Obbligato IIIでクラウド対応と柔軟なシステム連携を海外展開企業の支援策も

NECは2010年10月5日、PLMソフトウェア「Obbligato III」を発表した。同製品は、従来のObbligato IIをベースとしながら、クラウド環境での運用を念頭にした変更を行い、クラウド・SaaS/オンプレミス共存環境でのデータ連携への対応や、SOAアーキテクチャ対応が強化されているという。

» 2010年10月05日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

 NECは2010年10月5日、PLMソフトウェア「Obbligato III」を発表した。同製品は、従来のObbligato IIをベースとしながら、クラウド環境での運用を念頭にした変更を行い、クラウド・SaaS/オンプレミス共存環境でのデータ連携への対応や、SOAアーキテクチャ対応が強化されているという。Obbligato IIまでと同様、オンプレミスのシステムや個別カスタマイズなどにも対応する。

 同社ではまず2011年3月に、NECが提供するクラウド環境である「RIACUBE」上に個別カスタマイズに対応したクラウドを実装するサービスを開始、2011年内にはSaaS版の提供を開始するとしている。価格はSaaS版(100ユーザーライセンス)で月額100万円からとなる予定。

 個別対応型クラウド版は、個別に細かな要求に対応したカスタマイズを行ったうえでアプリケーションやデータをクラウド環境下に置くもので、SaaS版はカスタマイズ性は下がるものの、低価格で導入できるものになる見込みだ。

 今回の発表で注目したいのは、モノづくりの根幹を担う機密情報であるBOMのマスター情報の扱いと周辺システムとの使い分けだ。

 PLMシステムの核となるBOM情報をどのように持つかは、個々の企業や事業部単位でも大きく異なる。BOMシステムのあり方が事業そのものを規定する側面もあるため、システムを共通化しにくい領域と考えられる。企業にとってはBOMシステムのあり方そのものが、競合との差別化に必要となる場合もある。

 一方で、化学物質管理用の規制物質情報やCO2排出量規制情報などは、JAMAや、RoHSのように業種や地域ごとにルールがあるが、企業ごとに個別のナレッジを持つ必要性は高くない。こうした領域については、クラウドもしくはSaaS環境に移行したとしても、事業に対して大きな影響はなく、むしろ、運用コスト削減のメリットを受けやすい。

 こうした現場のニーズに即して、オンプレミス/SaaS・クラウドを柔軟に使い分けられるようにしたのが、Obbligato IIIだ。

 「Obbligato IIもオブジェクト指向の実装を行っていますから、SOA的なシステム連携は可能です。しかし今回のIIIでは、システムアーキテクチャ全体で、サービスの定義をより厳密に整理しています。このため、他社システムを含めてSOAベースの情報連携がスムーズに行えるようになっています」(NEC 製造・装置業ソリューション事業本部 事業本部長 平野 文康氏)。

 SOAアーキテクチャに対応した実装を行っていることから、自社システムにあるBOMのマスター情報と、SaaS・クラウド環境にある規制物質情報を付け合わせて管理するといった使い方が比較的スマートに実現できる。マスターデータは社内に置きつつ、EMSメーカーに対して提示するBOMをクラウド環境下に別途設置して運用するといった用途も考えられるだろう。

 Obbligato IIIでは事業戦略や予算に応じて個々の機能を選択的にSaaS・クラウド環境に移行でき、自由に連携することができる。この特長を生かせば、巨大な事業所からSaaSサービスのみの運用でミニマムに運用したい拠点までを一気に担うことができる。

NEC 製造・装置業ソリューション事業本部 事業本部長 平野文康氏 NEC 製造・装置業ソリューション事業本部 事業本部長 平野文康氏 「企業の重要情報であるBOMに関してはセキュリティ上の懸念を持たれる企業が多いこともあり、クラウド環境との併用を求める声が多かった。Obbligato IIIはそうしたニーズに答える製品」だという。

 「いまは海外進出を検討している企業が多く、大手に限らず、中堅企業も次々と海外拠点を持ち始めています。拠点の移設、工場の統廃合などもスピーディに行う必要が出てきました。システムのSaaS/クラウド化は、サーバ移設やシステム構築スピードを向上させるうえで非常に効果があると考えています」(平野氏)。

 通常のSaaSアプリケーションはカスタム機能を持つことが難しいが、前述のとおり、企業ごとに手法が異なる領域であるため、同社が個別にカスタマイズを行うことも想定されている(個別対応型クラウド)。

 操作画面はRIAを利用することで、社内/外のサーバを意識することなく、複数の情報を一画面で確認できるようにしている。データの更新、反映も動的に行える。

 また環境規制対応については、従来製品ではオプションとして別途個々の要求に応じたシステムを必要としていたが、Obbligato IIIでは各種法規制情報を統合して1システムで持つ点も特長だ。製品別のSVHC含有量の積み上げ集計や事業拠点別の化学物質排出量の集計に総合的に対応するという。

 会見ではさらに、今後Obbligato IIIの機能として製品設計の共通化やローカライズなど、同製品導入企業の海外進出支援ソリューションも提供していくという見通しも披露された。

 「例えば、四川省ではジャガイモを洗う際に洗濯機を使う習慣があります。このため、四川省で洗濯機を売りたければジャガイモが傷まないように洗濯機の回転部分を覆う部品も併せて提供しなければいけません。こうしたケースでは、地域に対応した部品をどのように低コストで提供していくかを設計段階から検討する必要があります。共通化とローカライズを同時に実現するためのソリューション提供を考えています」(平野氏)。

 なお、Obbligato IIユーザーがSaaS・クラウドサービスとオンプレミスシステムを連携して利用する場合は、Obbligato IIからIIIに移行することを推奨している。「IIからIIIへの移行は比較的簡単に行えるようになっており、IIをベースにシステム連携部分を実装するよりもIIIに移行してから連携を行うほうが工数が少なく済む」(平野氏)という。

平野氏の発表資料より。統合的な環境関連情報管理のほか、導入企業のグローバル製品開発支援も行うとしている

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