グローバル展開を支えるモノづくり系女子経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(5)(1/2 ページ)

経済研究所の研究員が、さまざまな切り口で加工技術や現場事情を分かりやすくレポートするシリーズ。よりよい設計をしていくために、加工事情について知識の幅を広げていこう。(編集部)

» 2011年03月11日 11時00分 公開

 機械振興協会 経済研究所の山本 聡です。花粉の量が日増しに増えている今日このごろですが、読者の皆さんは体調にお変わりはないでしょうか。当方、不思議なことに毎年、数週間ほど花粉症の症状がひどく出るのですが、その後、ピタッ!! と治まります。通勤中の電車でクシャミを連発しているのですが、何とかこの数週間、耐えようと思います。

 ……さて、季節のあいさつはこれぐらいにして、本題に移りましょう。当方のここ数年の研究テーマの主軸は「モノづくり中小企業がいかに技術を売ればよいのか=新規受注先を獲得すればよいのか」というものです。一般的なメディアでは「日本の中小企業=技術のみ」という思い込みがあまりに強いように感じます。ところが、世の中には大企業もかくやと思わせるような営業戦略で、自社技術を巧みに売っているモノづくり中小企業がいくつも存在します。そして、昨今、国内市場が縮小する中で、積極的にグローバルマーケティングを展開し、勇躍、海外市場に参入する中小企業も現れています。本連載第5回は独自の展示会戦略で海外市場を見据える「MSTコーポレーション」を紹介します。

1.色とりどりのツールホルダー工場

 MSTコーポレーション(旧 溝口鉄工所、従業員数220名)はマシニングセンター用のツールホルダーなどの開発・製造・販売を手掛けています。ツールホルダーとは工作機械に切削工具であるエンドミルやドリルを固定するための工具保持具で、高精度な加工をするためにはなくてはならない存在です。同社ではおよそ6000種類のツールホルダーを製造しています。自社の製造現場でMSTコーポレーション製のツールホルダーを使用されている読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

alt 写真1 MSTコーポレーションのツールホルダー:高精度加工には性能の良いツールホルダーが必須です。

 それではまず、同社の本社工場を訪問してみましょう。読者の皆さんはもうご存じのとおり、筆者は一年間に100社近くの工場に伺わせていただいています。日本だけでなく、アジアの現地企業の工場にもいくつもお邪魔しています。そのため、大抵のことでは驚かないのですが、MSTコーポレーションの本社工場には久しぶりに驚嘆してしまいました。同社の工場は5Sが徹底されているばかりでなく、カラーリングや装飾が目に優しくほどこされています。その中で、自動化と熟練の技術を高度に組み合わせたモノづくりが行われているのです。


alt 写真2 MSTコーポレーションの本社工場:奈良県生駒市の丘を上っていった先に、おしゃれな本社工場が立っています。
alt 写真3 MSTコーポレーションの本社工場3:工場の天井がきれいにカラーリングされているのが分かるでしょうか? 右下、枠内の画像は、プロジェクト打ち合せ室「サンタフェ」

2.キーワードは展示会

 MSTコーポレーションは1937年に福岡県で創業、1965年に奈良県生駒市に本社・工場を移転しています。創業当時は、くぎを製造するための工作機械の製作なども手掛けてられていたとのことです。その後、ツールホルダーを事業のメインとする中で、いくつもの大手国内工作機械企業と取引関係を構築していきます。ただし、ツールホルダーは工作機械用の工具保持具であるため、必然的に経営業績が工作機械の販売動向に強く影響されることになります。皆さんご存じのように2003年ごろから国内機械産業は海外輸出を基盤にすることで、戦後最長の好景気、イザナミ景気に突入していきます。こうした傾向が最も顕著だったのが工作機械業界です。それまで、海外販売比率が全体の15%程度と低かった同社もまた、海外輸出を本格的に志向するようになっていきました。

 同社は海外企業からの受注獲得のために、海外展示会への出展に力を入れるようになります。かつては国内と海外の展示会に合わせて年間4回か5回程度、出展するだけでした。特に海外展示会ではあまり能動的なアクションは取らず、海外代理店にすべて依存しているような状況でした。ところが、現在では海外展示会だけで年間最大18回ほど単独出展しています。また、同社が出展する展示会の開催国もアジア、欧米、そのほかと世界中を視野に入れているのです。その結果、現在では売上全体の約40%を海外輸出でまかなうまでに至りました。

 なお、同社はただ単に数多くの海外展示会に出展しているわけではありません。そこには同社固有の巧みな営業戦略が存在するのです。

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