連載
» 2011年10月06日 11時13分 UPDATE

再検証「ロボット大国・日本」(7):「ロボット大国だとは全く思っていない」〜産業用ロボット世界シェアNo.1の安川電機(前編) (2/2)

[大塚実,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

日本はサービスロボット市場で勝てるのか?

 ところが、1990年代後半にもなると、日本の自動車メーカーとの蜜月関係にも陰りが見え始める。円高の進行もあって、自動車メーカーは設備投資を抑制。既に製造工程のほとんどが自動化されており、これ以上ロボットを導入する余地も大きくはない。同社の場合、昨年度(2010年度)のロボット出荷台数のうち、日本向けは2割だけで、残る8割は海外向け。特に中国・アジアでの需要が旺盛だった。

 しかし、これら成長国の堅調な需要も、生産工場にロボットが一通り導入されてしまえば、いずれは設備の更新需要が中心になってしまう。長期的に見れば「脱・自動車」は避けて通れないわけで、新市場の開拓が必要になってくる。

 その1つとして期待されるのが、医療、介護・福祉、生活支援などのサービスロボット市場である。少子高齢化が進む中、労働力不足を解決する切り札として、この分野のロボットは高い成長が見込まれている。経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2010年に発表した市場予測によると、ロボット産業の市場規模(国内生産量)は、2020年には2.9兆円、2035年には9.7兆円までに成長。現状はほとんどが製造分野であるが、サービス分野が高い成長率を見せて、2020年過ぎには割合が逆転するという。

ロボット産業の市場予測(国内生産量) ロボット産業の市場予測(国内生産量) (※出典:経済産業省/NEDO)

 同社もこれまでに、ホームロボット「SmartPal」、案内業務ロボット「SmartGuide」などを開発。これらのロボットは基本的にまだ技術開発の段階であるが、リハビリ支援ロボット「TEM LX1」のように、既に実用化して一部の病院で使われている製品もある。

 サービスロボット市場は、かなり以前から期待度は高いが、研究開発や実証実験ばかりで、なかなか本格的に普及する兆しが見えない。ここに来て、ようやく掃除ロボット「Roomba」(米iRobot)や手術支援ロボット「da Vinci」(米Intuitive Surgical)など、海外で実用的なロボットが出てきて成功しつつあるが、日本からはなかなかそういった製品は出てこない。


 この理由について「日本には確固たる国策がありません。対して、米国には軍事、欧州には原発といった国策があって、国策だからこそ、まとまった予算を出してメーカーを支援しています」と林田氏は指摘する。日本には技術はあっても、メーカーが個別に努力しているような状態。しかし民間企業である以上、ある程度の市場規模が見込めなければ、大きな開発費を投じてまで製品化はできない。

 国の支援の方法としては、予算を付けてロボットを買い上げる以外にも、法律を整備してロボットの普及を促進するやり方もあると思うが、国策がないために、それも後手に回っている。「Segway」はいまだに公道を走れない(Segwayの安全性についての是非はあるにしても)。また同社のリハビリ支援ロボットも、これを使った治療には保険の点数が付かないという問題があって、普及を阻む一因となっている。


 将来的には、家庭に生活支援ロボットが入ることも期待されているが、国が「ここまでの安全性があればOK」というような指針を策定してくれないことには、とても怖くてメーカーは製品を発売できないだろう。サービスロボットのような新規市場に既存の法律を押し付けるだけでは、市場は成長するどころか萎縮するばかりだ。「ロボット大国」とアピールする割には、日本はロボットに対して優しくない。

ゆるキャラ「やすかわくん」の本当の狙いとは?

 サービスロボット分野は新市場の1つではあるが、本当に普及するのか、それはいつになるのか、見通しは不透明だ。筆者などはどうしてもリニアモーターカーを想像してしまう(40年以上前から「近未来の夢」として語られていたが、21世紀になって10年が過ぎた今になっても、本格的な導入はまだまだ先……)。サービスロボットが家庭に入ってくるのも、ヘタをすると、まるで蜃気楼のように10年後、20年後と先送りになりかねない。

 その前に、まずは現実的なところとして、同社が狙っている新市場がある。産業用ロボットの自動車以外の分野への適用だ。そういった戦略の下、2007年に投入したのが、7自由度の単腕型ロボットと双腕型ロボットである。

 これら新世代ロボットについてはまた次回で触れることにするが、最後に双腕型ロボット「やすかわくん」の面白い動画を紹介して終わりにしたい。一体なぜ、産業用ロボットがアイスクリームを作っているのだろうか。


筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


「再検証「ロボット大国・日本」」バックナンバー
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.