日本の技術力で今の危機を未来のチャンスに本田雅一のエンベデッドコラム(5)(1/2 ページ)

震災後、日本のエネルギー政策は見直し・路線変更を迫られている。10年後に子供たちが笑える日本を作るために、日本が誇る技術力で何ができるだろうか。

» 2011年03月25日 14時00分 公開
[本田雅一,@IT MONOist]

東北地方太平洋沖地震について

このたびの大震災で被災された皆さま、ご家族ならびに関係者の皆さまに心からお見舞いを申し上げます。


@IT MONOist編集部一同



見直しを迫られる日本のエネルギー政策

 新たなコラムを書き始めていたところに、強烈な地震がわが家を襲った。

 ……いや、わが家の地震被害など、まったくゼロに等しい。多くの人が家族と財産を失い、生きる目標さえも失いつつある。復興に向けて力を集中させなければならない時、原子力発電所の事故は同時に起こってしまった。次々に明らかになるずさんな監視・保安体制は、行政組織そのものにまで根深い影を落としつつある。

 日本はこれから10年以上にわたって、エネルギー問題に苦しみ続けることになるだろう。ここ最近、過去10年の世界のエネルギー政策の変遷を振り返りながら情報をまとめているのだが、原子力以外に有効かつ長期にわたって運用できるエネルギーは見つかっていない。

 とはいえ、日本の原子力行政が終わってしまったことは、もう決まったように思う。どれほど反省を踏まえた上で安全体制を整備し直したとしても、必要性が明らかであったとしても、社会的に許される状況ではなくなってしまった。原子力利用の是非を問うどころか、既存の原子力施設の運用そのものに疑問が投げかけられるに違いない。

東京が“ひきこもり”に

 とはいえ、下を向いているわけにはいかない。

 関西に在住の方は、いまひとつ東京の状況をつかめていないかもしれないが、東京自身が大きな地震とその後の多数の余震に見舞われたこと、原子力事故に絡んで生活環境に不安が襲ってきていること、電力不足による通勤難、娯楽産業や小売り店の営業自粛などで、生産的なモードには戻りつつあるものの、消費は大幅に抑えられて別の街のようになっている。知人は「東京全体がひきこもりだ」と言ったが、まさにその通りの状況にある。

 だが、ひきこもりの東京人は、東日本以外に住む日本人だけでなく、世界中の人たちが今、普通に今までと同じ暮らしをしていることを思い出さなければならない。彼らは東日本の惨状に同情を示しながらも、日々、自らのライフスタイルを全うしている。電力問題は深刻だが、東京周辺に住む人たちは“被災者”ではないのだから、当事者のように振る舞うべきではない。

 ……と、このように書いている自分自身、この2週間は不安で仕方がなかったのだから、他人のことを批判できた義理ではない。だが、ここまで来たら、自分のできることをやるしかないだろう。

 今さら言うまでもないが、エネルギー政策は全ての産業の根幹を担うものだ。原子力発電容認の方向で、世界中のコンセンサスが取れはじめていた中で、日本とフランスの発電プラントの輸出といった表面的なものだけでなく、原子力前提でさまざまな産業が発展してきていた。

 現在のスマートグリッドに関連した技術を見ていくと、かなり多くの技術が電力消費の平準化や蓄電に関連していたり、電気自動車が未来の乗り物として実用化が進みつつあったのも、原子力を前提とした低コスト・低排出の夜間電力応用という基本的な考え方があったからだ。

 米国やロシア、中国、韓国などは、今後も原子力発電を積極的に進める意向を示しているため、日本(あるいは欧州でも見直しが進むかもしれないが)以外の主要市場は、これまでと変わらない枠組みで、さまざまな技術開発・製品開発が進んでいくだろう。

※記事の“ひきこもり”の箇所は初出時の表現から変更しました。


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