どうなる!? 日本の有機EL技術〔中編〕有機ELディスプレイにおけるサムスン、LGの知財動向を読む知財コンサルタントが教える業界事情(7)(2/3 ページ)

» 2011年09月16日 12時30分 公開
[菅田正夫,@IT MONOist]

有機ELディスプレイ市場における韓国メーカーのねらい

 コダックは2001年から三洋電機と合弁で有機ELディスプレイの事業開発に取り組みましたが、2006年1月に三洋電機が合弁事業から撤退したため、その直後の2006年3月からLGフィリップスと有機ELディスプレイの共同開発を開始しています。しかしながら、第6回で言及した通り、液晶ディスプレイの製造を手掛けるLGフィリップスはフィリップスの出資株式比率の低下に伴い、1999年には既にLGディスプレイと名称を変更しており、結局フィリップスは2009年に合弁事業から撤退しています。

 結局、フィリップスは家電・ヘルスケアと並ぶ、3大事業の1つである照明事業において、LED照明に続く将来展開としての有機EL照明に技術開発のかじを切りました。

 つまり、LGにとってフィリップスはディスプレイ事業の基盤作りの指導者だったことになるのでしょう。

 そして、有機EL事業開発を芽吹かせたコダックも、2010年12月には自社の有機EL照明事業開発に取り組むために必要な知的財産権を確保しつつ、LGに知的財産権の一部を売却し、残りの部分についてもLGにライセンス供与したものと推測されます。コダックは自社の有機EL知的財産の利用権を確保しており、2009年5月に米国エネルギー省から、2年間に170万ドルの開発資金援助を得て、国際規格Energy Starの仕様を満たす有機EL照明の開発にかじを切ったので*、2011年までの成果報告が待たれます。



 結果として、LGは金銭を支払ったものの、コダックの知的財産を活用して、有機ELディスプレイを巡る知的財産係争を回避する保険を得たことになり、コダックは有機EL照明という、新たな事業開発のための資金を得たことになります。

 2009年6月に、有機ELでLGと戦略的提携を締結している出光興産は、2010年6月、LG傘下の有機EL特許管理会社グローバル オーレッド テクノロジー(Global OLED)に32.73%の出資をしています。この事実は出光興産の知的財産に対する戦略性もさることながら、LGの知的財産に対するしたたかな貪欲さを強く感じさせられるものです。

「Zenith」ブランド戦略からひも解くLGの手法

 韓国企業LGの知的財産(特許・商標・意匠)に対するしたたかな貪欲さには、歴史の重みがあります。米国TV受像機事業と共に、かつての米国2大TV受像機ブランド(「RCA」と「Zenith」)は、「RCA」ブランドがトムソンに、「Zenith」ブランドがLGにそれぞれ譲渡されました。

 そして、LGは米国市場進出の助けとなる「Zenith」ブランドだけでなく、デジタルTV放送に関わる知的財産まで手に入れ、後のTV放送デジタル化に伴う標準規格関連特許でライセンス収入を得ています(このライセンス収入はZenithの知的財産権をLGが継承したことに伴うものです)。

 有機EL分野の知的財産権で、韓国企業に対抗できる貪欲さを備えた日本企業は、「リン光性発光材料特許2件(登録特許4357781号と3992929号)の無効審判請求」を申し立てている半導体エネルギー研究所くらいだろうと筆者は感じています。

 韓国企業であるサムスンとLGの海外市場をにらむ眼光の鋭さは、国土・人口がいずれも日本の約1/3であり、日本企業のような自国市場でのガラパゴス化はありえないという、企業立地環境の厳しさに起因していると捉えるべきでしょう。

 次に、有機ELディスプレイ事業発展を特許出願件数で眺めてみます。


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