サポート・メンテナンス部門を収益源に変えるちょい先未来案内人に聞く!(2)(1/3 ページ)

洋の東西、老若男女を問わず、モノづくり現場の最前線から、その先を見つめる専門家に焦点を当て、明日のモノづくり環境のビジョンを紹介する。

» 2010年10月12日 00時00分 公開
[北原静香,@IT MONOist]

「ちょい先未来案内人に聞く!」連載目次

第1回:PLMのシナリオに即したインターフェイスを〜HD-PLMが実現するのは“超PLM的UX”

第2回:サポート・メンテナンス部門を収益源に変える

第3回:パーツカタログ担当者が始めた顧客視点のPLM



 今回紹介する「Arbortext」は、XMLベースのオーサリング&パブリッシングソフトウェアである。Arbortextでは、テキストや画像などの情報(コンテンツ)をXMLベースで管理し、目的に応じた構成情報を指示することで、各コンテンツを組み合わせ、自動的(ダイナミック)に必要なドキュメントを生成(パブリッシング)することができる。

 しかし、このArbortextは、オーサリングツールやコンテンツマネジメント製品を専門に扱うベンダではなく、大手PLMベンダのPTCが展開している製品であることに着目してほしい。PTCでは、製品ライフサイクル全体で必要とされる情報の管理と、それを活用した動的パブリケーションを重視している。

 そこで今回は、PLMにおいてArbortextが担う役割とは何か、それによってどのようなメリットがあるのかなどについて、PTCジャパン Arbortext製品スペシャリストである本田 博秀氏からお話を伺った。

ダイナミック・パブリッシング

 「製品」には、その製品を構成するために必要な多くの「情報」と、これらの情報を特定の目的で集約(パブリケーション)した情報の塊である「ドキュメント」が存在する。これらの情報やドキュメントには、設計情報、組み立てマニュアル、ユーザー向けの取扱説明書、メンテナンスマニュアルなど例を挙げればきりがない。PLMにおいて、これらの製品情報を、きちんとしたルールに沿って管理し、効率的に活用することが重要なことは明らかである。もちろん、PLMベンダをはじめとした多くのベンダが、情報管理のための製品やソリューションを展開している。

 しかし、Arbortextは単に情報管理をするための仕組みではない。管理されている「最新の」情報(コンテンツ)を組み合わせ、それぞれの用途に合わせたドキュメントを「自動的に」生成することが、Arbortextの目的である。本田氏はArbortextの機能を次のように語っている。

 「『ドキュメント』という単語には、紙の媒体で提供された情報というイメージが根強く残っています。電子化が進んでいる企業であっても、その多くはPDFなどテキスト、図版、フォント、スタイルといった印刷イメージがそのまま電子化されただけの静的なドキュメントです。そのドキュメントが作成された時点の古い情報であり、内容の正確性が担保されておらず、作成に時間やコストがかかる従来型の情報です。一方、Arbortextは、最新の情報を組み立てて、パブリケーション(ドキュメントとして生成)する仕組みなので、ドキュメントとは、パブリケーション時点でのテンポラリにすぎません。つまり、製品情報のその時点での『スナップショット』なのです」。

 Arbortextが扱うコンテンツは、一般的にドキュメントに必要と考えられるテキストデータや、画像データにとどまらない。CADデータや部品表(BOM)といったPLMの仕組みの中で扱われる情報のすべてを、Arbortextではパブリケーション用の部品としてとらえている。

世界同時&スピーディな出荷を妨げるドキュメント制作フローのムダ

 「PTCでは、設計・開発、製造、販売、サポートなど、製品ライフサイクルのすべての工程の情報をそのまま管理し共有する仕組みをWindchillというPDS(Product Development System)によって提供しています。わたしたちは情報の『アソシエイティビティ(Associativity:associate性を表現するPTCの造語)』と呼んでいるのですが、PDSにおいては、すべての工程が連携し、影響し合いながら製品を作ると考えています。アソシエイティビティな環境では、変更管理がタイムリーに行われ、常に最新の情報や状態でコラボレーションすることができます。そのため、情報のフィードバックや、作業の後戻りは発生しません。ArbortextはWindchillで管理されている最新のコンテンツをその場で組み立てることで、ダイナミック(動的な)・パブリッシングを可能にしています」。

 Arbortextの利用シーンとして、製品のユーザーマニュアルを例に挙げてみよう。

 ユーザーマニュアルは、機能を説明する大量のテキスト、必要に応じて挿入されるイラストや図表などで構成されている。

 一般的なマニュアル類の制作は、独立した専門の部門や外部委託によって行われることが多い。設計や開発部門から送られてきた資料を基にマニュアルの構成やスタイルなどを決定し、DTP環境でテキストや図版をレイアウトしていくという流れだ。当然、このフローで制作を行う場合は、最終的な製品が確定しなくてはならないため、設計、試作工程を終え、量産体制が整った段階まで待つ必要がある。加えて、マニュアル制作にかかわる製品図版はマニュアル用に別途描き起こす必要がある。これらの工程がすべて完了するまで、製品は出荷できないことになる。場合によっては数カ月ものリードタイムとなり、製品の迅速な出荷の妨げとなる場合も多いという。グローバルで展開する製品ともなれば、マニュアル制作も多言語で行う必要があり、翻訳にさらに日数を割かれることもある。

 ではどうするべきか。製品出荷のタイミングに間に合わせるためには、設計や開発の段階で、マニュアル制作を始める、というのも1つの方法だろう。

 しかし、製品デザインや機能、あるいは製品名などに変更が発生した場合、マニュアルにも修正が必要となり、作業に手戻りが発生する。マニュアル制作部門と設計・開発部門との間のコミュニケーションがスムーズでなければ、作業の手戻りがより大きくなり、コストも増大する。

 変更の通知が遅れたために、印刷や製本が済んでいるマニュアルを破棄し、作り直しになったケースは決して少なくない。あるいは、なんらかの理由でマニュアル制作が遅れたために、製品出荷そのものが延期されてしまうケースもある。

 Arbortextの場合、マニュアルを構成するコンテンツは、それぞれ独立して作成され、管理されている。ある機能に変更が発生しても、その機能を解説したコンテンツ(あるいはその影響下にあるコンテンツ)だけを修正すれば済む。また、CADデータから自動的にイラストを作成する機能も持っているため、製品デザインに変更が発生してCADデータが更新されても、自動的にイラストも更新されるようになっている。つまり、どのタイミングでパブリケーションしても、そのときの最新情報からマニュアルが生成されるのである。これが、Arbortextのダイナミック・パブリッシングであり、本田氏の語る製品情報のスナップショットなのだ。

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