コア技術の現地開発に乗り出す日産、重い腰を上げたトヨタの本気度井上久男の「ある視点」(9)

日産は2012年1月から広州・花都で製造ロボットを導入して自動化率を高めた第2工場を稼働させる。中国市場で負け組に入りつつあるトヨタも同じ1月から現地生産・調達の推進や新興市場マーケティングに向けた組織改編を行う。グローバル開発・製造に向けた自動車メーカーの動きを読む。

» 2011年12月22日 12時15分 公開
[井上久男,@IT MONOist]

日産がロボットを大量導入し広州・花都新工場の自動化率を倍増させる狙い

 日産自動車(以降、日産)が日本メーカーの先頭を走って中国での事業を拡大させている。2012年1月9日から東風汽車との合弁会社の主力拠点である広州・花都工場で第2工場を稼働させ、第1工場を合わせた花都工場全体での生産能力を現行の年間33万台から60万台に引き上げる。生産車種は東風日産初の自主ブランド車「ヴェヌーシア(中国名・啓辰)」など。さらに拡大して15年までに67万台にまで高める計画で、総投資額は50億人民元(約617億円)となる。

 日産の全世界の工場で最も生産能力が高いのが九州工場(福岡県苅田町)の42万台であり、新工場稼働により花都工場が日産最大の工場となる見通しだ。既に第1工場はコスト、生産性、品質などの「工場総合力」では日産グループの工場で1位である。しかし、生産性だけを見ると日本国内の工場やメキシコ工場に負けており、新工場の稼働によって課題を克服し、総合力をさらに高めたい考えだ。

 日産は新工場である花都第2工場の一部を日本のメディアに公開した。筆者もその取材に参加したが、自動車メーカーが稼働前の工場を見せるのは極めて異例だ。

 公開したのは、溶接ライン。自動化率が27〜28%である第1工場とは対照的に、ロボットの導入を増やして自動化率を54〜55%に引き上げる。かつて台湾資本の風神汽車が使っていた自動車工場をベースに追加投資を重ねながら拡大してきた第1工場の溶接工程では、作業者が溶接銃を持って火花を散らせながら作業をしている。日本なら90%以上がロボットで対応する工程だ。中国では日本と比較すると人件費がまだ安いため、ロボットへの投資よりも手作業の方がコストは安いからだ。しかし、中国でも人件費が年々上昇しており、こうした状況判断も踏まえて、第2工場はロボットの導入を増やしたとみられる。今後はさらに自動化率を高めていく計画だ。

 第1工場では2本の溶接ラインで1時間に約45台しか製造できなかったが、自動化率の高い第2工場では、1ラインで60台まで製造できるようになる。

現在稼働している日産の広州・花都第1工場 現在稼働している日産の広州・花都第1工場の最終組み立てライン “工場総合力”は日産内で第1位だという

2015年までに中国市場トップ3入りを果たせるか

 自動車メーカーは、過剰設備になれば、動かない機械と働かない従業員を抱え、業績が一気に悪化するため、社会情勢や市場動向を慎重に見極めながら設備投資を判断する。だからかつてトヨタ自動車(以降、トヨタ)などは「石橋をたたき過ぎて石橋が割れる」といわれるほど投資には慎重だった。一方で、「攻め時」を見逃すと、競合メーカーにシェアを奪われることになる。

 日産はいまが中国市場の「攻め時」と判断したのだ。既に日産は中国の乗用車市場で、日系メーカーではシェアトップを維持している。2011年1月に世界で先駆けて中国でセダン「サニー」を復活させ、月販1万台を超える水準で好調さをキープしている。「サニー」以外にも、「ティーダ」「キャシュカイ」「ティアナ」の3車種が月販1万台を超えている。

 2011年1〜11月までのメーカー別順位も次のようになっている。


順位 メーカー 販売台数(台) 前年同期比
1位 上海GM 115万1010 21.2%
2位 上海VW 106万0899 16.8%
3位 一汽VW 94万6820 17.1%
4位 東風日産 73万1328 20.7%
5位 北京現代 67万5875 6.0%
6位 奇瑞 54万0892 ▼ 1.9%
7位 一汽トヨタ 46万9321 4.3%
8位 東風起亜 38万7441 28.6%
9位 吉利 38万7539 5.1%
10位 長安フォード 37万7264 2.4%
*企業名は一部通名にし、資本関係を明確にしている

 東風日産乗用車公司の木俣秀樹・販売マーケティング本部長は「2015年までにトップ3入りを目指す」と説明する。このためには、デザインなどで魅力的な商品を作ることはもちろんのこと、現地のニーズを取り込みながらコスト競争力をさらに高めていく力がさらに求められている。現地化の一層の推進は欠かせないのだ。

 世界第1位となった中国自動車市場における競争では各国メーカーがしのぎを削っており、日産が目標を達成するプロセスは楽ではないだろう。東風日産は、現在第4位をキープしているものの、第5位の北京現代と第8位の東風起亜の韓国現代自動車グループは合計106万3316台を売っている。現代グループ全体では既に日産を追い越している上、さらに中国事業を強化する構えだ。一汽VWもこれまでは揚子江以北の「河北地区」に生産拠点を構えていたが、南部の広東省にも近く新工場を建設し、東風日産の牙城に攻勢をかけてくる。

 中国自動車市場は伸びが鈍化したといわれながら、巨大なパイを奪おうと、世界の強豪メーカーがひしめき合う「主戦場」である。だから日産は現地の生産能力を拡大し、市場の動きに俊敏に対応する体制を整えている。

日産の広州・花都第2工場 日産の広州・花都第2工場の溶接ライン 第1工場より自動化率を高め、ロボットの導入を増やした

エンジンや変速機などパワートレイン系の現地化が加速

 日産の動きでもう1つ見逃せないことがある。生産だけではなく開発の中国移管も加速させている点だ。特に、これまで日本の自動車メーカーは、エンジンや変速機などコンピューター制御が必要で、かつ複雑な切削加工の技術も必要になるハイテク部品のパワートレイン系は国内での開発・生産にこだわってきたが、日産はその分野でも海外移管を加速させようとしている。

 日産は2011年から1.5リットルクラスの次世代エンジンの開発をトライアルという位置付けで日本から中国に移している。さらに12月16日には「マーチ」などに搭載する小型エンジンンを開発・生産してきたグループの上場企業、愛知機械工業(本社・名古屋市)を完全子会社化すると発表。これまで愛知機械は国内での開発・生産が中心だったが、日産と一体となって新興国を中心に海外ビジネスを拡大するに当たり、上場していると投資家への説明対応などで投資判断のスピードが遅くなるリスクもあるため、完全子会社化で上場廃止を決めた。これもパワートレイン系のグローバル対応の戦略の一環だ。日産グループでは自動変速機大手のジャトコも現地化を推進している。

 日産の動きに対して、トヨタの中国戦略はスピードが遅く、特に生産や開発の現地化が遅れている。販売も伸び悩んでいる。日産の動きに刺激されてやっと尻に火が付いたのか、トヨタは12月20日、2012年1月1日付で「現地生産・調達推進室」や「新興国企画部」を新設すると発表した。また、2013年限りで、中国で販売不振の「ヤリス(日本名ヴィッツ)」の現地生産を打ち切り、新興国市場開拓モデルとして開発された「EFC」を中国に投入する計画だ。

 トヨタは江蘇省常熟に開発センターを建設中で、現地での開発体制強化も急ぐ。トヨタグループの自動変速機メーカー、アイシン・エィ・ダブリュも同じく江蘇省内で新工場を建設することを決めている。トヨタ自身も無段変速機(CVT)の新工場を江蘇省内に建設する方向で検討している。こうした動きに合わせて中小の下請け企業も現地生産を加速させている。

 ただ、トヨタの場合は、国内でエンジンや変速機、それに用いる鋳物などの自前の工場を多く抱える。貞宝工場や上郷工場、下山工場、衣浦工場などだ。関連する技術者も多い。「ユニット工場」と呼ばれる工場群だが、海外への移転が本格化すれば、工場再編や空洞化対策なども大きな課題として浮上しそうだ。

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筆者紹介

井上久男(いのうえ ひさお)

Webサイト:http://www.inoue-hisao.net/

フリージャーナリスト。1964年生まれ。九州大卒。元朝日新聞経済部記者。2004年から独立してフリーになり、自動車産業など製造業を中心に取材。最近は農業改革や大学改革などについてもマネジメントの視点で取材している。文藝春秋や東洋経済新報社、講談社などの各種媒体で執筆。著書には『トヨタ愚直なる人づくり』、『トヨタ・ショック』(共編著)、『農協との30年戦争』(編集取材執筆協力)がある。



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