流行のスマートを本当にスマートにするには本田雅一のエンベデッドコラム(3)(2/2 ページ)

» 2011年01月24日 16時06分 公開
[本田雅一,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

スマートなアイデアから生まれた自動画質調整機能

 数年前、東芝のテレビ部隊とミーティングを持ったとき、こんなことがあった。

 テレビメーカーは開発の最終段階で、周囲の照明環境を整え、画質調整を整えて僕らに見せ、それでもオカシイと感じる部分を指摘すると、都度、画質の追い込みを掛けながら最後のトリートメントを行う。

 しかし、この追い込んだ画質を本当に楽しんでもらうためには、部屋を暗くして(想定している明るさの度合いはメーカーごとに異なる)、映像のタイプに応じて画質モードを選択しなければならない。大抵の場合、映画モードが一番気合の入ったモードだ。ところがユーザーの多くは、一番気合の入った、最も見てほしい画質モードをほとんど使わない。存在を知らないか、知っていても適切な使い方が分からないからだ。

 そもそも照明環境が違う場合は、ちょっと画質設定をいじって微調整を掛けてあげなければ、テレビの実力は引き出せない。私は知人宅に行くと、要望に応じて画質調整を請け負ったりするが、普通の人にそれを求めるのは無理だろう。

 「Mさん(東芝の画質調整エンジニア)が画質調整する手法をまとめ、ソフトウェアとして組み込めないか。頭脳はプログラムし、目にはセンサを取り付ければいい。夜と昼の違い、映像ソースのタイプ判別、部屋の照明の色温度なども情報として取り込めれば、自動的な画質を調整できるのでは」。

 そんな話から始まって生まれたのが、“おまかせドンピシャ”という機能だった。デフォルト設定になっているので、ユーザーは購入後にテレビを置きさえすれば、後は自動的に最適な状態にテレビ自身が保とうとする。自動画質調整機能としては、パイオニアがKUROで導入したリビングモードの方が半年早かったが、その後、粘り強く改良を加えて自動画質調整という流れを作ったのは東芝だった。

どんな素晴らしい製品や機能も利用されなければダメ

 同じようなアプローチは、ソニーのレコーダが得意とする、ユーザーの予約状況、予約番組の視聴状況を分析し、自動的に“これって気に入ると思うよ”と判別した番組を録画しておいてくれる。邪魔にならないよう、自分で録画した番組でハードディスクがいっぱいになりそうなときは、自動録画したものを古い方から消していく。

 大容量メディアを用いた機器は、スマートなアイデアを生かせる範囲がとにかく広い。デジタルレコーダのディスク容量は、今年とうとう3Tバイトまで増えてきた。しかし漫然と容量を増やすだけでは、消さずに残しておく番組が増えるだけだ。もちろん、それだけでも十分にユーザーの利点といえばそのとおりだが、たくさんの番組が録画できるようになったなら、大量の蓄積した番組を探しやすく(あるいは以前に録画した映像に対する気付きを与える)アプローチが必要になる。

 録画情報から得られるメタ情報を用いて自動的にデータベース化する機能を、もっとインテリジェンスを感じさせるまでに高めるというのも一つの手だろうし、ネットワークサービスと連動させてインターネット側から録画番組へとつながる道筋を付けることを考えてみるというのも悪くない話だと思う。

 ユーザーは次に製品を買い換えるとき、以前に使っていた製品の体験を基に選ぶ。購入時は新機能に興味を持っても、結局使わなかった機能は記憶の中から消去されている。利用率の低い機能は差異化要因にならなくなるから、衰退してしまう。これは製品そのものにもいえて、どんなに素晴らしい製品でも、購入後の利用頻度が低いものは、もう一度買い替えようとはあまり思わない。子供ができると必ずみんなが購入するカムコーダを買い替える人が少ないのは、稼働している時間が短いからではないだろうか。

“スマート”の流行を自分のものとして消化しよう

 製品をスマートなものにする、というのは、実のところユーザーに対してさりげなく自己アピールし、少しでも手に取ってもらい、自らが持っている機能を使ってもらう。そのための配慮をプログラムすることなのだと思う。

 その手段としてネットワークサービスとの連携や、PCソフトとの連携、あるいはスマートフォンや携帯電話をどう活用するかという枠組みは、また別途議論すべきところだが、まずはユーザーにより多く使ってもらえる製品にすることが大切なのかもしれない。

 その部分を間違えなければ、当初に立ち返って各種スマートデバイスの企画や機能実装を行ううえで間違った選択をすることもなくなるのではないだろうか。例えばパナソニックはVIERA Tablet、シャープはGALAPAGOS(ガラパゴス)をフックにして、インターネットコンテンツを手元で検索、操作しながら、家族で楽しみたい場合はテレビへと再生を引き渡すという利用モデルをInternational CES 2011で提案していた。

 テレビに向かってURLを打ち込むだろうか? という疑問は誰もが最初にGoogle TVなどのインターネット対応テレビに抱く疑問だが、上記のような使い方なら実にスマートにコンテンツを操ることができる。スマートデバイスで何をするか? ではなく、身近な問題をスマートデバイスでどう解決できるのか。

 本当にスマートな製品を生み出すには、発想の方向を逆転させることが必要だ。

筆者紹介

photo
photo

本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

           近著:「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ”」(小学館)


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.