全体最適を目指すグローバルPLMのグランドデザイングローバルPLM〜世界同時開発を可能にする製品開発マネジメント(4)(1/3 ページ)

「国内予選」で疲弊している場合じゃない! グローバルで最適な調達・製造を実現する基盤「グローバルPLMのグランドデザイン」とは

» 2011年02月08日 00時00分 公開
[三河 進/NECコンサルティング事業部,@IT MONOist]

設計開発の海外シフトやグローバル開発におけるビジネス環境変化、それに対応するための課題、今後のモノづくり戦略の在り方や最新の改革ソリューション動向を紹介する。(編集部)

1. コンシューマ製品開発において日本製造業が抱える課題

1)新興国市場で立ち遅れるシェア獲得競争

 今回は、コンシューマ製品、特に耐久消費財に関する経済動向や、グローバルPLM実現のアプローチや改革コンセプトについて紹介していきたいと思います(前回へ)。

 耐久消費財とは、長期にわたって使用される消費財(コンシューマ製品)で、比較的価格が高いものを指します。例えば、自動車、電気製品、家具、住宅、住宅設備のようなものがこれに該当します。また、耐久消費財は、多くの消費者に購入される製品ですので、企画量産型の製造業が開発・生産するケースが多くなります。

 耐久消費財のグローバルにおける市場動向を理解するうえで、新興国における市場シェアをデータで確認しましょう。代表的な耐久消費財であるデジタルTVと携帯電話の、中国とブラジルにおける国籍別の企業シェア獲得状況を見てみます。

図1 新興国市場における各商品の国籍別企業シェア状況 図1 新興国市場における各商品の国籍別企業シェア状況
(平成22年度通商白書掲載資料より)

 まず、中国における日本企業の市場シェアですが、デジタルTVでは約4割を獲得していますが、携帯電話ではゼロになっています。デジタルTVにおいては日本の製造業は一定の成果を収めていると考えることはできますが、携帯電話は「ガラパゴス化」(注1)のために市場参入できていません。

 次にブラジル市場ですが、中国市場では健闘しているデジタルTVもこの市場では10%以下の市場シェアしか獲得できていません。この市場では韓国企業が大きく市場シェアを伸ばしています。携帯電話も中国市場と同様の傾向で、欧米企業と韓国企業が大きく市場シェアを獲得している状況です。

 このように、商品によっては新興国市場で一定の市場シェアを獲得しているものの、「ガラパゴス化」した商品カテゴリーでは海外企業に完全に水をあけられている状況のようです。


注1)ガラパゴス化:生物の世界でいうガラパゴス諸島における現象のように、文化・制度・技術・サービスなどが日本の市場において独自の進化を遂げ、世界標準から懸け離れてしまう現象のことである。技術的には世界の最先端をいきながら、諸外国ではまったく普及していない日本の携帯電話の特異性を表現するために登場した新語である。転じて、日本に限らず世界標準から懸け離れた市場を指す場合もある(参考文献2)。


2)海外企業よりも劣る日本企業の収益率

 経済産業省は、日本製造業は海外企業と比べて、低収益体質になっており、情報通信機器や重電では、日本企業と海外企業の利益率平均は約半分、半導体では3分の1近くになっていると報告しています。

 同一業種のプレイヤーが、日本の場合は海外と比べて多いことが原因の一つだと指摘しています。例えば、日本における液晶TVメーカーは、ソニー・シャープ・東芝・パナソニック・船井電機などがひしめき合っていますが、北米ではVIZIO、欧州ではフィリップス、アジアではサムスン電子・LGエレクトロニクスなど少数であり、日本と比べ相対的にプレイヤーが少ないのが現状です。

図2 各産業の主要プレイヤーの概要 図2 各産業の主要プレイヤーの概要
出典:『産業構造ビジョン概要』(経済産業省、2010年6月)

 また、日本企業と韓国企業の1社当たりの市場規模を比較してみると、韓国の方が大きいといわれています。韓国の経済規模が日本よりも小さいということを考えると、日本の製造業の国内市場における競争がいかに激しいかということが分かります。

 日本の製造業は国内予選で疲弊し、利益率を低下させているのに対し、韓国などの海外企業は国内予選による消耗が少ない状態で、海外進出への投資を大胆に行うことができるのです(参考文献3)。

3)価格が下落する耐久消費財

 電気製品の物価下落も日本企業の低収益体質に影響しています。

 総務省から消費者物価指数(商品の価格の変化を客観的に表す指数)が公表されています。電気製品などの消費財について、最近20年間の推移を見てみましょう。

図3 主要財の消費者物価指数(全国)の推移 図3 主要財の消費者物価指数(全国)の推移
資料:総務省統計局HPで公表されている消費者物価指数データから作成

 図3から、家庭用耐久財(白物家電など)と教育娯楽用耐久財(テレビ・DVDレコーダ・パソコンなど)の物価が大きく低下していることが分かります。昨今デフレ現象が指摘されていますが、設備材料(浴槽や温水洗浄便座など)や自動車は、この20年間の物価の変化は小さく、総合や食料に近い動きをしており、比較的安定しているといえます。

 家庭用耐久財や教育娯楽用耐久財の大きな物価下落は、もともと新興国と比べ高コスト体質の日本企業をさらに苦しめる要因になっているのではないでしょうか。中国や台湾をはじめとする新興国の急速な工業化や、技術情報を世界中に瞬時に伝達ができるインターネットなどのIT革新が、グローバルレベルの価格の平準化をもたらしているのではないかと考えられます。

4)業務改革のスピードを阻害する要因

 このようなビジネスが急速に変化する市場環境の中、日本の製造業もそれに合わせた戦略立案や業務改革を遂行する必要があります。しかし、業務改革を戦略どおりにスピーディーに遂行できないと苦戦されている業務プロセス改革を担当されている方も多いのではないかと思います。

 日本の製造業では1990年代に入ってから、3次元CADPDMの導入が進められ、それらを活用した開発プロセス改革は、飛躍的な開発生産性向上をもたらしたといえます。しかし、3次元CADやPDMの選定が製品別の部門・拠点別で行われることが多く、結果として、部門・拠点の間でのデータ共有を行うために、人間が介在し、データ変換を行ったり、Excelや紙に転記して他拠点に情報を転送したりするケースが多くなっています。

 最近は事業再構築や合理化を目指して、それまで別企業や別事業部門であった製品開発組織が統合・再編成される機会が増加しています。しかし、容易に業務プロセス統合は実現できず、組織としては統合されても、部品コードや開発プロセス、支援システムは従来のままで、人間の介在で対応しているのが日本企業の現状です。過去からの経緯で、組織別に、ボトムアップ的に導入された開発支援システムや業務プロセスが足かせとなり、現在の急速に変化するビジネス環境に合わせて俊敏に変化・適応できない状況になっているのではないでしょうか。

 次章では、このようなビジネス・業務環境下における日本の製造業がどのように業務改革を進めればよいのか、についてのアプローチの考え方についてご説明します。



世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」

 世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。



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