インタビュー
» 2012年03月08日 11時00分 公開

「コンセプトモデル」が次代の製品を創造する――シチズンのモノづくり麻倉怜士のモノづくりジャパン(2/3 ページ)

[麻倉怜士,@IT MONOist]

世界のどこでも正確な時が分かる時計

麻倉氏: GPS衛星を使って時刻を修正する技術について教えてください。

八宗岡氏: GPS衛星には正確な3次元的測位を行うために精密な原子時計が搭載されています。これは電波時計で使われている原子時計と精度的には同じ(10万年に1秒の誤差)です。通常のGPS測位では、地球上の3次元位置を測位するため最低4基のGPS衛星を捕捉(ほそく)しないといけません。ただし、正確な時刻を設定するだけなら4基も不要で、最初に見つけた1基からの電波だけで十分なのです。この「1基のGPS衛星だけに時刻情報を取りに行く」というところが今回の技術のポイントでした。

麻倉氏: 1基のGPS衛星だけ取るのは難しいのですか?

photo 技術開発本部 開発センター 時計開発部 システム開発課 課長の八宗岡正氏(ムーブメントのシステム関係、アンテナ、回路などの技術担当)

八宗岡氏: 通常のGPSは“測位”が目的なので、市販のGPSユニットを使うと4基どころか12基ぐらいGPS衛星を捕捉しにいってしまいます。測位の安定性と精度を高めるためにはGPS衛星が多い方がいいですからね。ただ、そうするとどうしても時間がかかるし、その間の消費電力も発生してしまいます。腕時計の時刻修正だけに使うのならば、1基だけさっと見つけて時刻信号を捕らえたら、すぐに通信をやめてしまえばいい。それが実現できれば、われわれが近年提案しているエコ・ドライブというソーラー発電で動くGPS腕時計ができるのでは、というのがもともとの研究テーマでした。

麻倉氏: 設計上で苦労した点は?

八宗岡氏: やはり1基のGPS衛星を取りにいくというシステムですね。それもダラダラと取りにいくのでは意味がない。1基取ったらすぐやめる、というようにするとなると、市販のシステムではそういうものはないのです。結局、システムLSIも自分たちで設計しました。

麻倉氏: 周波数としては極超短波帯になるのですか?

八宗岡氏: そうです。GPSですから1.5GHz帯ですね。電波時計に利用される長波標準電波は40KHzですから、電波時計とは設計がまったく違ってきます。極超短波という電波の特性上、直進性は非常に強いのですが、建物とかで遮断されたり、天候が悪くなっただけでも感度が落ちたりする。コーティングされたガラスなどでも遮蔽(しゃへい)されたりします。

麻倉氏: そういう意味では長波標準電波の方が良さそうですが(笑)。

八宗岡氏: ただ、長波標準電波の場合、受信エリアが電波送信所のある地域(米日中欧)に限られます。これ以外の電波が届かない場所では、電波時計といえども正確な時刻を知ることができないのです。

麻倉氏: つまり南米とかアフリカなどは長波標準電波が届かないわけですね。世界中、本当にどこでも正確な時刻を受信できるのは、衛星を使ったGPS腕時計ならでは、というわけですね。

八宗岡氏: 開発の根本は「世界のどこでも正確な時が分かる時計を作りたい」というところです。それと技術革新へのチャレンジですね。

コンセプトモデルの意義

photo

麻倉氏: コンセプトモデルというのは会社の顔ですから、完成すれば達成感もあるし、全社一丸となって取り組むことで一体感が生まれる。ある意味、特別なイベントなんですね。

杉浦氏: 正直、かなり特別なことではありますね。コンセプトモデルを作ることで、シチズンという会社のブランドイメージが高まっていくんだということは、会社の共通認識となっています。一般的にはコンセプトモデルのような特別なモノづくりって、会社のなかでは認められないケースも多々あるのではないでしょうか。シチズンでも最初はそうでした。でも実は、通常のモデルを作るよりよほど難しいモノづくりをしている。2009年から3年間コンセプトモデルを作り続けてきて、継続することで社内でもようやく理解されるようになりました。毎年テイストは違いますが、いずれも今後のシチズンで製品化されるであろう近未来のデザインモデルという位置付けですし、そういう視点でわれわれもコンセプトを設定しています。

麻倉氏: コンセプトモデルというのは、会社としての将来の資産を作るためのもの。それは技術もそうだし、デザインもそうだということですね。

杉浦氏: はい。技術的にもデザイン的にもハードルの高いコンセプトモデルを作っていくと、通常のモノづくり手法ではクリアできない課題が出てきます。それをクリアするとそのノウハウは次の製品作りに生かせる。コンセプトモデルにはそういった波及効果がありますね。例えばSATELLITE WAVEでは、針の位置が文字盤からすごく遠い(高い)位置にあります。その分文字盤が立体的に作れるのですが、針を留める長い軸を加工する技術というのがすごく大変になってくるのです。その困難さは、シャープペンの芯にさらに穴を開けるぐらいの超精密加工技術が必要なほどです。そこまでの精密さを実現するためには新たな加工技術を探さなければいけませんでした。

麻倉氏: 業界他社はコンセプトモデルをどう捉えていますか。

杉浦氏: スイスブランドではコンセプトモデルを出しているところもあります。ただ、コンセプトモデルとして紹介しても、実際には販売しなかったり、発表してから製品化するまでに10年以上かかったというケースも多いです。シチズンの場合、コンセプトモデルを発表した翌年や2年後には製品化を実現しています。そういう意味では、コンセプトモデルの考え方が他社と違うのかもしれません。

麻倉氏: シチズンとしては、コンセプトモデルは単なるお祭りではなく、会社の重要なワークの一環であるわけですね。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.