「蓄電用とEV用、要求特性が同じものは共通化」――三洋電機がLiイオン電池開発の方向性を示唆

» 2010年11月24日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 三洋電機は2010年11月、東京都内で記者会見を開き、大容量のリチウム(Li)イオン電池に関する事業戦略について説明した。

 三洋電機の副社長でエネルギー関連事業を担当する本間充氏(写真1)は、「当社のエネルギー関連事業は、太陽電池と2次電池を2本の柱とする。これらの世界全体の市場規模は、2010年度時点で、太陽電池が2兆円、2次電池が1.5兆円で、合計3.5兆円と見ている。そして、10年後の2020年度には、太陽電池が5兆円、2次電池が5兆円で、合計10兆円まで拡大すると予測している。この中で、最も成長が期待されるのが、環境対応車用と大型蓄電用の2次電池だろう。2009年時点で、環境対応車用2次電池の市場規模は1500億円程度だが、2020年度には1.5兆円まで拡大する。大型蓄電用2次電池は、現在はほとんど市場が存在しない状態だが、2020年度には市場規模が2兆円になる見込みだ」と語る。


写真1 三洋電機の本間充氏 写真1 三洋電機の本間充氏 

 同社は、2010年10月に完工した製造拠点兼実証実験場「加西グリーンエナジーパーク(兵庫県加西市)」において、環境対応車用と大型蓄電用の2次電池に関するさまざまな取り組みを行っている。まず、環境対応車用2次電池については、ハイブリッド車(HEV)用のニッケル水素電池とLiイオン電池を量産している。公称容量が5AhのHEV用Liイオン電池の量産規模は、2010年度で100万セル/月となっており、2015年には1000万セル/月まで拡大する予定である。また、同所にあるHEV用Liイオン電池の量産工場では、2011年後半から、公称容量が20Ah〜25Ahのプラグインハイブリッド車(PHEV)/電気自動車(EV)用Liイオン電池の生産を開始する計画だ。

 会見では、これまで公称容量のみが発表されていたPHEV/EV用Liイオン電池について、複数の電池セルを組み合わせた電池モジュールのレベルでの性能が明かされた。それによれば、電池モジュールを構成するセルの数は数百個で、エネルギー密度は125Wh/kg、出力密度は1095W/kg。動作温度範囲は−30〜70℃で、サイクル寿命は1万回以上となっている。

 一方、大型蓄電用2次電池に関する取り組みとしては、加西グリーンエナジーパークの電力供給の一端を担う大型蓄電システムが例として挙げられる。この大型蓄電システムの電力容量は約1.5MWh。ノート型パソコンなどに用いられている18650サイズ(直径18mm×長さ65mm)のLiイオン電池セルを312個用いて電池モジュールを構成し、そのモジュールを約1000個使って構築した。本間氏は、「蓄電用2次電池としては、ほかにもナトリウム硫黄(NAS)電池や鉛電池などがある。しかし、NAS電池の場合、300℃という作動温度を維持するために大規模な付帯設備が必要だ。鉛電池は、低価格ではあるもののサイクル寿命が短い。これに対して、Liイオン電池は、常温で作動するので付帯設備が不要だし、サイクル寿命も蓄電用として十分な回数を実現できている」と説明する。なお、三洋電機は、18650サイズの電池セルを用いたLiイオン電池モジュールを中核とする大型蓄電用2次電池事業を強化するために、2010年10月に、専門の部署である大型蓄電事業部を設立している。

 本間氏は、会見の最後に、「大型蓄電用とEV用のLiイオン電池に求められる特性は似ている。現在、大型蓄電用に提供しているLiイオン電池モジュールは、動作温度範囲が0〜40℃で、サイクル寿命が2000回以上。しかし、寒冷地などでの利用を考えれば、氷点下でも動作するようにすべきであろう。また、製品寿命が20〜22年とされる太陽光発電システムと組み合わせて利用することを考えると、サイクル寿命は不足していると言わざるを得ない。さらに、電力会社などは、3C(1Cは電池の全容量を1時間で放電させるだけの電流量)という高い入出力密度を求めている。一方、PHEV/EV用Liイオン電池は、1095W/kgという3Cを上回る出力密度を実現している。そして、動作温度範囲は−30〜70℃、サイクル寿命は1万回以上と、先に述べた要求を満たす。今後は、このように要求特性が似ている大型蓄電用とEV用のLiイオン電池を共通化していきたい」と述べた。

(朴 尚洙)

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