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» 2010年12月09日 11時00分 公開

マイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(4):製造業で働いたことがない人が作った自転車 (2/2)

[境 耕佑/enmono,@IT MONOist]
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――なぜ自転車を作ろうと考えたのですか

小池:学生時代の先輩から、いろいろと教えてもらったことがきっかけではあるんですが、決め手になったのは、自転車はパッと見の部品点数の少ないこと、機構が成熟しているので研究開発費などがほとんど必要なさそうなことでした。自動車ですと部品点数も数万点に及び、研究開発も非常に重要になりますが……。自転車なら、いまあるものをブラッシュアップするだけで、既存のメーカーに対抗出来ると考えました。ようは、自転車なら何とか作れるのではないかと。ただ実際、作ってみると、結構部品点数が、想定していたよりも多かったので苦労はしましたが(笑)。

――スカラバイクのコンセプトは

小池:プロの競輪選手が使うほど高品質な自転車をカジュアルなデザインにして多くの人に届けられないかということです。最近の自転車って1万円を切るものも多くあるのですが、自転車が「コストダウンの塊です」って思われるのがいやだと感じたんです。やはり命にかかわるものですし。各地に点在している自転車工房に行けばオーダーメイドで非常に高品質な自転車を手に入れることは出来ます。でも、前金で数十万円取られて納品は1年半〜2年半は待たされてしまうんですね。そこで、そのくらい高品質なものをもっと多くの人に届けたいと思って、スカラバイクを作りました。

 もう1つこだわったところは、アフターサービスです。自転車って、同じような価格の違う商品と比べて、アフターサービスが非常に弱いなと感じたんです。例えば、数十万もする自転車でも、売ってしまったらそれっきりということが多いんですよ。例えば、同じような価格のバッグ(かばん)などでしたら、非常に充実したアフターサービスがあるのに……、自転車もそうあるべきだと考えました。

 ポイントは2つあって、所有する喜びを感じていただくことと、永久保証です。「オーナーズキット」という正規品保証書の入った盾とメンテナンスキットを入れた桐箱を購入してくれた方にプレゼントして、“ウチの自転車を所有する喜び”を演出したいと思っています。品質には自信がありますので、消耗品以外はすべて永久保証にして、末永くウチの自転車を愛用していただきたいと考えました。

ALT オーナーズキット

――なぜ日本製なのか

小池:日本製の部品と外国製の部品を並べて比較してみると、明らかに品質が高かったのが日本製だったからです。部品選択をする際に、品質がよりいい方をと選んでいったら、結局、日本製に行き着いたという感じですね。ただ、部品によっては日本のどこを探しても、すでに生産していなものもありました。そういうものに限っては外国製を採用しました。

――一番苦労した点は

小池:エイショー(ラグメーカー)の赤松 健美社長と東洋フレーム(フレームビルダー)の石垣 鉄也社長に、生産協力をお願いするために説得したことですね。最初に相談したのは赤松社長の方で、彼自身も日本輪業が廃れていく姿が悲しいと感じていて、ラグの生産に協力してくれることが決まりました。

 また自分たちのコンセプトを形にできるのは東洋フレームしかなかったので、赤松社長に紹介していただけないかとお願いしたら、「あんな大メーカーがおまえのような小さいところ相手にしてくれるわけないって」と一蹴されてしまいました……。でも諦めきれなくて、何度も何度もお会いして、お願いしました。

 3年ぐらい続けていたら、ある日赤松社長が、「お前らが本気で自転車作りたいのは分かった、いまから東洋フレームに電話してやる」といってくださったんです。

 そして、ようやく東洋フレームの石垣社長にお会いすることができたのですが、フレームを作ってほしいとお願いすると、「台湾にうちの工場があるし、そっちで作った方が安上がりだぞ」といわれて断られてしまいました。何度交渉してもそのたびに断られて、ついにわたしが熱くなってしまって「そんなことやってるとメイドインジャパンの自転車なんてなくなってしまうじゃないですか」っていっちゃったんです。石垣社長に怒られると思ったら、「そうやねん……。ウチが台湾で工場やっているのも大阪の工場を残したいためなんや。こっち(大阪)がメインなんや。分かった、作ってやるわ」とおっしゃってくださり、生産をOKしてくださったんです。ホント、この流れは映画みたいで、いま思い出しても興奮しますね。自転車の部品をつなぎ合わせるラグを作っている赤松社長が、スカラバイクにとってもまさしくラグのような存在です。

――今後の目標など

小池:ウチの自転車は、そこにあるだけで周りの風景も一変させるほどの存在感があると自信があります。これを街中で走らせることによって街そのものの景観を変えたいと思っています。そのためにも当面の目標はウチの自転車をより多くの方に届けることに全力を注いで、このような高品質な自転車の市場を拡大したいと思います。それが、不採算を承知で協力してくださった、エイショーさんや東洋フレームさんへの恩返しになると思いますし。しかし、いずれは新しいマテリアルとかにも挑戦していけるように、純然たるメーカーとして自社技術、自社工場を目指したいですね。

スカラバイクはマイクロモノづくりの教科書的存在

 スカラバイクの誕生から現在までの流れをお伝えしましたが、ここにはマイクロモノづくりの成功には欠かせない重要な要素が隠されています。それは、“関係協力者からの十分な理解”と“販売へのエネルギーの集中”です。

 マイクロモノづくりの流れを下図に示しますが、製造業に従事している方がマイクロモノづくりを実践するに当たって陥りがちのミスが以下です。

  1. “資源の確保”の段階で協力が必要な関係者から理解が得られないために、設計した製品を生産できない、または、かなりのところを妥協したものを生産してしまう
  2. “販売”の段階に十分なエネルギーを注がないために、商品に魅力があっても、赤字商品に留まってしまい、結局マイクロモノづくりを諦めてしまう
ALT マイクロモノづくりにおけるバリューチェーン(enmono社資料より)

 スカラバイクはこれらの落とし穴を見事に回避しています。これは、小池、湯村、両氏ともに製造業に深くかかわっていなかったことも遠因となったと思います。つまり、自社で製造するリソースを所有していなかったからこそ、エイショーや東洋フレームといった関係各社に納得してもらえるまで足を運び協力関係を築く重要性を認識でき、販売へエネルギーを集中させることの必要性も感じられたのではないでしょうか。

 では、逆説的ではありますが、製造業に深くかかわってきた方々はマイクロモノづくりを実践できないのか、といえば、そうではありません。協力企業を説得したり、販売戦略を立案したりしてくれる企業とパートナーシップを結ぶことにより、十分マイクロモノづくりを成功に導くことができると思います。


 モノづくりとはあまり縁のない道を歩んできた人たちが作るモノづくりのストーリーはいかがだったでしょうか。もちろん、スカラバイクの周りには多くのモノづくりのプロたちがいて、その協力関係で1つの自転車が出来ています。ただ、今回の記事でぜひ考えていただきたいことは、モノづくりに最も必要なことは「自分が思い描くものを作りたい」という気持ちであるということと、「モノづくりのプロが協力するとこんな素晴らしい製品が完成する」ということです。

Profile

境 耕佑(さかい こうすけ)

1986年生まれ。enmono エヴァンジェリスト。早稲田大学 大学院 創造理工学研究科 在学中。大学在学中にアメリカ、中国、タイ、ドイツにて主に生産管理を目的とした国際インターンシップに従事した経験からモノづくりの魅力に引き込まれる。よりモノづくりに近いところに身を置きたいと考えるとともに、日本の中小製造業の技術が失われていくことに危機感を感じていたときに、enmonoと出会いその理念に共感したためインターン生として修行することを決意。マイクロモノづくりを啓蒙するイベントの企画・制作が担当。より多くの方がマイクロモノづくりの理念を共感していただくためには何が求められているのか模索する挑戦の日々を過ごしている。

Twitterアカウント:@kos_s




モノづくりを楽しみ倒せ!

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