中小製造業の「現地化が難しい理由」は間違いだらけ変わりゆく中国の日系製造業(3)(3/3 ページ)

» 2011年05月17日 09時00分 公開
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現地化が難しいといわれる中小企業の中国工場、本当にそうなの?

 日本の中にいると資金や体制などの面で中小企業の海外工場での成功は難しいとよく耳にします。筆者も日本で仕事をしていたときには、この情報と、それによる固定観念を持っていました。現地に身を置くようになったいま、あらためて思うのは、中小企業の海外工場の成功が難しい理由は資金や体制だけの問題なのか、ということです。

 資金力と人材の豊富さといっても、日本国内での話です。一度中国という“外国”に出てしまえば、日本の製造業が置かれる困難な環境は大企業であれ中小企業であれ同じだと思うのです。

未体験の地で、現地化に向けてどう投資をすべきか

 発展途上であるこの国では、政府資本の有無などの差はあるものの、多くの企業が同じスタートラインから出発しています。こうした環境では、完成度よりもスピードが求められる市場といえます。このことはつまり、意思決定の早い中小企業にとっては大企業よりも有利な面もあるのではないでしょうか?

 われわれのような日本国内からスタートしたソフトウェア製品の製造業にとっては、海外での成功事例、学ぶべきケーススタディというものがありません。

 そのため、失敗を恐れずに紆余曲折を繰り返しながら、最適な販売方法を探す方法しかなく、頻繁に発生する人材流出の問題に関しても、企業としての明確な計画と実績の積み重ね、現地人のモチベーションを維持する経営者のメッセージが必要と思われます。

 中国自体は高度成長を続けているため、日本の高度経済成長期のイメージと重ねて見る方もいますが、日本の高度経済成長期とは全く異質のもと考えるべきです。日本企業にとって、中国でのビジネスは過去に日本が経験したことではなく、全く別の外国の事柄です。

日系製造業のビジネス継続率 日系製造業のビジネス継続率(2001年〜2010年の登記企業数/累積許可件数)
(『中国対外経済統計年鑑』中国統計出版より引用)

目指す「現地化」は一体どのパターン?

 いまさらながらではありますが、ここで再度、「現地化」の意味を問い直してみましょう。皆さんが目指しているのは、どんな「現地化」でしょう?

 製造業における現地化とは、中国人だけで工場運営をすることでしょうか?

 製品の販売先を中国国内に多く持ち、この地で利益を上げることをゴールとするのでしょうか?

 製品の製造にあたり部材調達を全て中国国内で実現することでしょうか?

 本来、製品の設計開発から製造・販売までを中国人が行うようになった場合、その企業は日系製造業といえるのでしょうか?

 筆者自身は、日本の製造業が持つ極めて優秀で精緻な生産方式を現地に根付かせてこそ現地化といえるのではないかと思います。中国には、日本以外の国の企業も多く進出してきています。

 外資系は日系と比較すると給与が高く高待遇とはいわれますが、人事面での評価も厳しく、現地スタッフは自らの意思でジョブホップする以前にリストラされるという現実もあります。こうした状況のためにますます企業に根付く人材が少なくなっているのです。

人材育成に長ける企業文化を守る

 日本企業はもともと安易にリストラをしない企業風土があります。この特徴を大いに利用し、存在意義を示せばよいのではないかと筆者は考えます。

 当社も当初は勘違いしていましたが、実利主義的であれば、目先の労働対価とインセンティブのみを重視するのかというと実はそうではなく、子どもがいて家庭を持つ社員であれば安定的に雇用されることを希望するという点では、日本人と変わりません。

 「現地化」とは言い換えれば、日系企業がそれぞれの立場で中国国内にその存在意義を創出していくということにほかなりません。このことをよく理解して挑まなければ成功は難しいといえるでしょう。

 次回は、中国の地で独自の技術と管理方法で結果(利益)を出している企業、いまだに現地化が未熟なIT企業、日本を引き払い中国から世界へ事業展開を進める世界的なサプライヤ企業などの実例をもとに、中国でのベンチャー企業のビジネスの確立の行程(問題点や解決策など)を検証していきたいと思います。


著者略歴

アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)


日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。


【お知らせ】
上海法人では事例セミナを定期的に開催。中国市場に進出希望の日系企業、既に進出しているがいまだに現地化や収益改善のできていない工場などで、興味のある方は、下記Webサイトまたは「中国進出相談室」(日本語)まで。



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