ソニーが始めた「コンセントの革命」、自動改札や電子マネーを実現した技術を生かす小寺信良のEnergy Future(15)(4/4 ページ)

» 2012年03月08日 15時50分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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コンセントをどうやって見分けるのか

 リーダー/ライターチップが1つしかないと、家の中のどのコンセントが使われているのか、分からなくなるので意味がないのではないか、と思われることだろう。しかしその辺りも解決方法がある。2つあるので順に紹介しよう。

 まず1つ目、FeliCaシステムは、ICチップを認証するのに0.1秒以下の時間しかかからないそうだ。このスピードを利用して、奥にあるリーダー/ライターチップから時分割で認証信号を送る。電源プラグを差した時に、時分割されたうちのどのタイミングで認証されたかを読み取る。これで、どのコンセントが使われたかが分かるという(図8)。

図8 時分割によるコンセント判別のデモ ノートPCの左にある黒いボックス内にはリーダー/ライターチップが1つしか入っていない。デモでは左から3番目の「C」のコンセントを使っている。ノートPCの画面にあるように、測定ソフトがコンセント「C」にドライヤーを接続したと、正しく認識している。

 コンセント数が増えれば、それだけ時分割が1周回ってくるタイミングが長くなるが、改札口などと違って、コンセントを挿してすぐさま認証されなければならないケースは家庭内ではあまり考えられない。挿して1秒ぐらいたって認証されたとしても、実用上は十分間に合うわけである。

 2つ目は、複数のチップを同時認識する、いわゆる「アンチコリジョン」の仕組みを使う。コンセント口にごく安価な汎用のRFIDチップを付けておき、物理的に何か差し込まれたときだけIDが読めるような細工をしておく。そこにFeliCaチップを内蔵した機器のコンセントが差し込まれると、RFIDとFeliCaチップが同時に認識されるので、どのコンセントが使われたか分かる、という仕組みだ。

波形解析よりも優れているのか

 現在開発が進んでいるHEMS(Home Energy Management System、家庭内エネルギー管理システム)技術の中には、スマートタップというものがある。これは各コンセント口の電力消費量を測定できる機能が付いたものだ。だが、つながれた機器が何であるかは分からない。

 スマートタップ以外にも分電盤などに電流波形を解析するチップを組み込み、高い精度で機器を判定する技術の開発も続いている(図9)。

図9 電流波形解析技術の例 機器ごとに電流波形を「登録」しておくと、コンセントや機器にチップを埋め込まなくても、機器をいつ使ったのか判定できる。三菱電機が2011年5月に公開した「大船スマートハウス」での実証実験の様子。図左手前の分電盤に取り付けた「生活パターンセンサー」が波形を読み取り、HEMSと連携して電力を管理する。

 FeliCaを使う認証技術では、読み取られる側に機器固有情報が埋め込まれているので、波形を解析するまでもなく、確実にどの機器なのかが分かる。しかも実現するために新規のチップやリーダー/ライターをわざわざ開発する必要はなく、既に販売しているものの実装をちょっと変えるだけで済む。

 単にコンセントの電力消費を測定するだけなら、もっとシンプルな方法はいくらでもあるわけだが、ソニーの方式でしかできないことがいろいろある。次回はそのような潜在的な利用価値について検証する予定だ。


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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