デジカメにリコンフィギュラブルな頭脳を――カシオ「EXILIMエンジンHS」次世代デジカメ技術なぅ(2)(3/3 ページ)

» 2010年12月09日 12時00分 公開
[永山昌克,@IT MONOist]
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リコンフィギュラブルで広がる写真の楽しさ

――リコンフィギュラブル技術の採用による、画質の向上という点ではどうですか?

今村氏: 一番大きなところとしては、これまで諦めていたプロセッシングができるようになったことです。例えば、前述したメイクアップ機能の場合、これでOKだと考えてハードウェア化した場合、もし出てくる絵が気に入らないと感じても、後から変更することはできません。また、万が一ハードウェア化したロジックにバグがあった場合、修正ができません。そう考えると相当修練した技術、もしくは枯れた技術でない限りは、ハードウェア化はできないのです。

 仮にハードウェア化できずに、ソフトウェアで作った場合は、性能面で妥協せざるを得ません。例えば階調性が少し悪くなるとか、小さなことの積み重ねが画質に影響を与えてしまいます。リコンフィギュラブルによって本当にハードウェアと同等の速度で走れるということは、もう思う存分、ぜいたくな画像処理ができるということを意味しています。例えばカラーのビット深度に関して、8ビットで妥協していたところを12ビットに伸張して、演算してから最後に8ビット化するといったハイビット処理も可能になります。

――EX-ZR10の特徴の1つ「マルチフレーム超解像」とはどんな技術ですか?

今村氏: この新エンジンから搭載したマルチフレーム超解像は、複数の画像を連写/合成し、画素ずらしによって透過的に解像力を高める機能です。例えば縦じまのワイシャツを撮った場合、4000万画素のセンサならきれいに分解した絵が撮れるでしょう。ところが1000万画素のセンサでは、縦じまを分解できません。そこで、センサを微妙にずらしながら撮ることで疑似的にセンサの画素数が増えたような情報量を得て、そのうえで画像の整形を行います。その結果、本当のセンサには比肩しないまでも、光学的に性能が良くなったかのような性能を得られます。これもリコンフィギュラブルプロセッサを用いて行っている処理の1つです。

 「EX-ZR10」では、このマルチフレーム超解像をズームに応用しています。光学ズームの倍率は7倍ですが、マルチフレーム超解像技術によってほぼ倍の14倍まで伸張することができます。

photo 画像9 リコンフィギュラブルプロセッサを用いて処理している「マルチフレーム超解像」

――同じ処理を、リコンフィギュラブルではない従来のエンジンでやるとどれくらいかかるのでしょうか?

今村氏: プロセスによってかなり倍数が違うので一概にはいえませんが、4倍から100倍、ものによっては1万倍まで差が出てきます。例えばマルチフレーム超解像処理の場合、ピクセル解析にやたら時間がかかります。なおかつ、その後演算整形する部分にも、ものすごい時間がかかり、とてもじゃないですがソフトウェアで処理できるものではありません。

次世代デジカメの“武器”に

――今回は実現できなかったものの将来的にはリコンフィギュラブルを使って実現できる機能としては、例えばどんなものが想定されますか?

今村氏: お話できる範囲で2つだけ挙げます。1つは、AR(拡張現実)のような非常に処理時間がかかるものに応用すること。もう1つは、HDRというダイナミックレンジ拡大のモードを搭載していますが、これを静止画だけでなく動画でも適用できるようにすることです。処理が重くてとてもじゃないけど無理と考えていた部分に、まだまだ可能性があります。

――デジカメの開発手法も変わってきますし、アグレッシブなことができそうですね。

今村氏: エンジンの性能はもちろんですが、それを使って特徴のある製品を作っていきたいと思っています。もちろん画質といった基本的な性能に優れたカメラを作ることは当然ですが、そのうえで、せっかくコストや規模が大きなものですので、よりダイナミックに応用して、世の中にないような特徴のある製品に仕上げていきたいと考えています。

 GPS対応の「EX-H20G」はそういう特色を出せたと思っています。単に地図が出るだけでなく、あらかじめ組み込まれた景勝地の画像を閲覧でき、見ているだけでも行きたくなる、旅へ誘うような製品を目指しました。また、行動した軌跡が地図上に残るので、家に帰ってからも楽しめます。

 また「EX-ZR10」では、フルHD動画を撮りながら、フル画素の静止画の超高速連写ができます。地味かもしれませんが、CPUを2つ載せて、並列処理を可能にしたのは、実はこういうことがやりたかったからなのです。

photo 画像10 多彩な機能を持った地図表示も、EXILIMエンジンHSの恩恵

――スマートフォンが高機能化している、そんな時代のデジカメの在り方として興味深いですね。

今村氏: 確かにスマートフォンの進化はとてつもないものがあります。やはり利便性の部分で、そういうものに追いついていかなければならないと思っています。ベーシックな画質だけでもいいのですが、そこに利便性が伴っていかないと、なかなかお客さまに受け入れられません。

――カシオにとって、デジカメの開発のやり方が変わる可能性がありますか?

今村氏: はい。あるでしょう。少なくとも2年程度で陳腐化するエンジンではないものが、ようやくできたというのがわたしどもの実感としてあります。さらにいえば、これはただの箱です。この後々、わたしどもがこの中に命として何をつぎ込んでいくのかが一番大事なポイントになります。リコンフィギュラブル技術は、ただの箱なんです。

――しかも、それが資産として、後々まで生かせるわけですね。

今村氏: 非常に汎用性が高く、後々使っていける仕組みなので、ある程度は長く使うことができます。

――今後の目標や展望をお聞かせください。

今村氏: もともとわたしどもは、レンズメーカーではなく、センサメーカーでもありません。当社の大きな戦略として、やはりデジタルの技術で、光学性能の部分を補助したり、あるいは、超えていかなければならない、と考えています。そのテクノロジーの部分だけでも他社に対するアドバンテージが欲しいといったときに、頼りになるのはこの画像プロセッサの部分です。今回の製品も、レンズやセンサを開発できないのであれば、それをプロセッシングで超えてやろうという着想から始まっています。

 どこまでいけるかは分かりませんが、一眼レフ機がなくても、こんなに小さなボディで、一眼レフが要らないと感じるような絵を出せるところまでいきたい。そんな目標を持って今後とも開発を進めていきます。

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