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» 2011年05月11日 11時00分 UPDATE

再検証「ロボット大国・日本」(1):日本は本当に「ロボット大国」なのか (2/2)

[大塚実,@IT MONOist]
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日本の得意分野とは

 日本は「ロボット大国」や「ロボット王国」などと呼ばれることが多い。「日本のロボット技術は世界一」だと信じていた人もたくさんいるだろう。ところが、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって引き起こされた東京電力・福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故では、最初に投入されたのは米国製の「PackBot(パックボット)」であった。「なぜ日本のロボットが使われないんだ」という失望の声も多く聞いた。

photo その後、日本のレスキューロボット「Quince(クインス)」の投入準備も進められてはいるものの……

 日本を「ロボット大国」たらしめているのは産業用ロボットの分野においてである。一時期よりもシェアを下げたとはいえ、日本のロボットは世界シェアにおいて7割程度を占めている。国内のロボット産業の市場規模は7000億円程度と言われているが、その大半は産業用ロボットである。

 ロボットにはさまざまな種類があり、なかなか一概には言いにくいのだが、普通の人が「ロボット」と聞いて想像するのは2足歩行のヒューマノイドロボット(以下ヒューマノイド)だろう。ところがヒューマノイドは、まだ市場としては全く成立していない。日本は確かにこの分野で技術的に進んでいるが、ホンダの「ASIMO」にしても産業技術総合研究所の「HRP-4」にしてもまだ研究段階に過ぎず、とても実用的に使えるレベルには至っていないのだ。

 では他の分野ではどうなのか。少し古い資料になるが、日本機械工業連合会と日本ロボット工業会が2001年にまとめた「21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」には、ロボットの各分野における欧米との競争力を比較した結果が掲載されている。これによれば、日本の競争力が高いのは産業用ロボットや建設ロボットなど一部だけであり、その他の分野においては決して優位ではないことが分かる。

photo ロボット分野の国際競争力比較(出典:21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書)

 原発災害対応のロボットに関しては、国内ではそもそも市場が全く存在しなかった。「原発で事故などあり得ない」としてきた国や電力会社の姿勢が問題と指摘する向きもあるが、もともと使用頻度が極めて少ないものであるだけに、市場原理だけに任せていてはメーカーによる実用化は難しい。1999年の東海村JCO臨界事故の後、実用化を目指した国家プロジェクトもあったが、継続されなかったためにその後につながらなかった。ここは国が戦略的に取り組む必要があるだろう。

ロボット大国の混迷

 原発に限らず、「長期的な戦略の欠如」が日本という国の問題点として指摘されることは多い。さまざまな事例があるだろうが、筆者が取材した中で記憶に新しいのは、2009年8月から約1年間、計9回の会合がもたれた「月探査に関する懇談会」における月探査ロボットの議論である。

 日本の宇宙開発を担う宇宙航空研究開発機構(JAXA)には、もともとSELENEシリーズとして、数機の探査機を月に送り込む構想があった。第1段階はリモートセンシング(遠隔観測)、第2段階は月面着陸、第3段階はサンプルリターン(月の石の取得)という、技術レベルを段階的に上げていく堅実なアプローチで、この第1段階として、月周回衛星「かぐや」が2007年9月に打ち上げられていた。

 ところが政治主導をうたって、内閣総理大臣を本部長とする「宇宙開発戦略本部」が2008年に発足。その後策定された「宇宙基本計画」には、なぜか月探査に関し「わが国の得意とするロボット技術を生かして、2足歩行ロボットなど、高度なロボットによる無人探査の実現を目指す」という指針が盛り込まれていたために、この2足歩行を巡って議論はしばしば紛糾した。

 極限環境(真空・高温/低温・不整地など)の月面でなぜヒューマノイドなのか。技術的なハードルが高い割に、メリットはあまりない。ヒューマノイドの利点の1つに「人間と同じ道具が使える」というものがあるが、既存のインフラが何もない月面では、その必要性があるとは思えない。基地構築の作業などに、汎用的に使える2本の腕があるのはいいと思うが、下半身まで人間の形をマネする必要があるのか。また腕は場合によっては3本でも4本でも構わないだろうが、ヒューマノイドならば2本じゃないとダメなのか。

 委員からは、月面で活動できるヒューマノイドの研究をすることで、その成果が地上のロボットにも反映されて、産業化が促進されるという意見もあった。確かにそれも一理あるが、果たしてそれを宇宙でやる必要があるのか。2足歩行に拘れば、コストも余計に掛かるだろう。国費でやる以上、費用対効果を無視してもらっては困るし、それに肝心のミッションが失敗してしまっては元も子もない。地上での実用化が目的ならば宇宙とは切り離した別のプロジェクトとして実行すべきだろう。

 何とも釈然としない思いで議論を聞いていた覚えがあるが、結局は技術的な実現可能性から、最終報告書では「ローバータイプが有力」というところに落ち着いた。これは妥当な判断と言えるだろう。

 そもそも、一体どういった経緯で「2足歩行」という文言が入ったのか筆者は詳しくは知らないが、「日本らしい」という安直な発想はなかったか。あるいはもっとドロドロした事情があるかもしれないが(「2足歩行ロボットなど」の部分がなくても文章として意味は変わらないのに、あえて入れているあたりに何らかの意図は感じる)、いずれにしても議論の前から「2足歩行」という“結論”を暗に提示してしまったことが不要な混乱を招いた原因であろう。

いまあらためてロボット連載

 現在はメディアでなくとも、さまざまな情報を直接的に得ることができる時代である。また逆に誰でも情報を発信することができて、それが大きな動き(ムーブメント)になることだってある。これからのエンジニアは内輪の議論にこもらずに、専門的な知識を持ってぜひ業界外とも積極的に意見を交換してほしい。決して国任せ・人任せではなく、1人1人が自分で考えて意見を出し合うことで、よりよい方向性が見えてくれば望ましいし、そのための材料提供ができればと思う。

 この連載では、ロボット技術やビジネス動向などについて、各分野のキーマンにインタビューすることで、現在の状況や問題点、あるいは今後の展望などをお伝えしていきたいと考えている。分野としては、いま注目されているレスキューロボットや、宇宙ロボットなどもカバーするつもりだ。インタビューはこれから開始するところなので、どういう順番になるかはまだ決まっていないのだが、しばらくお付き合い頂ければ幸いだ(次回に続く)。


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筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機『はやぶさ』の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


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