冷たいモーターが333km走行のカギ電気自動車 SIM-LEI(3)(2/2 ページ)

» 2011年07月14日 12時00分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]
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モーターの出力を高めるための3つの工夫

 なぜ、アウターローター方式を採ったのだろうか。外側の回転子に永久磁石を配置できるため、従来のモーターよりも永久磁石の数を多く、磁石の面積を広くとることができるからだ。「磁石の数に比例した出力が得られ、大きなトルクを生み出せた」(新井氏)。

 モーターの出力を増やす工夫はこれ以外にも、2つある。

 まず、コイルの配置だ。モーターが生むトルク(回転力)を高めるためには、密にコイルを巻けばよい。少ない電流であってもコイルを巻いた数に比例して力が出せる。どの程度密にコイルを巻いたかは、コイルの占積(せんせき)率に現れる。コイルの巻線機メーカーと協力して占積率58%を実現した。

 次に、磁界解析による最適設計*2)を利用したことだ(図4)。「計算機シミュレーションで発生する磁場を確認し、永久磁石の形状や配置、コイルの配置などを最適設計した。1回の設計で当初の予定通りの性能が実現できている」(新井氏)。

*2)JSOLが開発した電磁界解析ソフトウェア「JMAG」を用いた。

ALT 図4 モーターの出力を高める工夫 3つある。回転子に永久磁石を多数配置したこと(左)、コイルの密度を高めたこと(中央)、磁界解析ソフトウェアを設計に用いたこと(右)である。出典:SIM-Drive

 コイルを巻いた固定子のヨークで発生する磁場と、外側の回転子の永久磁石が発する磁場を計算して、その2つの相互作用からどのような力が発生するかを確かめて設計した。

インバーターには課題あり

 EVのモーターを駆動するには、直流を交流に変換するインバーターが欠かせない。インバーターの変換効率が低ければ、二次電池に蓄えた電力が無駄になり、回生にも悪影響が出る。

 インバーターの性能にはさらなる改善が必要だという。「走行時のEVは実に静かだ。このように静かなEVだと、インバーター用の水冷ポンプ*3)が意外にうるさく感じた。将来は水冷ポンプのないEV、効率の良いインバーターを採用してユーザーが快適に乗れる車を目指したい」(新井氏)。

*3)インバーターの損失を低くすれば、熱として失われる電力を少なくでき、水冷ポンプが不要になる。例えば、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体を内蔵したインバーターを採用するといった手法がある。

数字で見る駆動系の工夫

 SIM-LEIの駆動系の全体像を図5に示した。

ALT 図5 SIM-LEIの駆動系 4つの車輪全てにインホイールモーターを内蔵する。二次電池(バッテリー)は前輪用と後輪用を分けた。制御用のECUは3個利用している。出典:SIM-Drive

 4つの車輪全てにインホイールモーターを内蔵し、二次電池は前輪用と後輪用に分けた。電池に故障が生じたとしても、駆動力を失わないためである。

 インホイールモーターの最大出力は1個当たり65kW(図6)。「トヨタ自動車のプリウスなどのHV(ハイブリッド車)はモーターを1つだけ搭載しており、出力は約60kW。SIM-LEIはHV4台分のモーターを1台に積んでいるといえる」(新井氏)。

 これまでに紹介したさまざまな工夫により、モーターの性能を高めており、トルク定数1.8Nm/Aという値に性能の高さが現れているという。なおトルク定数とは、モーターに電流を通したときにどの程度の力に変わるかを示した値であり、定数値が高いほど電流が少なくて済む。

ALT 図6 SIM-LEIの駆動系の仕様 二次電池の容量は24.9kWhであり、市販の5人乗りEVとほぼ同じ容量である。電池容量を変えずに、333km連続走行できる。出典:SIM-Drive

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