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» 2011年01月01日 00時00分 公開

群雄割拠の車載Liイオン電池 (3/3)

[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]
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18650サイズでコスト削減

 先に述べたTesla Motors社は、同社のEV「Roadster」のLiイオン電池モジュールに、ノート型パソコンなどに用いられている18650サイズ(直径18mm×長さ65mm)のLiイオン電池セルを採用している。このTesla社に対して、18650サイズの電池セルを供給する契約を2010年1月に結んだのがパナソニックである。

 パナソニックで電池事業を担当しているエナジー社(旧松下電池工業)は、2006年に、それまでのコバルト系に替えて、ニッケル系の正極材料を採用した18650サイズのLiイオン電池を発表した。ニッケル系の正極材料は、コバルト系に比べてエネルギー密度を高められるものの、異常な発熱が起こりやすいなど安定性の面で問題があった。この問題に対してエナジー社は、2005年に発表したHRL(絶縁性耐熱層)技術によって対応した。HRL技術とは、セパレータと負極の間にHRLを形成することで、析出した金属Liや生産時に混入した異物による短絡熱暴走を防ぐ技術のことである。

 2006年から量産を開始したニッケル系正極の電池セルの容量は2.9Ahで、コバルト系正極を用いた同社電池セルの2.6Ahよりも向上している。さらに同社は、2006年以降も、ニッケル系正極の電池セルの性能向上に努めてきた。2009年末からは3.1Ah品の量産を開始しており、2011年度からは3.4Ah品の量産を始める予定である。3.4Ah品は2.9Ah品と比べて、体積エネルギー密度が約17%、重量エネルギー密度が約12%向上している。

 そして、さらなる性能向上を図るために、同社は負極材料を従来のカーボンからシリコン系合金に変更した電池セルを開発した。この電池セルの容量は4.0Ahで、2012年度から量産を開始する計画である。

 シリコン系合金は、スズ系合金と並んで、負極に炭素系材料を用いる既存のLiイオン電池よりも高い容量を実現できる負極材料として知られている。これらの合金系材料を用いた場合、炭素系材料を用いる場合と比べて、充電時により多くのLiイオンを負極内に貯蔵できる。このことにより高容量化が可能になるわけだが、問題になるのがLiイオンを貯蔵したときに起きる負極の体積の膨張である。炭素系材料では、容量がほぼゼロの状態から満充電の状態まで変化しても、負極の体積膨張は1.5倍程度にしかならない。しかし、合金系材料の場合、2〜4倍になってしまう。このために、充放電を繰り返すと電池の構造に歪(ひずみ)が生じてしまうのである。パナソニックのエナジー社は、使用する材料の見直しや、電池セルの製造プロセスを改良することでこの問題を解決し、製品化の目処を付けたという。

 なお、シリコン系合金負極を用いた4.0Ah品の体積エネルギー密度は、ニッケル系正極を用いた3.4Ah品と比べて約10%大きい。ただし、重量エネルギー密度については、出力電圧が3.4Vに下がること、重量が54gと重くなることもあって約5%小さくなっている。

 パナソニックは、2009年10月に、2.9Ah品の電池セルを用いた電池モジュールを、EVなどの大容量を必要とする用途に展開することを発表している。現在は、顧客による評価が行われている段階で、事業化は2011年度を目標としている。「EV用だけではないが、すでに20社以上から引き合いがある」(エナジー社)という。

 同モジュールは、直列接続した7個の電池セルを20組並列に接続したもので、総計140個の電池セルを使用している。すべてを直列に接続しているわけではないので、1個のセルに問題が起こっても、それに直列接続されている残り6個のセルが使えなくなるだけで済み、モジュール全体の機能が停止することはない。モジュールの仕様は、体積が約7l(リットル)で、重量が約8kg。出力電圧は25.2V、容量は58Ahで、電力容量は1461Whである。つまり、体積エネルギー密度は約208Wh/l、重量エネルギー密度は183Wh/kgとなる。

 この電池モジュールの最大の特徴は、大量生産による大きなコスト削減効果が期待できることだ。ノート型パソコンからEVや蓄電システムに至るまで、幅広い用途を18650サイズの電池セルでカバーしていることから、量産効果が大きいのである。現在、EV用の車載Liイオン電池の価格は、電力容量で1kWh当たり15万円〜20万円と言われている。エナジー社は、「電池モジュール1個の価格を10万円以下にしたい」と意気込む。これが実現されると、1kWh当たり約6万6000円で、現在のEV用Liイオン電池の半額以下になる。また、先述したように、電池モジュールを構成する電池セルの性能が向上していることから、モジュールレベルでの性能も容易に向上させることができる。

 一方、18650サイズの電池セルを用いた電池モジュールでは、サイクル寿命が課題となっている。EV用のLiイオン電池では、EVを5年間利用する前提で、電池モジュールを交換せずに累計10万kmの走行が可能であることが標準的な要求とされている。しかし、ノート型パソコンで用いられている18650サイズの電池セルでは、500回の充放電サイクルで初期の約70%まで電力容量が低下すると言われている。このままのサイクル寿命だとすれば、搭載する電池の容量によるものの、5年/10万kmという要求を満足させることは難しい。エナジー社は、同社の大容量電池モジュールのサイクル寿命について、「EVで用いる場合に、5年/10万kmという要求を満足できるように開発を進めている」とコメントしている。

負極材料のLTOで差異化

 パナソニックと同様に、負極材料を変更することによって差異化を図っているのが東芝である。

 2007年12月に、東芝は、負極材料にチタン酸リチウム(LTO)を採用したLiイオン電池「SCiB」を発表した。このときに仕様が公開されたのが、表1において産業用と示している、容量が4.2Ahの標準電池セルである。標準電池セルの特徴は、5分間の充電で全容量の90%まで充電できる急速充電性能や、充放電サイクルを6000回繰り返しても初期の90%以上の容量を維持する長寿命性能を備えることであった。

 さらに同社は、2009年4月に、HEV用とEV用に開発したSCiBの電池セルを発表している。容量が3.3AhのHEV用電池セルの出力密度は、標準電池セルの約4倍となる3900W/kgを達成した。また、HEVは、走行時において、モーターを回転させるために電力を消費したり、ブレーキのエネルギーを回生したりという動作を繰り返し行う。このため、EV用よりも圧倒的に高いサイクル寿命が要求される。SCiBのHEV用電池セルは、10C(1Cは電池の全容量を1時間で放電/充電させるだけの電流量)という大きな入出力密度での充放電サイクルを1万6000回繰り返しても、初期の96%以上の容量を維持することができたという。東芝の電力流通・産業システム社でSCiB事業推進統括部長を務める河津象司氏は、「LTOを負極材料に用いることで、一般的なLiイオン電池で内部短絡などの不具合の原因になる、負極上における金属Liの析出をほぼなくせる。HEV用の電池セルでは、電解液と電極間の反応を抑えるなどして、サイクル寿命をさらに向上した。2011年度末までに、量産を開始する予定だ」と語る。なお、東芝は、2010年9月に、イタリアFiat Automobiles社の中央研究所とHEV用の電池システムを共同開発していることを明らかにした。

 一方、HEV用と同時に発表されたEV用電池セルは容量が20Ah。標準電池セルと比べて、出力密度やサイクル寿命は同等であるものの、EV用で最も重視されるエネルギー密度を約1.5倍に高めた。2010年9月には、20Ah品と比べて体積エネルギー密度を1.3倍に高めた容量60AhのEV用電池セルを発表している。河津氏は、「20Ah品は、コミュータなどの小型EVや、電動バイク、PHEVなどの用途に最適だと考えている。2011年2月から、柏崎工場(新潟県柏崎市)で量産を始める。60Ah品については、コミュータなどよりも大きな電池容量を必要とするEV向けのものとなる」と述べる。この60Ah品の試作品は、神奈川県や慶應義塾大学などが2011年1月から実証実験を行う電動バスの開発プロジェクトに採用された。

 SCiBの課題は、炭素系の負極材料を用いる一般的なLiイオン電池に比べて、出力電圧が2.4V〜2.5Vと低い点にある。ただし、「SCiBは、金属Liが析出しにくいこともあって、一般的なLiイオン電池よりもSOC(State of Charge:満充電の状態を100%とした充電率)を幅広く取ることができる。これにより、実効的な容量を高められるので、出力電圧の問題はあまり大きいとは考えていない」(河津氏)という。同氏は、今後のSCiBの高性能化の方向性として、「炭素系の負極材料では、通常のカーボンから、カーボンナノチューブやグラフェンなどへと材料の構造や状態を変えることで、性能向上を図る取り組みがある。LTOでも同様のことが可能だろう。このような取り組みによって、出力電圧や容量を向上できたら、Liイオン電池の負極材料はLTOが完全に主流になるのではないか」と予想している。

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