【ESEC2011】満を持して新設されたAndroid開発ゾーンに注目してみた組み込みイベントレポート(1/3 ページ)

2011年5月11〜13日の3日間、東京ビッグサイトで「第14回 組込みシステム開発技術展(ESEC2011)」が開催された。その中で盛り上がっていた展示の1つがAndroid関連の技術だ。本稿では、ESEC2011会場で筆者が注目したAndroid関連技術/ソリューションを中心に紹介する。

» 2011年05月19日 12時50分 公開
[小山安博,@IT MONOist]

 2011年5月11〜13日の3日間、東京ビッグサイトで「第14回 組込みシステム開発技術展(ESEC2011)」が開催された。その中で盛り上がっていた展示の1つがAndroid関連の技術だ。本稿では、ESEC2011会場で筆者が注目したAndroid関連技術/ソリューションを中心に紹介する。

増え続けるAndroid製品のテストをより簡単に

 Android向けで幾つか出展されていたのが、Androidを搭載した組み込み機器のテストを行うためのツールだ。

 ハートランド・データは、動的テストツール「DT10 Ver.5.00」を出展。トレースデバッグによって動作を検証するDT10は、ターゲット端末を実際に動作させて、その実行経路から検証でき、効率的なデバッグが可能。また、周期や実行時間、実行回数などの設計値を登録し、異常があれば警告を出すこともできる。従来のDT10では、組み込み向けに特化したテストツールだったが、新バージョンではAndroidに対応し、SDカード経由の接続やJavaのテストもサポートする。もともとLinuxのカーネルの検証は可能だったが、「新バージョンではアプリケーション層の計測もできるようになった」(説明員)とのこと。

ハートランド・データのデモ(1)ハートランド・データのデモ(2) 画像1(左) 下に置かれているのが「DT10」/画像2(右) 操作したAndroidの動作を記録してくれ、それを解析・表示する

 ソースコードの中に直接マクロを埋め込んでテストポイントとするため、CPUを問わず利用できる点が特徴で、「今回、Androidをサポートしたことで、さらに盛り上がるAndroid市場に向けてDT10を提供していく考えだ」と説明員はいう。

関連リンク:
ハートランド・データ

 同様に、Android開発向けのテストツール「Android自動テストツール」を出展していたのが東芝情報システムだ。現段階では自社以外への提供・販売の予定はなく、今回は“自社の製品テストで利用している”ことをアピールする目的でESEC2011に出展したそうだ。

 Android自動テストツールは、Excelでテスト仕様書を記述してテスト用のアプリケーションを自動生成、ターゲット端末上で自動的にテストを実行するというツールだが、「一番のポイントは“実機オペレーション”の機能だ」(説明員)という。ブラックボックステストにより、開発者ではなくてテスターが実機を操作し、その操作を記録することで、人が実際に行う動作でのテストが自動で行える。一度の操作で記録したものを、自動で複数回実施することで繰り返しテストを行うことも可能。「少ない労力で正確なテストを実施できる」(説明員)としている。

東芝情報システムの「Android自動テストツール」 画像3 東芝情報システムの「Android自動テストツール」は非常にシンプルで、手動で操作した動作を記録して繰り返しテストなどが可能だ
関連リンク:
東芝情報システム

その場の人たちに通信いらずで情報配信する「Spot Pocket」

 ゼロソフトが開発する「Spot Pocket」は、近接するモバイル端末同士をワイヤレスで接続し、情報を共有する“分散協調型仮想モバイルストレージプラットフォーム”と呼ばれるものだ。そもそもこの考え方は、電気通信大学 笠井研究室によって提案されたもので、同社と笠井研究室が共同でSpot Pocketを開発した。

 Spot Pocketは、モバイル端末同士を無線LANのアドホックモードで接続し、P2P通信で情報を共有する仕組みで、1対1だけでなく、周囲の端末同士が接続することで、複数の端末に同じ情報を配信できるというのが特徴だ。

 例えば、Spot Pocketで広告コンテンツを配信するデジタルサイネージがあり、その周囲にモバイル端末が複数あった場合、それぞれがアドホックで接続して次々と広告コンテンツが配信される。さらに、Spot Pocketのエリアから離れると、配信された広告コンテンツの表示を消す仕組みも備えている。スーパーに設置されたデジタルサイネージから特売情報を配信するなどの利用が考えられるという。各モバイル端末はインターネット接続する必要がなく、“その場に行かないと情報が得られない”という点で、クラウドとも異なり、サーバも不要で情報配信ができる点が特徴だ。

 今回、同社ではSpot Pocketのアーキテクチャを利用するためのインタフェースとユーティリティ群からなるSDK(Spot Pocket SDK)を提供。Android端末でこのSDKを利用することで、Spot Pocketを利用したアプリケーションを開発できるようになる。ただし、現状ではAndroid 2.2がアドホック接続に対応していないことから、これをカスタマイズして機能を実現している。

 「情報を持つ端末が1台あれば、その他の端末はインターネット接続が不要なため、例えば、1台だけ通信ができて、他の端末が通信できないというような状況でも、Spot Pocketを用いれば周囲の端末に情報を配信できる。そのため、災害時の情報配信にも活用できるのではないか」と説明員。

 ブースでは、このSpot Pocketを使ったアプリケーションとして「buzzool」「Spot Signage」の2種類を参考出展。buzzoolは、固定された無線LANアクセスポイント付近にいるユーザーがメッセージを残すと、それが常にその場に漂い、別のユーザーが近づくと、そのユーザーの端末に先ほど残されたメッセージが表示されるというものだ。「例えば、駅の伝言板のようなイメージの使い方ができる」(説明員)という。

Spot Pocketを使ったbuzzoolのデモ 画像4 Spot Pocketを使ったbuzzoolのデモ。2つの無線LANアクセスポイントに接続しており、両方で投稿された情報が表示されている

 一方のSpot Signageは、デジタルサイネージとして利用するためのアプリケーションで、無線LANアクセスポイントの近くにユーザーが来ると、デジタルサイネージに広告コンテンツを配信・表示して店舗に誘導するというもの。初期投資も抑えられ、店の近くにいるユーザーだけに配信でき、店から離れると不要な広告は消えるという特徴がある。

 Spot Pocketのアーキテクチャでは、対応するAndroid端末であれば全て情報の配信元になれるが、「構造上、周囲の対応端末を自動的に配信に利用するため、配信情報の精査が必要だ」(説明員)として、まずはデジタルサイネージなどでの用途を見込んでいるという。また、無線LAN端末同士を直接接続するためのWi-Fi Direct機能が普及すればより使い勝手が高くなると見ており、今後、Wi-Fi Directへの対応もしていく予定だという。


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