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» 2011年03月09日 16時00分 公開

変わりゆく中国の日系製造業(1):中国企業に部品提供を始めた日本のサプライヤ (2/3)

[藤井 賢一郎/アスプローバ,@IT MONOist]

安い賃金で安い製品を作るといったセオリーは崩れ始めた

 ここで見えてくる現実は、中国工場であっても人さえ多量に投入すれば問題が解決する、という発想の時代は過ぎ去ったということです。労働賃金の高騰や内陸からの労働力提供能力の低下だけでなく、生産に合わせて必要な労働力を必要な部署に配置せねばならないといえます。

 こうした判断は、これまでの表計算ソフトウェアなどを駆使した分散化された情報処理で可能でしょうか? 答えは否です。個々の工程を管理する手法では全体最適を目指すことはできません。これからは、トータルに工場全体を「見える化」できるツールでのシミュレーションが不可欠でしょう。

 さらに貧富の差が激しい中国市場でそれぞれの購買層に合致した製品を製造するためには、高級品と廉価品の生産計画のバランスも重要な課題です。

 現在、多くの日本の大手製造業が抱える中国工場では、原価管理システムの構築を目指しています。その目的は、日本の場合のようなコストダウンというよりは、工場での利益を見える化することにあります。

原価管理の例 原価管理の例(画像は先の部品メーカーの例)

カンバン方式の成功と失敗

 トヨタを取り引き先としている間は、カンバン方式の生産が必須ということになるのでしょうが、これも現実には厳しい状況です。まず、ティア2のサプライヤが現地企業である場合は、思うようには材料が手に入りません。さらに、トヨタ以外のOEMとの仕事を始めるとなると、たちまちラインは混乱に陥ります。

カンバン方式、現地OEM、現地サプライヤ……方式の違う取引先とうまく付き合う方法

 筆者が先日訪問したあるサプライヤ企業では、この点をうまく運用されていたので参考までにご紹介しましょう。

 製品としては自動車用のハーネスを中国にある日系・中国系・欧米系の顧客向けに納入しています。

 この企業の場合、戦略的にトヨタと合弁した中国の企業、トヨタと関係のある欧米企業とだけ取引をしています。自社からして納品先と調達先であるこれらの企業とお互いに生産情報を公開し、引き取り責任を独自の契約方式で決めています。その内容については、企業秘密ですのでここでは書けませんが、当社製品は、現時点から1カ月先の生産計画までの生産スケジュールと必要資材の計算をして、この企業の生産情報公開の心臓部ともいえる役割を果たしています。よって、この企業では、リレーショナルデータベースをバックアップとして2つの環境の生産スケジューラが同時に動いています。一方が他方のバックアップとなるとともに、シミュレーションの環境としても新しい受注の納期回答に利用するなど有効利用されているケースです。

中国国内の物理的ロジスティック

 広大な中国市場においてもサプライチェーンマネジメントシステムのようなIT機能を利用したとしても、トラック輸送の遅延といった物理的なボトルネックは解消しません。天候に弱い交通機関や渋滞による物流の停滞も、日本以上の問題になっています。こうした事情から、日本の自動車部品工場が日本の取引先の工場に併設されて同じ開発区にある光景はよく見かけます。

 日本国内にいては想像もできないような広さのこの国では、少なくとも最終製品の自動車を作る工場の近くに部品工場を配置することが求められます。最近、日本の中小の自動車部品メーカーの工場を誘致しようとしている中国の開発区が、皆そのような位置に存在していることからも明らかです。

 華南で訪問した台湾と日本の合弁会社の工場では、交通の手段として高速道路だけでなく運河も利用できる場所に大きな工場を建てていました。国内の製造物流で船を利用するという発想の企業は中国でもまだ少ないようですが、費用面や渋滞がないという点で利点が多いそうです。

 さらに、同じ企業グループ内のトラック便の配送では、高速道路を利用して「ミルクラン」(巡回集荷)方式の運用をしているそうです。こちらの方式については、日本側からの提案を受けて実現した仕組みだということです。

 資材や人件費が安くても、原油の高騰などで思いのほか運搬費用にお金が掛かっている現実が広大な中国市場にはあります。

 こうした事情からこの企業では、ロジスティック上のデポ在庫の最適化、工場間の最速の搬送路のシミュレーションなどを実現すべく、システム導入を検討中です。

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