「超小型衛星を日本のお家芸に」〜月面レースに挑む研究者、東北大・吉田教授(前編)再検証「ロボット大国・日本」(4)(2/2 ページ)

» 2011年08月02日 11時48分 公開
[大塚実,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

超小型衛星の可能性

 大型の商業衛星市場においては、いわゆる“ビッグ・ファイブ”と呼ばれる、米スペース・システムズ・ロラール、米ロッキード・マーティン、米ボーイング・サテライト・システムズ、仏タレス・アレニア・スペース、仏アストリアム・サテライトの欧米5社による受注が大部分を占めている。日本メーカーでは三菱電機とNECの2社がJAXAの衛星を開発しているが、実績を重視する顧客が多い中で、なかなか民間に食い込めないのが実情だ。

 それに対し、超小型衛星はこれから市場を創出するところだ。日本は超小型衛星に力を入れており、既に実績も出つつあるが、「海外メーカーは今のところ100kg以上が中心ですが、いずれは進出してくるでしょう。しかし、小型で高性能というのはこれまで日本が得意としてきたところ。『100kg未満は日本だぞ』となれるように頑張らないといけない」と吉田教授は気を引き締める。

 超小型衛星の用途として、吉田教授は「分解能が5mもあれば、災害監視には十分使えるのでは」と期待する。「災害は地震・津波に限らず、集中豪雨や土砂災害などさまざま。何が起きているのかをいち早く的確に知ることが重要です。超小型衛星は低コスト(雷神2は3億8千万円)なので、複数の衛星を打ち上げることも可能です。こうすることで、観測頻度を高められるメリットがあります」(吉田教授)。

 ちなみに次期プロジェクトして「RISESAT」も昨年(2010年)既にスタートしている。これも50kg級の超小型衛星となるが、東北大は衛星の土台といえるバス部を開発して、その上に海外から公募した実験装置を搭載する計画。スウェーデン、チェコ、ハンガリー、ベトナム、台湾(2カ所)からの機器を、合計で10kgくらいまで搭載できるという。将来的には、「装置だけなら作れるが衛星本体までは難しい」という顧客相手に、有償でスペースを提供するビジネスモデルも考えられているそうだ。

吉田教授はさまざまな超小型衛星のプロジェクトに関わっている 吉田教授はさまざまな超小型衛星のプロジェクトに関わっている。人材育成にも熱心で、後継プロジェクトは若手に任せる方針

宇宙への足がない問題も

 ただ、超小型衛星をビジネスとして考えていく上で、避けて通れない大きな問題が1つある。それは打ち上げロケットの問題である。衛星を作っても、ロケットがなければ使えない。ロケットが必須である以上、衛星利用のコストはロケットの分も含めて考えなければ意味がない。衛星が安くても、打ち上げ費用が高ければダメなのだ。

 これまでは、JAXAの衛星を打ち上げるときの“相乗り”を利用する場合が多かった。これは、JAXAから採択されれば無料で打ち上げてもらえるという利点がある一方で、いつになったら打ち上げられるのか見通しが立てづらいこと、そして軌道が主衛星の都合で制限され自由に選べないこと――などの問題もあった。そもそも、JAXAの相乗りは営利目的では使えない。

 当初、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を転用したロシアのロケットが安かった時期があり、そのときの単価は1kg当たり100万円程度といわれていたが、最近は数倍に値上がりしているという。インドのロケットの相乗りを利用するケースもあるが、相乗りの使い勝手の悪さは前述の通りで、これは本質的に変わらない。宇宙への“足”がない――これが現在の最大の問題で、雷神2も実は打ち上げロケットがまだ決まっていないのだ。

 もしも、超小型衛星を単独で、しかも安く打ち上げられる小型ロケットがあったら――。

 「独自に使えるのなら、自分たちの望むタイミングで、好きな軌道に打ち上げることができます。50kgの衛星開発に5億円、打ち上げコストに5億円として、合わせて10億円でやれるのであれば、ものすごく価値が高い。民間のビジネス、あるいは研究機関でも、顧客がたくさん付くと思います」(吉田教授)。

 日本では現状、JAXAのロケット以外に衛星を打ち上げられる手段はないが、民間での開発がないわけではない。北海道大学と植松電機はハイブリッドロケット「CAMUI」を、堀江貴文氏(元ライブドア社長)が設立したSNSは液体燃料ロケット「はるいちばん」をそれぞれ開発中だ。まだ高度は10kmにも達しておらず、衛星を打ち上げるためにはさらなる大型化が必要ではあるが、今後の動向に注目したい。

SNSが開発した液体燃料ロケット「はるいちばん」 SNSが開発した液体燃料ロケット「はるいちばん」。今年(2011年)3月に打ち上げ実験を行った

目指すは月への一番乗り

 さて、次回は吉田教授のもう1つの研究テーマである探査ローバーについて紹介したい。吉田教授は現在、「Google Lunar X PRIZE」という民間のコンペに参加しており、月面で活動することを前提としたローバーを開発中。一体どんなプロジェクトなのか――。(後編に続く)

筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


「再検証「ロボット大国・日本」」バックナンバー
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.