溶接レスで自動生産する“俺自転車”マイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(6)(2/3 ページ)

» 2011年01月31日 19時03分 公開
[三木 康司,enmono]
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思いを実現したくて「デザイナ」が「プロデューサー」に

 プロジェクトが頓挫(とんざ)した後、角南氏は「このデザインを何とか実現したい」と動いていました。

 そんな中、角南氏の母校である千葉工業大学の同期の松崎 元氏に協力してもらえることになったのです。同氏は、現在、同大学でプロダクトデザインの准教授をしていました。

 その後は、松崎氏に協力してもらいながら、角南氏はミニチュアのモックアップを完成させます。

 角南氏は、協力してくれそうな企業を訪問し、そのモックアップを見せながら説得をして回りました。そんな中、前述のコンペを実施した大手量販メーカーのデザインディレクタにモックアップを見せる機会もあり、そこで改めて、角南氏の自転車に興味を持っていただけたのです。

 ただしそれは、あくまでディレクタ氏の個人的な好意であって、大手量販メーカーそのものを再度動かすには至りませんでしたが、その代わり中堅アルミ建材メーカーを紹介していただけることになりました。

 そのメーカーの社長に、ミニチュアのモックアップを見てもらったところ、デザインをほめていただけ、実車製作にも協力していただけることに。

 その後も角南氏は、モックアップや資料を持ち歩きながら加工に協力してくれる製造業を地道に訪ね歩いていきますが、微細加工を得意とする町工場、CADベンダ、材料商社、自転車専門店などが快くプロジェクトに参画してくれたとのことです。

 夢を実現させるために無我夢中で走る角南氏が、ふと気が付いたときには、協力事業者は個人も含め10を超えており、「この自転車を世の中に出そう!」というフォーメーションを組む「プロジェクトクルー」という名前の緩やかな連携体となっていました。

 角南氏によると、mindbikeというこの自転車のネーミングは、実は「mind share」という言葉から発想したということで、このプロジェクトメンバーや個人の方、またデザインを支持してくれるユーザーなどさまざまなひとの「心をひとつに」=「mind share」という思いを反映した名前になっているとのことです。

 角南氏は、企画者、デザイナの仕事の領域を超え、資金調達、知財管理、協力工場選定、販路開拓、プロモーション、セールスまでの範囲に仕事の領域を広げつつあります。同氏は自分の思いを実現するために奔走した結果、いつの間にか、わたしたち(enmono)が育成を目指す「モノづくりプロデューサー」になっていました。

ALT モノづくりプロデューサーの概念図(enmono社資料より)

溶接なしの構造が特徴の自転車

 角南氏が生んだ自転車は、一般の自転車と違い、2本のアルミ押出材をフレーム材とし、ジョイントを介してネジ締結する構造のため、フレームの製造に溶接工程を必要としません。通常の自転車はフレームパイプを治具にセットして溶接することでフレームを完成させます。そのため、フレームの製造には、労働集約的な生産体制が必要だったのです。

 ただし、mindbikeは、アルミジョイントのねじ締結構造にした故に、ジョイント部には応力が集中してしまいます。そこで強度を十分出すために、ジョイントはアルミの一体構造で製作するようにしました。ただ、そのような一体構造の部品製作には5軸加工が必要で、それが実現できる町工場の協力が必要になりました。

 このように、溶接を行わず、2本のまったく同形状のアルミ押出し材をジョイントにして組み合わせる構造にすることで、部品点数が極限まで少なくなりました。自転車の胆(きも)であるフレームに関して、デザイン段階で量産を考慮しているところが、この自転車の特筆すべき点です。

 角南氏がデザインした段階では、ジョイントを使うことまでは考えていたのですが、さまざまな協力者とコラボして行くうちに、生産性も考慮され、製品としての完成度がより高まっていったのです。

ALT アルミの押し出し材を使った2種類のフレームとサドルを支える支柱

 現在普及する自転車の基本形が出来上がったのは100年ぐらい前ですが、その後大きな技術革新は起きていません。この新構造の自転車は、既存のものとは構造がまったく異なります。従来の手作業によるパイプの溶接加工から、2本のアルミジョイント構造で自動化生産可能にしたこと。それは、自転車の世界における大きな技術革新ではないかとわたしは考えています。

ALT mindbikeの特殊な形状を表す1ショット。アルミの押出し材が片側のみで車輪を支えている

 角南氏は、「次の“普通”をつくろうと思うのですよ」といっていましたが、「この自転車で、既存の自転車業界を一新させるくらいの大きな革新を引き起こしてやろう!」という強い思いが、mindbikeからひしひしと伝わってきました。

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