パーツカタログ担当者が始めた顧客視点のPLMちょい先未来案内人に聞く!(3)(4/5 ページ)

» 2010年12月24日 00時00分 公開
[北原静香,@IT MONOist]

乾いた雑巾より、濡れた雑巾を絞れ

 製造業の業務改善は、「乾いた雑巾を絞るようだ」と揶揄(やゆ)される。日本の製造業は、この乾いた雑巾を繰り返し絞ることで、現在のように世界に誇れる製品品質を実現してきたといわれている。しかし、田中氏は、乾いた雑巾を絞るよりも、濡れた雑巾を絞るべきだと主張している。

 「乾いた雑巾を絞っても、水は少ししか出ません。つまり劇的な改善は起きないのです。改善とは、複数の部署で重複した業務はないか、情報伝達の速度に問題はないかなど、問題の本質を徹底的に追求し、根本的な対応を取ることが重要です。乾いた雑巾を絞るように1つ1つの問題を改善するのではなく、部門を超えて組織全体で問題を改善すれば、濡れた雑巾を絞るように劇的な改善が起きるかもしれません」(田中氏)。

 その具体的なアイデアの1つがテクニカルイラストの「松」「竹」「梅」の分類だ。

 「テクニカルイラストは、製造業のさまざまな部門で活用されるイラストのことです。パーツカタログはもちろん、取扱説明書やサービスマニュアル、組み立て作業帳票まで、用途はさまざまです。しかし、これらの作画のグレード分類が明確ではなく、作業者のセンスやこだわりに依存していました。結果として、作画に関する経費や工数は膨大なものとなり、また、経費・工数がかかるのは仕方がないことだとされていました」(田中氏)。

 実は、田中氏は以前、パーツカタログなどのイラスト制作を行う社内イラストレータ業務に就いていた。軽量な3次元CADデータフォーマットと出会ったことで、これまでの自身の作業を自己否定する必要に迫られたという。

 「3次元CADで作成した設計図面データを活用することで、イラスト『作画』作業は『出力・加工』作業へと大きく変わったのです。従来なら数時間を要した作画作業が、5分と経たずに出力されます。しかも、習熟も要さずに、少しの講習を受けるだけですぐに作業者となり得ます。センスや技術が必要な宣伝・広告用のイラストは、従来同様プロにお願いすることになりますが、パーツカタログや帳票類の付属イラストなどの作成は、3次元CADデータを活用することで、誰にでもできる作業になったのです」(田中氏)。

 このイラスト出力作業をより明確にするべく生まれたのが、先述したテクニカルイラストグレード分類「松」「竹」「梅」である。図面から出力したまま何も加工しないイラストを「梅」と位置付け、「梅」グレードに若干の加工を加えたものを「竹」、プロが作画するイラスト類を「松」とし、それぞれどのようなドキュメントに適切なのかをガイドラインとしてしたものが、次の概念図だ(注)。

松竹梅の概念図 「松」「竹」「梅」の概念図

 「作業者には、パーツカタログに掲載するイラストは美しくなければならないという思い込みがありました。また、従来の3次元CADから直接のデータ出力は、データが重く活用に耐えないとの判断もあったのですが、超軽量なXVLから出力することで、作業者自身が3次元CADデータを分解しイラスト出力できるようになり作業効率が向上しました。

 さらには、美しいイラストよりも正確なイラストを早く仕上げることが顧客要望だと説明し、『梅』グレード(=イラスト修正不要)での出力でよいとの判断をしたことで、XVL導入から3年が経過した現在では、外注費用も大幅に削減され、工数は90%程度削減されています。顧客からは、余計な線の入った『梅』グレードのイラストに対する苦情は1件もありません。顧客の要望は、『早く』『正確』な情報を得ることですから」(田中氏)。

 学生時代にバックパッカーとして、アジア周辺の国々を旅していたという経歴を持つ田中氏は、当時の経験からアジアにおける日本製品の品質は、非常に高く評価されていることを知っている。

 「アジアでは、日本製品の品質は高く評価され、信頼されています。しかし、値段が高いため、仕方なく中国や韓国の製品を購入する人が多いのも事実です。ところが“中国製品はすぐに壊れる”というイメージを持っている人も少なくありません。そんな人たちに人気なのが、日本の中古品なのです」(田中氏)。

 品質の高さから、中古品が人気というのは、新しい製品を売りたい製造業にとってはジレンマである。しかし、少し見方を変えて考えてみると、これは大きな市場といえるかもしれない。中古品を使い続けているユーザーがいるということは、アフターマーケットが期待できるということでもある。これまでのように、アフターマーケットを単なるコストと考えず、メンテナンスや交換パーツの需要に対応できる効率的な体制があれば、ブランド力は維持され、所得の向上とともに新製品の購入など、新たな収益を生み出す可能性もある。

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