ブリブリ鳴るのは故障じゃなくて、ABSのカラクリいまさら聞けない シャシー設計入門(9)(1/2 ページ)

例えばブレーキ中にマンホールを踏むと、ブレーキペダルが振動して音が発生することがあるけど、実はこれ、ABSの正常動作。

» 2010年07月29日 11時00分 公開

 今回は、いまや自動車に標準装備されているのが当たり前になった「ABS」について説明したいと思います。

 ABS(Antilock Brake System)はその名の通り、タイヤ(ホイール)がブレーキ時にロックしない機構のことをいいます。

 そうです! 「ロックしない機構」という部分が非常に重要なのです。

 ブレーキにかかわる機構だということを認識されている方は大半なのですが、いまでもABSがあれば「ブレーキが強く効く」とか「普通に踏むだけで停止距離が短くなる」といった勘違いをされている方がいらっしゃるようです。中にはABSが正確に作動したにもかかわらず、作動するとどうなるのかを知らないために、

  「ブレーキが誤作動を起こした!」

と騒いでしまったり……。

 ABSを装備していない自動車をイメージしていただければすぐに理解していただけると思うのですが、ブレーキを強く踏めば「キ〜〜ッ!」という音とともにタイヤがロックしてしまいますよね。しかしABSの場合は強制的にブレーキ力を弱めてタイヤがロックしないように制御する機構です。

ABSユニット例 写真1 ABSユニット例

 つまり、視点を変えて表現すれば「ブレーキ力を強制的に弱める機構」ともいえるわけです。先ほどの勘違い例で挙げた「ブレーキが強く効く」といった考え方とは正反対だということがお分かりいただけると思います。

 では強制的にブレーキ力を弱める必要性、つまりタイヤがロックしないことがどうして重要なのかを簡単に説明しておきます。

ブレーキ力を弱める、とは

 そもそもブレーキ装置によって車が減速するのは、車が前進するエネルギーを摩擦熱に変換しているからです。つまり摩擦が生じることでタイヤの回転力&エンジン回転が落ち、車速も減速します。

 イメージとしてはタイヤがロックしてキ〜ッという大きな音が鳴った方が減速しそうな感じを受けますが、タイヤがロックしてしまった時点でブレーキ装置は全く機能しない(摩擦を起こさない)状態となり、その後の減速はタイヤと路面との摩擦のみになります。

 「いや、それでもタイヤと路面の摩擦だけの方が停止距離は短くなるだろ!?」

という意見も出てきそうですが、状況を変えてぬれた路面ならどうでしょうか?

 もちろん筆者は実際に訓練で行ったことがありますが、ロックさせた状態ですと相当な距離を滑っていきます。……というか、あまり止まる気がしませんでした(笑)。同じ条件でABSを作動させると、停止距離が大幅に短くなったのはいうまでもありませんね。

 ABSが重要視されているのは停止距離が短くなることだけではありません。ハンドルを切れば車の向きが変わるというのは常識だと思いますが、その常識はタイヤが路面をグリップしているからこそ成り立ちます。ここが非常に重要です。

 さてここで、タイヤがロックするほど急ブレーキを踏む場面を想像してみてください。

 「前の車が急ブレーキをかけた!」

 「側道から急に自転車が飛び出してきた!」

などなど、前方に明確な障害物を認識したときですよね。

 ではこの状況でタイヤがロックしてしまったとしましょう。

 もちろん前方の障害物を認識しているわけですから、無意識のうちに運転手は危険回避をするためにハンドルを切ります(ハンドルを切る余裕がないケースは無視してください)。

 しかしタイヤはロックしてしまっているので、方向転換をするための摩擦が路面との間には十分に生じず、どれだけハンドルを切っても車は直進のままです。

 そうです! タイヤがロックしてしまうと危険回避ができないのです。

 これも実際に訓練で試したことがありますが、ロックしている間はどれだけハンドルを切っても、全く車体の向きは変わりません。頑張ってロックしている間にハンドルを2往復させてみましたが、変化なしでした(笑)。

 つまりABSは「停止距離を短くする」と同時に「危険回避を可能にする」という2つの大きな役割があるのです。

ABSの動作

 ではここから、実際の作動について説明していきたいと思います。ABSの作動は大きく分けて2つあります。1つ目は「タイヤのロックを検知する役割」で2つ目は「ブレーキ力を調整する役割」です。

 ではまず1つ目の「タイヤのロックを検知する役割」から説明します。

 ABSはタイヤをロックさせない機構ですので、まずは「タイヤがロックした」ということを認識しなければいけません。

 そのためにABS機構を装備した車両には「車輪速センサー」が各輪のハブやナックルなどに取り付けられており、センサーに実車輪速を伝えるための「ロータ(パルス発生装置)」が車輪速センサー先端にある電極に対してごくわずかな隙間を設けて取り付けられています。

車輪速センサー 図1 車輪速センサー

 ロータはドライブシャフトやホイールベアリングなどに組み込まれており、タイヤと同じ回転数で回ります。車輪速センサーは永久磁石とコイル、電極などで構成されており、電極はあらかじめ磁石によって磁化されています。磁化された電極によって周囲に磁力線が発生し、その磁力線内でロータが回転することによって、ロータに設けられている歯(突起部)と溝が磁力線の磁束密度を変化させますので、センサー内のコイルに電圧が発生します(ファラデーの法則)。

 ロータの突起部と溝とは全周にわたって交互に配置されていますので、コイルに発生する電圧は交流(正弦曲線)となります。この周波数はロータの回転速度=車輪速に比例しますので、発生した周波数を電気信号としてコントロールユニットに送っています。

車輪速センサーに発生する交流電圧 図2 車輪速センサーに発生する交流電圧

 コントロールユニットは車輪速だけでなく、ブレーキスイッチや相互通信線(CAN)によるさまざまな電気信号を照らし合わせて監視しています。

*車種によって参考にしている情報量が大きく異なります。

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