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» 2012年04月05日 07時30分 公開

エネルギー技術 電気自動車:電気自動車を“Everyone's car”に、普及の課題とは? ユーザー団体の視点 (2/3)

[登丸しのぶ/Shinobu T. Taylor,EE Times Japan]

――ガソリン車から電気自動車に乗り換えると、平均して月々どのくらいの節約になるのでしょうか。

シュウィッターズ氏 米国の平均的な電気代、ガソリン代、ガソリン車の走行距離で計算すると、月に約125米ドルの節約になるとされています。シアトルに限って言うと、電気代が全米の平均より低く、ガソリン代が平均より高いので、150米ドルくらいの節約になるでしょう。

――米国では日本よりも電気自動車によるランニングコスト低減のメリットが大きいようですが、普及が爆発的に加速しているわけではありません。なぜでしょうか。

シュウィッターズ氏 まず、米国では電気自動車を買いたくても買えない状況があります。General Motors(GM)はプラグインハイブリッド車「Chevrolet Volt(シボレー・ボルト)」を2011年に米国市場に投入しましたが、まだ取り扱っているディーラーが無い州もあるのが現状です。日産リーフも同様で、購入できない州が多いのです。2年前に注文して、まだ入手できていない人も多いと聞きます。

 Teslaはテスラ ロードスターの販売を既に終えています。同社はセダンタイプの「Model S」を2012年7月に市場に投入する予定ですが、SUVタイプの「Model X」については発売が2年後と少々先になります。

サクストン氏 アリゾナ州のあるディーラーでは、日産リーフの販売は月に6台までに制限されているそうです。もちろんディーラーとしてはもっと売りたいのですが、これが今、メーカーが供給できる数なのです。日産は今年の後半にテネシー州で日産リーフの製造を始める予定なので、今後は米国でももっと入手しやすくなるでしょう。

シュウィッターズ氏 Plug in Americaプレジデントのシュウィッターズ氏 2008年にトヨタ自動車のプリウスを自らプラグインタイプに改造。2009年にはトヨタのRAV4 EVを見つけて購入した。さらにテスラ ロードスターと、合計3台の電気自動車を所有している。

シュウィッターズ氏 別の問題として、ディーラーが電気自動車の販売に消極的という事実があります。メンテナンスの方法が従来のガソリン車と異なるため、それを顧客に説明したり、新しいツールを用意したりしなければなりません。また、電気自動車はガソリン車に比べてメンテナンスが少なくて済むので、ディーラーにとってはサービス費が見込めないという理由もあります。ただし、Teslaはもともとディーラーを介さない直販のみなので、この問題はありません。シボレー・ボルトも、ガソリンエンジンを積んでいますから基本的なメンテナンス方法はガソリン車と同じで、やはりこの問題には当てはまりません。

標準化の遅れが急速充電スタンド設置の障壁

――米国での充電スタンドの設置状況はいかがでしょうか。

サクストン氏  米エネルギー省(DOE)が支援している電気自動車プロジェクトにより、全米18の大都市圏で5000カ所の充電スタンドが設置されていますが、使用率はあまり高くないようです。そうした充電スタンドのほとんどは満充電まで4〜8時間を要するレベル2(240V、15〜30A)のAC方式です。フリーウェイなどにはDC方式で満充電まで約30分の急速充電スタンドも設置されていますが、数はまだ多くありません。

レベル2の充電スタンドECOtalityの充電器「BLINK」 左の写真は、ベルビューにあるオフィスビルに設置されたレベル2の充電スタンド。「電気自動車専用」と書かれている。シボレー・ボルトが充電中。右の写真は、このスタンドの充電器。サンフランシスコを拠点とするエネルギーシステムベンダーのECOtalityが手掛ける「Blink」である。同社は米エネルギー省の資金援助を受けて充電スタンド拡充プロジェクトを推進しており、この充電器もユーザーは無料で利用でき、電気自動車のみ最大4時間まで駐車可能だ。(クリックで画像を拡大)

――なぜ、急速充電スタンドの設置が遅れているのでしょうか。

シュウィッターズ氏 日本では自動車メーカーと電力会社が組んで「CHAdeMO」方式を採用したため、急速充電スタンドの設置が早く進みました。これが電気自動車の普及に一役買っています。それらの充電スタンドも実際にはあまり利用されていないようですが、“利用可能である”という安心感が消費者に作用したのでしょう。

 しかし米国では、先ごろ三菱自動車が「i-MiEV」の出荷を始めるまでは、日産リーフが唯一、日本メーカー製の電気自動車でした。日本の電気自動車には独自の標準規格があります。アメリカではSAE(Society of Automobile Engineers)が独自の標準を確立しようとしましたが、日本の標準規格とは異なるので日本メーカー製の電気自動車には使用できません。シアトル、ポートランド、サンフランシスコ、サンディエゴ、フェニックス、ロサンゼルス、ワシントンDC、テネシーなどの大都市ではCHAdeMO方式の充電器が設置されていますが、米国での標準規格が確立されていないため、米国メーカーは急速充電ポートを備えた車を製造していないのです。

 Teslaだけは例外です。ロードスターではレベル2の充電器しか使用できませんが、Model Sでは急速充電に対応するとしています。ただし同社は、日本の標準規格は使いたくないと考えており、独自の急速充電を開発して採用する予定です。

 というわけで、急速充電スタンドとしては現段階で以上の3つの可能性がありますが、どれもまだ広く設置されるには至っていません。この問題が解決され、急速充電スタンドの設置が進まなければ、電気自動車の普及は難しいでしょう。

サクストン氏 しかし、急速充電スタンドが普及したとしても、例えば日産リーフでシアトルから隣州のオレゴン州ポートランド市まで200マイル(約320km)を超える距離を走行するには、少なくとも2回は止まって充電しないといけません*2) 。実質的に1時間ごとに30分止まって充電というのは、あまり便利とはいえませんね。

 TeslaのModel Sは大容量のバッテリー(40kWh、60kWh、85kWhから選択可能)を搭載するため、例えば60kWhのバッテリーを選べば走行可能距離は230マイル(約370km)に達し、ポートランドまで追加の充電無しでたどり着けます。また、同社が言う通りに急速充電スタンドの設置が進めば、数時間走行して、ランチのために停車した際に充電し、また数時間走行……というように、実用上の問題は解消されるでしょう。

*2)NissanUSA.comは、リーフの走行可能距離を「1回の充電で100マイル(約160km)」としている。ただし電気自動車は一般に、ハイウェイの高速移動時は走行可能距離が短くなり、リーフについても米国の環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)がハイウェイ移動時の走行可能距離を92マイル(約147km)と認定している(参考リンク)。シアトルからポートランドまで200マイル(約320km)を超える距離のほとんどをハイウェイで移動することを考えれば、最低でも2回の充電が必要という計算になる。

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