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» 2011年12月02日 15時30分 公開

知財コンサルタントが教える業界事情(9):固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術〔前編〕SOFC開発競争の動向を知財から読む (3/3)

[菅田正夫,@IT MONOist]
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Ceramic Fuel Cells、NexTech Materials、Bloom EnergyのSOFC開発動向は?

 図5のSOFC特許件数推移(縦棒グラフ)をご覧いただきたいと思います*。


注目の3社(Ceramic Fuel Cells、NexTech Materials、Bloom Energy)のSOFC特許出願状況 図5 注目の3社(Ceramic Fuel Cells、NexTech Materials、Bloom Energy)のSOFC特許出願状況(推移は出願年ベースで整理)

 図5から、Ceramic Fuel Cellsの特許出願傾向は、2004年を境に大きく変化していることが分かります。そして、Ceramic Fuel Cellsから技術供与を受けたNexTech Materialsだけでなく、Bloom Energyにも、特許出願件数の減少や断続性があります。

 これは中小規模の専業企業や大企業の小規模な事業部門に、よく見受けられる特許出願傾向です。

 つまり、「技術開発段階から製品化に突き進む時期では特許出願件数が減少」し、「製品発表時期には、製品に搭載された技術成果に基づく出願がなされる」という、特許出願件数推移が示されているわけです。

 この傾向は、既にご紹介したCeramic Fuel Cellsの2008年とそれ以前の事業開発、Bloom Energyの2010年の製品発表の流れに、それぞれ合致していると推測されます。

 こうした情報は、このようなマクロ的視点を持てば「特許が公開されるまでの1.5年間の技術開発動向の推測が可能」なことを示唆してくれています。そして、日本特許庁の公表データによれば、「拒絶理由に使用された引用文献は、審査対象特許の出願時に調査可能なものが約95%」とのことですから、技術者が自分の携わる技術分野の発展方向を予測することは可能なはずです。

 今回紹介したSOFCにも、韓国企業による今後の攻勢があるのではないかと危惧しています。

◇ ◇ ◇

 後編となる次回では、家庭用SOFCの商品化を実現したJX日鉱日石エネルギーやセルスタックを供給している京セラなど、日本企業の動向に着目して調査していきます。

コラム:燃料電池―技術開発・事業開発・知的財産の視点から見るとどうなる?

 「三大電池」と称される、太陽電池、燃料電池、畜電池(二次電池)は、いずれも1800年代に発明されたか、もしくは、その動作原理が発見されたものです。ちなみに、燃料電池の原理は1839年に、William Robert Groveによって実験的な確認がなされています*。

 しかし、燃料電池が初めて実用化されたのは1965年、米国の国家プロジェクトに支えられた有人宇宙船「ジェミニ5号」への搭載でした。搭載されたのはPEFCでしたが、燃料電極には貴金属の白金(Pt)触媒を使っており、電解質膜(高分子膜)材料も高価であったため、米国の国家威信を賭けた宇宙開発プロジェクトに支えられた成果でした**。

 次の転機は1990年代に、内燃エンジンに代わる動力源の探索を始めていた自動車メーカーによって引き起こされました。1980年代からカナダのBallard Power Systemsが開発していたPEFC(電解質膜にデュポンの「ナフィオン」を採用)は、内燃エンジンよりもエネルギー効率が高く、有害な排出物がないことが注目され、自動車メーカーが燃料電池自動車の開発を始めました***。

 まず、ダイムラー・ベンツ(現:ダイムラー)が1994年に燃料電池車を発表し、日本では、実用試験車をホンダとトヨタが2002年に、それぞれ発表しました。各社の自動車には、いずれも固体高分子形燃料電池(PEFC)が搭載されていました。

 中国の自動車メーカー各社は当分EVを標ぼうするでしょうが、日米欧の大手自動車メーカーは「あらためて2015年に燃料電池車実現」を唱え始めています****。しかしながら、これから発展する国々のエネルギー事情を考慮すると、「ガソリン車の強み」も忘れることもできません。


*このような技術開発の歴史的事実はわれわれに、「基本的な発明で特許を取得しようと考えるよりも、実用化に必要となる特許を考案すべき」と教えてくれています。
**「技術開発成果を企業の事業開発の土俵に乗せるには、コストの壁がある」ことを教えてくれています。
***時代とともに求められる技術が変わり、新しい材料の登場や材料の進歩で事業開発が促されることが分かります。
****燃料電池車の開発は現在も日欧米の各社で継続されています。日本では、HEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)の製品化と実用化が先行しています。



備考:分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。

データベース

項目 内容
海外特許 CPA Global Discover

分析条件

海外特許 IPC(国際特許分類)に注目し、固体酸化物形燃料電池(SOFC)はH01M8/12を含む特許


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筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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