「ねじなめんなよ」――社長一人だけで始めた製品開発マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(12)(3/3 ページ)

» 2011年08月17日 13時00分 公開
[宇都宮茂/enmono,@IT MONOist]
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 このように、自社のリソースだけでできることで、時間の合間に作ってみたというところから始められるので、町工場でも挑戦する気になればできることが多くあるもの。それには、「何を作るのか」というところにまず気が付くことが重要なのですが、それが意外と難しいのです。

 浅井氏の場合も「自分自身は半信半疑ながら、ある方の意見を受け入れてやってみたら、意外にも売れた」ということでしたが、「信頼できる他業界の方との会話」、これが気付きのきっかけになるのではないかと私は思います。可能な限り、違う業界の方と会話するような機会を持つと、ビジネスの可能性を広げられるのではないでしょうか。

 ですが、平日の昼間は身動きの取れない町工場の場合、それも困難に思えるかもしれません。しかし、浅井氏のように、ソーシャルメディアを活用し、さまざまな方と知り合うことで、いろいろな可能性を広げることも可能な時代です。せっかくですから、いろいろと挑戦してみてはいかがでしょう。たとえ失敗したとしても、そこから得られるものは多いでしょう。

 現在enmonoでも、おおたグループネットワーク(OGN)と組んで、「発電会議」という町工場が製品開発の種を見つけるためのオープンな商品企画会議を定期的に行っています。こちらへの参加も、「何を作るのか」というニーズ探しの一助になるのではと考えております。

 浅井製作所には、前述のねじ指輪のようなアクセサリーの事例だけではなく、「低頭ネジ」という特殊なネジを標準化したという事例もあります。この低頭ネジは、あるユーザー研究者の何気ない一言にピンと来た浅井氏が、可能性を感じ、製品化し標準化してしまったところ、その型番が図面で使用されるようになり、自然と業界標準になったようです。

photo 低頭ネジ

 その結果、いまでは、浅井製作所のネジは、二足歩行ロボットで使われるネジのシェアの7割を占めているということです。常にビジネスチャンスを伺う感覚が身についているので、それが実現したのでしょう。「情報を発信することでいろいろな情報を得て、ビジネスチャンスをいち早くつかみ取る」。これがマイクロモノづくりの“勝ちパターン”です。とはいえ、残念ながら失敗も多くあります。誰もが成功するタイミングで打って出ても、資本力のある企業には勝てません。

一人社長の悩み

 浅井氏は、一人で、製造、営業、伝票処理、発送など、全てを行っています。だからこそ生まれるスピード感がなければ、コスト競争力もなくなり、いまのスタイルが維持できません。なので、社員を雇うことで、こなせる仕事も増え、売り上げも増えることが見込めますが、固定費が増えた分で利益が減ります。そのバランスを考えると、なかなか社員を雇えない状況だそうです。これは、町工場が持つジレンマなのではないでしょうか。

一人社長とマイクロモノづくり

photo マイクロモノづくりにおけるバリューチェーン(enmono社資料より)

 ここで今回の浅井氏の事業について、マイクロモノづくりのフレームワークに当てはめて整理してみましょう。

 まず社長が企画をし、自社でできるねじについて試作品を作り、デザインフェスなどの展示会で直売しました。展示会では販売と同時にお客さんの声を直接聞くことで、次の製品構想を得るなどが可能です。直接お客さんとコミュニケーションすることで、強いつながりを得ることになり、リピーターも増えていきます。

 つまり上の図のフレームワーク(企画から製造販売まで)を社長お一人で全て行っています。まさに究極のマイクロモノづくりといえます。

 今後も、どのようなユニークなねじ製品が生まれてくるか、楽しみです。


Profile

宇都宮 茂(うつのみや しげる)

1964年生まれ。enmono 技術担当取締役。自動車メーカーのスズキにて生産技術職を18年経験。試作メーカーの松井鉄工所にて生産技術課長職を2年務めた。製造業受発注取引ポータルサイト運営のNCネットワークにて生産技術兼調達担当部長として営業支援に従事。

2009年11月11日、enmono社を起業。現在は、製造業の新事業立上げ支援(モノづくりプロデューサー)を行っている。試作品製造先選定、部品調達支援、特許戦略立案、助成金申請支援、販路開拓支援、プレゼン資料作成支援、各種モノづくりコンサルティング(設備導入、生産性向上のためのIT化やシステム構築、生産財メーカーの営業支援、生産財の販売代理、現場改善、製造原価、広告代理、マーケティング、市場調査、生産技術領域全般)など多岐にわたる。

Twitterアカウント:@ucchan

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