OKIデータが取り組む製品ライフサイクルを考慮した環境配慮設計環境配慮モノづくり最前線(2)(2/2 ページ)

» 2011年07月11日 11時54分 公開
[吉村哲樹@IT MONOist]
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グリーン調達基準書策定とサプライヤ指導に奔走

 同社では部材や部品の調達フェーズにおいても、独自の環境対策を実施している。製品に含まれる化学物質を管理するためには、製品の元となる部材や部品に含まれる化学物質の厳密な管理が不可欠だ。そのため同社ではサプライヤに対して、納品物の含有化学物質やリサイクルに関する基準を「グリーン調達基準書」というドキュメントで明示している。

 また、納品される各部材や部品の中に、特定の化学物質がどれだけ含まれているかを、調査票によって報告することを求めている。調査票のフォーマットは、RoHS指令に関するものはグリーン調達調査共通化協議会(JGPSSI)が定める「JGPSSI V4」を、REACH規制に関するものはアーティクルマネジメント協議会(JAMP)が定める「JAMP AIS V3」を使用している。

 こうしたサプライヤを含めた取り組みは、社内の取り組みとは異なり社外の多くのステークホルダーを巻き込むことになるため、運用開始当初はかなり苦労があったと加藤氏は語る。

 「調査票の運用を開始した当初は、サプライヤもなかなか勝手が分からないために、何度もやりとりが発生することも多かった。こちらから出向いて、『そもそもRoHSやREACHとは何か』ということを説明しに行ったりもした」(加藤氏)

システム一元管理化で工数削減

 現在ではサプライヤ側の意識の高まりもあり、スムーズに運用が回るようになっているという。さらに同社では現在、こうしてサプライヤから得た情報も含め、RoHS指令とREACH規制に適合するために必要な情報を一括して管理する「製品含有化学物質情報システム」(COSMOS-R/R)」という情報システムを運用している。

 COSMOS-R/Rは、サプライヤから返ってきた調査票の情報とBOM(製品構成情報)のデータ、さらに製品の出荷情報をインプットする。同システムは調査票に記された各部材・部品内の含有物質情報と、BOMから得た部品構成情報を基に、最終的に組み上げられた製品に規制対象物質がトータルでどれだけ含まれているのかを割り出し、出力する。さらには、製品の出荷情報を基に、特定の製品がEU圏にどれだけ出荷され、その結果規制対象の化学物質が特定の期間内にどれだけ欧州に輸出されたかも算出できるようになっている。

印刷物の化学物質含有量にも責任を負う

 こうした処理を経て、同システムはREACH規制に対する判定を行う。この判定結果に基づき、海外の輸出先の規制当局やディーラーに対して情報提供をするほか、国内の販売先からも高いニーズがあるという。

 「REACH規制は、製品本体だけでなく梱包材に含まれる化学物質も管理対象になる。例えば、梱包資材に貼る伝票をプリンタで印刷している場合、その印刷に使用したインクに含まれている化学物質も対象に含まれる。そのため、われわれが販売するトナーやインクにREACH規制の管理対象となる化学物質が含まれているか教えてほしいという国内の顧客も多い」(加藤氏)

輸送・使用フェーズのCO2排出量の抑制

 製品ライフサイクルにおける輸送フェーズにおいても、さまざまな取り組みが行われている。輸送における環境対策の主な取り組みとしては、製品をトラックで運搬する際に発生するCO2排出量の抑制が挙げられる。OKIデータでは、輸送経路を短縮すること、製品の小型化・軽量化を図ることでこれに対処している。

 輸送経路を最適化し、短縮することでトラックの走行距離が減れば、それに伴いCO2の排出量を減らすことができる。同社はこれまで福島に物流センターを設けていたが、新たに川崎に物流センターを設置したことで、特に関東圏に対する製品輸送の経路が大幅に短縮されたという。また、製品の小型化・軽量化に長年かけて取り組んできたことで、一度に多くの数の製品を輸送できるようになり、トラックによる搬送頻度の減少に伴うCO2削減効果が生まれたという。

 同社では将来的にはモーダルシフト、つまり輸送方法の最適化によりさらなるCO2排出量削減を目指している。具体的には船舶や鉄道など、トラック以外の輸送手段による製品の搬送を検討しているところだという。

 また、製品が消費者の手元に届いた後の環境対策に関しても、さまざまな取り組みが行われている。その中でも最も効果が期待できるのは、製品の低消費電力化だろう。先述したように、製品の使用時、さらには待機時に消費される電力をなるべく減らすよう、製品の設計・開発時にさまざまな工夫が凝らされているという。もちろん、国際エネルギースタープログラムやエコマーク、昨今取りざたされることの多いErP指令などに対応するためにも、こうした取り組みは不可欠だ。

 ちなみにErP指令に関しては、同社の設計・開発部門では既に先行して対応を始めているという。

OKIデータ 開発本部 副統括本部長 長岡和彦氏 OKIデータ 開発本部 副統括本部長 長岡和彦氏

  「弊社が製造する製品に関係するErP指令はlot4、6、26だが、既にlot4とlot6に関してはある程度内容が見えてきているので、製品の設計もそれを考慮したものにしている。ただし、実際に規制が適用される時期がまだ先のものもあるので、現在予測している内容より仮に厳しいものになったとしても対応できるよう、配慮している」(長岡氏)

 また、消費電力以外にも印刷機能の効率化による紙の削減、印刷時に発生する排出物の削減、さらには製品寿命の延長など、環境負荷を軽減するためのさまざまな機能・性能が製品設計時に考慮されているという。

 さらに、製品の使用が終わった後の廃棄フェーズでも、使用済み製品の回収システムの整備や消耗品を無償で回収するシステム、あるいは使用済み製品のリサイクルの促進など、さまざまな環境関連の取り組みが行われているという。

「CO2排出量ゼロ工場」にはカーボンオフセットを活用

 ここまで、OKIデータにおけるさまざまな環境対策への取り組みを見てきたが、製造業において最も欠かせないのが製造フェーズにおける取り組み、特に製造工場における消費電力やCO2排出量の削減であろう。同社は主力製品のプリンタと複合機を福島、タイ、中国の3拠点にある工場で製造しているが、これら全てでCO2排出量ゼロを実現している。しかし、アセンブリメーカーである同社の工場は、もともと自助努力による消費電力やCO2排出量の削減には自ずと限界があるのだという。

 「弊社の工場で行われる作業は組み立てがメインなので、大規模な製造設備があるわけではない。そのため、例えば設備を省電力タイプのものに変えて大幅に消費電力削減を図るようなことができない。そのため、生産効率を少しずつ向上させて稼働率を上げていったり、あるいは照明や空調を調節したりといった小さな取り組みを積み上げていくことで、少しずつ消費電力を削っていくしかない」(加藤氏)

 にもかかわらずCO2排出量ゼロを実現しているのは、こうした地道な取り組みで削減し切れない分を、カーボンオフセットで補っているからである。同社では前記3工場を対象に、自助努力とカーボンオフセットの組み合わせによってCO2排出量をゼロにする「CO2排出量ゼロ工場」の取組みを進めている。2010年度は9940トン分のCO2排出量のオフセットを既に完了しており、前記3工場におけるCO2排出量ゼロを実現した。この取り組みは、平成21年度環境省モデル事業にも認定されている。

 カーボンオフセットの仕組みは、温室効果ガスの削減に取り組むプロジェクトに対して投資する(排出権を購入)することにより、自らの温室効果ガスの排出量を相殺できるというものだ。OKIデータでは2010年度、カーボンオフセットを仲介するプロバイダーを介して、インドの風力発電プロジェクトとタイ・ブラジルにおけるバイオマス発電プロジェクトに投資することでカーボンオフセットを実施した。

カーボンオフセットだけでなく社会貢献も視野に

 ただし、当初はこれに加えて、別のあるプロジェクトにも投資する予定だったのだという。それが、ケニアで行われている「高効率調理かまどプロジェクト」だ。これは、現地の一般家庭で使われている原始的なかまどを効率の高いものに置き換えることで、CO2排出量の削減を実現するというものだ。かまど1台を設置することにより、1年間で普通自動車1台の年間排出量に相当する約1.6トン分ものCO2を削減できるという。

 しかし、同社がこのプロジェクトにこだわる理由は、CO2削減効果だけではない。同プロジェクトはかまどの不完全燃焼による一酸化炭素中毒の事故防止や、燃料である薪の節約による木材資源の保護、さらには現地の人々の労働時間の短縮など、発展途上国の生活向上に寄与する効果が極めて大きいのだという。加藤氏は次のように語る。

 「なるべく社会貢献度の高いプロジェクトを使って、カーボンオフセットを実施したい。その意味では、このプロジェクトはカーボンオフセットの取り組みを始めた当初からぜひ使いたいと考えていた。まだプロバイダー側の手続きが完了していないため利用できる段階にないが、2011年度の下期もしくは2012年度中にはぜひカーボンオフセットの排出権として購入したい」

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