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» 2011年04月01日 00時00分 公開

普及の鍵は、ミリ波レーダーの低価格化:大衆車にも求められる「予防安全」 (4/7)

[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

SiGeの送受信ICは実用化、CMOS品の開発も進む

 現在、車載ミリ波レーダーを製造しているティア1サプライヤは、低価格化を強く意識した製品開発を進めている。ここでは、大手サプライヤとして数えられる富士通テンが、低価格の車載ミリ波レーダーを開発した際に行った取り組みについて紹介する。

 富士通テンは、1970年代から車載ミリ波レーダーの開発に取り組んできた。同社のミリ波レーダー製品は、1997年にコマツのダンプトラックに初めて採用された。乗用車向けでは、2003年に本田技研工業の「インスパイア」にACC/プリクラッシュ用のものとして77GHz帯のミリ波レーダーが初めて採用された。その後、2003年の製品を薄型化した改良品を2006年に発表している。また、先述したレクサス LS460の後方プリクラッシュとクラウン マジェスタの前側方プリクラッシュは、富士通テンの77GHz帯のミリ波レーダーを使用している。これらの採用実績により、同社のミリ波レーダーの累計出荷台数は、2003年〜2010年の8年間で20万台を超えた。

 同社のITS技術本部 システム統括部 技術三部で部長を務める梶岡英樹氏は、「今後、ミリ波レーダーのさらなる普及拡大を進めるには、低価格化が必須だ。そこで、2013年初旬からの量産に向けて、低価格化と薄型化を実現した前方用の77GHz帯ミリ波レーダーの開発を進めている」と語る。このミリ波レーダーの試作品(以下、開発品)は、韓国釜山市で2010年10月に開催された『ITS世界会議釜山2010』に参考出品された。

写真1ミリ波レーダーユニットの外観 写真1 ミリ波レーダーユニットの外観 右が2006年の製品、左が開発品である。

 開発品の低価格化と薄型化は、主に2つの取り組みによって実現された。1つ目は、水平方向の一定範囲を検知するために行うレーダーのスキャンについて、メカニカルスキャン方式から電子スキャン方式に変更したことである。2006年までの前方用77GHz帯ミリ波レーダーは、ミリ波の送受信回路とアンテナを搭載したモジュールをモーターによって左右に動かすメカニカルスキャン方式を採用していた。これに対して、電子スキャン方式では、複数のチャンネルを使って受信を行い、受信チャンネル間に発生する位相差を利用して検知角度を算出する。「メカニカルスキャン方式ではモジュールをモーターで動かすためのスペースと部品が必要だった。電子スキャン方式ではこれらが不要になった」(梶岡氏)という。開発品と従来品のサイズを比べると、ミリ波の送受信を行う開口部の面積はほぼ変わらないものの、厚さは半分以下になっている(写真1)。従来品に用いていたモーターなどの機構部品をはじめ、部品点数も大幅に削減された。

 また、電子スキャン方式の採用によって、検知角度範囲が従来品の2倍となる±15度に広がった。一方、電子スキャン方式は、メカニカルスキャン方式と比べて、一般に検知角度の分解能(検知精度)が低いという問題がある。だが、梶岡氏によると、開発品では、「富士通研究所と共同開発した高分解能検出方式を採用することで、従来品と同程度の分解能を確保することができた」という。

 2つ目は、送受信回路の集積化である。梶岡氏は、「従来品で用いていたGaAsベースの送受信回路と比べて、高度に集積化したものを採用した。低価格化については、送受信回路の集積化も大きく貢献した」と述べている。この「高度に集積化した送受信回路」については詳細は明かされなかったが、SiGeプロセスを用いた送受信ICを用いていると考えられる。

 なお、開発品の制御ソフトウエアは、車載ソフトウエアの標準規格であるAUTOSARに準拠している。梶岡氏は、「顧客ごとに異なる個別の要求に対して、ソフトウエアレベルで容易に対応できるように行った取り組みだ。AUTOSARに準拠することにより、ミリ波レーダーユニットの中に、自動車の制御機能に関連するアプリケーションを組み込むことも可能になった」と述べている。

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