 「図8 ワーク・ポジショナー」は、品物の高さを適正にする道具ですが、バネを使って品物の増減に応じて常に品物の上面がほぼ同一の高さになるように高さを変える台です。

図8 ワーク・ポジショナー 図8 ワーク・ポジショナー

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