「ねじなめんなよ」――社長一人だけで始めた製品開発マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(12)(1/3 ページ)

「少数生産案件の受注しかない」ではなく「少数生産が得意なメーカーに変身しよう」と考えた。社長一人のねじメーカーによる製品開発!

» 2011年08月17日 13時00分 公開
[宇都宮茂/enmono,@IT MONOist]
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 マイクロモノづくりを成立させるためには、設備を持って製造する会社と、製品アイデアを持つ方とのコラボレーションが必須です。

 「ガシャンガシャン!」という、ねじ屋さん特有の音。これはヘッダの音です。皆さんはヘッダをご存じでしょうか? ヘッダとは「頭を打つ」という意味です。金属の頭部をプレスしてネジやボルトなどを製作する機械をヘッダあるいはフォーマーといいます。

 ――日々、そんな音を響かせる埼玉県草加市のねじ屋さん(ねじ製造業) 浅井製作所のマイクロモノづくり事例を浅井英夫社長に伺いました。

photo (左)浅井製作所 浅井英夫社長、(右)製作所の外観

ねじ屋の二代目

 平成9年、浅井氏は会社を先代から継ぎました。ねじ製造業として、メーカーの下請として量産を続けてきた中、新規顧客の開拓を目指し、それまで触れたこともなかったPCを購入し、その1カ月後には、会社のHPまで立ち上げました。浅井氏は、インターネットの可能性を感じ、無我夢中でチャレンジしました。

 しかし現実は厳しいもので、狙っていた量産案件の引き合いはなく、100個、200個といった個人レベルの少量案件しかなかったそうです。しかし先代の教えもあり、「自社で作れるものは、可能な限り作って差し上げる」という“モノづくり屋精神”の下、少量案件に対応していきました。その中で、ネット販売に詳しい方の助言などもあり、少量製品の販売に関してノウハウを獲得していきました。

 結果として、少量案件を対応していたおかげで、いままでにはなかったタイプの量産案件も受注するようになり、売り上げは順調に伸びていったとのことです。

photo 浅井製作所の売り上げ推移

 浅井氏によると、「予期せぬ出会いが生まれ、予期せぬビジネスチャンスに出会い、それを粛々(しゅくしゅく)とこなしていったこと」が、いまの売り上げにつながっているといいます。「そんな面倒な少量案件なんかに関わって、おかしなやつだと思われていたかもしれない」(浅井氏)。

 面倒な案件でのもうけはありませんが、そういうことに対応できる会社ということで、業界内で注目を浴び、広告効果が得られました。またエンドユーザーとの対話をこなすことで、営業センスも磨かれ、「お客さまが自社に何を求めているのか」ということへの理解が深まりました。こういった経験を重ねることで、本業の量産にも良い効果を与えたとのことです。

 販売価格に関する交渉に際し、相手の言いなりになることなく、双方にとっていい取引ができるようになったそうです。無理な値引きは結局お客さまにとっても良くないのだということを理解してくれるお客さまは、リピーターになっていただけるようになり、さまざまな相談ごとも受けることでその関係は深まり強まるのです。

 値段を下げることがお客さまにとって本当に良いことなのか、深く深く考えるべきだと私は思います。意味もなく下げることで、会社の経営を傾け調達が途切れることは、お客さまの望むところではないはずです。とはいえ、そのお客さまとしか取引きがない場合、無理難題に付き合うことで結果的に体力を失うということがあります。そうならないためにも、対等な交渉ができるようになる必要があるのです。

 enmonoが提唱しているマイクロモノづくりは、その1つの解決手段です。自社で企画し、マーケティングし、エンドユーザーに販売していくことで、ユーザーが「本当に求められるものは何なのか」を常に考えるようになります。その結果、交渉相手に対しても「本当に求められるものは何なのか」と対話することが可能になります。長い目で見て、戦略的に取引きを止めるということも経営者には必要なのではないでしょうか。

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