「映画は見られないDVD」、ただし発電できますスマートグリッド CEATEC 2011(1/2 ページ)

太陽誘電が開発した「DVD」は、書き込み読み出しができないかわりに発電できる。なぜこのようなものを開発したのか。コストダウンに適しており、新しい用途が開けるからだ。

» 2011年10月12日 11時45分 公開
[畑陽一郎@IT MONOist]

 さまざまな環境技術が登場したエレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2011」(2011年10月4〜8日に幕張メッセで開催)。中でも太陽誘電が開発した「DVD」の発想には意表を突かれた(図1)。

 DVDとはいっても映像の録画再生用媒体ではない。太陽電池である。PCやDVDレコーダーに差し込んで、読み出し用や書き込み用半導体レーザーで発電する……のではなく、太陽光や室内光を取り込んで電力を生む太陽電池だ。


太陽誘電のDVD型太陽電池 図1 太陽誘電が展示したDVD型太陽電池 ガラス基板ではなく、プラスチック基板を使ったため軽量で薄く(0.3mm厚)、ある程度の柔軟性がある。色素増感太陽電池の一種。日本学術振興会の「最先端研究開発支援プログラム」(FIRST)による研究開発の結果生まれた技術だ。

なぜDVD型デザインなのか

 太陽電池の開発目標は2つに大別できる。材料コストと製造コストを下げることがまず1点、もう1点は変換効率を高めることだ。温度特性や耐久性を改善することも重要だが、何といってもコスト低減と変換効率の改善は欠かせない。

 太陽電池をDVD型デザインにすると何が改善できるのだろうか。

 「形状をDVDと同一にすることで、スピンコートやスパッタなど太陽電池の製造工程の6割をDVD-Rメディアと共用できる」(太陽誘電 総合企画本部新事業企画推進室電気化学デバイスプロジェクトの染井秀徳氏)。太陽電池をDVD-Rと同じ工程で製造できれば、製造コストの大幅な引き下げが可能だ。これがDVD型デザインを採った第1の理由である。

 直径(120mm)はもちろん、中央部の孔の寸法まで同じだ。製造時にDVD-Rと同じ保持用のチャックを使うためだ。

 太陽誘電*1)は、CD-Rを開発したメーカーであり、DVD-RやBD-R(書き換え型Blu-ray Disc)など光記憶メディアの生産量は、月産1億枚に達する。この製造ラインを利用できれば、Si(シリコン)太陽電池やCIGS薄膜太陽電池とは比べものにならないほど低価格な太陽電池を量産できるだろう。

*1)太陽誘電は電子部品メーカーであり、コンデンサやインダクタなどを量産している。事業の柱はまず電子部品、次に光記録メディアである。

分離型太陽電池という発想

 DVD型太陽電池が革新的な点はもう1つある。太陽電池として働くセルと配線部を分離し、簡単に着脱できるようにしたことだ(図2)。

DVD型太陽電池のシステム構成 図2 DVD型太陽電池のシステム構成 白い「太陽電池パネル基板」の上部に1対の電極が見えている。基板にはチャック部(図右下の黒い部分)があり、右下の「DVD」のように太陽電池を簡単に着脱できる。

 住宅の屋根に置くための単結晶Si(シリコン)太陽電池や多結晶Si太陽電池では、例えば15cm角の太陽電池セルを直列に接続し、全体を樹脂(EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体)で封止して1枚のモジュールに仕上げている。Si薄膜太陽電池やCIGS薄膜太陽電池もモジュール化して利用する点では結晶Si太陽電池と変わらない。封止は太陽電池の耐久性を高めるために必要な工程だ。

 着脱式にすると、封止できず、電極部分が痛みやすくなり、劣化も激しいのではないだろうか。

 「結晶Si太陽電池の劣化モードにヒントを得て着脱式を選んだ。結晶Si太陽電池は一部のセルが劣化するとモジュールごと取り換えなければならない。当社の方式なら破損したDVD型太陽電池だけを取り換えればよい。太陽電池を安価に、例えば100円ショップで販売するものにできれば、交換することに抵抗感もなくなる。製品化時にはこのような使い方を目指している」(染井氏)。

 不良が発生したときに交換するだけではなく、利用時に太陽電池パネル基板に太陽電池を並べ、不要になったときにはしまうという使い方ができる(図3)。災害時の緊急電源などさまざまな使い方が考えられるという。

 スケールアップもたやすい。DVD型太陽電池を着脱する太陽電池パネル基板は樹脂シート内部に配線を施し、チャックを付けただけの単純な構造だ。3×3という構成で展示していたが、n×mに簡単に拡張できる。「太陽電池パネル基板を折りたたみ可能にして、光ディスク用バルクケースに収納することも考えている」(染井氏)。

DVD型太陽電池の使い方 図3 DVD型太陽電池の使い方 太陽電池パネル基板とDVD型太陽電池を別々に保管できる。太陽電池パネル基板は薄い樹脂でできているため、光ディスク用バルクケースに収められるようにできる。

 着脱が容易になるよう引き出し電極をDVDの中心部の下面に配置した(図4)。中心に近い透明なドーナツ状の部分が負極、銀色の部分が正極だ。周囲から電極に集電する構造は非公開だが、このような構造を採ればチャック部に取り付けたとき、容易に電流を取り出すことができる。

DVD型太陽電池の電極 図4 DVD型太陽電池の電極 図中央右がDVD型太陽電池の電極部分(はめ込み合成)。左のチャックには内周に負極用の電極1対と外周に正極用の電極1対、合計4つの端子があり、DVD型太陽電池の電極と接触することで導通する。

 DVD型太陽電池の利点は、量産のしやすさと新しい使い方だけではない。蓄電機能を持たせることができるという。

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