EVのインバータで重要なのはパワー半導体だけじゃない、ゲートドライバにも注目車載半導体

電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の性能を左右するインバータ。インバータに用いられる重要部品としてパワーMOSFETやIGBTなどのパワー半導体が知られているが、そのパワー半導体を駆動するゲートドライバICも必須の部品である。

» 2012年04月19日 15時13分 公開
[朴尚洙,@IT MONOist]

 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の電動システムは、大まかにモーター、インバータ、電池の3つの構成要素に分けることができる。このうちインバータの性能を左右する部品として注目されているのがパワー半導体である。インバータがどういった電子回路であるかを知らなくても、パワーMOSFET、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、SiC(シリコンカーバイド)-MOSFET、GaN(窒化ガリウム)-MOSFETといった単語に聞き覚えのある読者も多いだろう。

 とはいえ、インバータの性能はパワー半導体だけで決まるわけではない。インバータでは、一定の周期でパワー半導体のオン/オフを繰り返しているが、パワー半導体をオン/オフする(駆動する)には他の半導体が必要なのである。この用途で用いられるのがゲートドライバICだ。

VS端子のマイナス電圧

 インバータ内部では、ハイサイド側のパワー半導体がオン、ローサイド側のパワー半導体がオフという状態と、ハイサイド側のパワー半導体がオフ、ローサイド側のパワー半導体がオンという状態を連続的に切り替えている。この切り替えを行うためには、ハイサイド側とローサイド側にそれぞれを駆動する回路が必要になる。それをまとまめたのがゲートドライバICだ。

インバータ回路におけるパワー半導体とゲートドライバICの接続例 インバータ回路におけるパワー半導体とゲートドライバICの接続例。ゲートドライバICとしてハイサイドとローサイド両方の駆動が可能な「FAN7190」を用いた場合の回路図である。マイナス電圧が発生するのは、赤色の線で囲んでいる、パワー半導体(Q1とQ2)の接点部とゲートドライバICのVS(ハイサイド浮遊オフセット電圧)端子の間である。(クリックで拡大) 出典:フェアチャイルドセミコンダクタージャパン

 ゲートドライバICの性能指標としては、使用するパワー半導体に対応した耐圧や、パワー半導体を動作させるための出力電流などがある。フェアチャイルドセミコンダクタージャパンによれば、「EVやHEVのインバータ向けでは、ハイサイドゲートドライバICのVS端子に印加されるマイナス電圧の許容値にも注意が必要である」という。

 一般的にVS端子は、ハイサイド側のパワー半導体のソース側端子と、ローサイド側のパワー半導体のドレイン側端子とつながっている。パワー半導体のオン/オフの切り替えの際、VS端子とつながるハイサイド側のパワー半導体のソース側端子とローサイド側のパワー半導体のドレイン側端子の間の電圧がマイナスになることがある。特に、入力電圧が不安定だったり、インバータと接続するモーターが急激な動作をしたり(ブレーキ回生時など)するとマイナス電圧の値が大きくなる。

 VS端子にかかるマイナス電圧の値を小さくするには、パワー半導体そのものやパワー半導体の間を接続する線路が持つ容量成分(寄生容量)をできる限り小さくすればよい。しかし、小型化が求められるEVやHEV向けのインバータの場合、接続線路を短くするという対策を実行できなことも多い。もし、ゲートドライバICがVS端子のマイナス電圧について大きな値を許容できれば、接続線路を短くするための回路設計に開発期間を費やす必要がなくなるわけだ。

競合他社品より約30%大きなマイナス電圧を許容

 フェアチャイルドセミコンダクタージャパンは2012年4月13日、ハイサイド用ゲートドライバIC「FAN7171」と、ハイサイドとローサイド両方の駆動が可能なゲートドライバIC「FAN7190」を発表した。主にEVやHEVのインバータやDC-DCコンバータ、エンジンのインジェクタやバルブを駆動する用途に適している。既に量産出荷を開始している。1000購入時の単価は、FAN7171が1.28米ドル、FAN7190が1.50米ドル。

 FAN7171とFAN7190の最大の特徴は、VS端子に印加されるマイナス電圧の許容値が大きいことである。例えば、VBS(ハイサイド浮遊電源電圧)が15Vのとき、VS端子は−9.8Vまでのマイナス電圧が印加されても動作に不具合を生じない。VBSが12VのときにVS端子に印加可能なマイナス電圧は、FAN7171とFAN7190が約−7.5Vであるのに対して、競合他社品は−4V強までしか許容しなかった。印加されるマイナス電圧のパルス幅が同じ場合の比較でも、FAN7171とFAN7190は競合他社品よりも約30%大きなマイナス電圧を許容できた。

 また出力電流が大きいことも特徴だ。吐き出し(ソース)時/吸い込み(シンク)時とも最大で4.5Aを達成している。「一般的なゲートドライバICの出力電流は数百mA程度にすぎない」(同社)という。この他、EVやHEVのインバータに搭載されている高耐圧のパワーMOSFETやIGBTと組み合わせて利用できるように耐圧を確保している。耐圧はそれぞれ、FAN7171が500V、FAN7190が600Vである。

 その他の仕様は以下の通り。静止時の消費電流は、FAN7190の場合、ハイサイド側が45μA、ローサイド側が75μA。VBSが一定電圧以下になった場合の誤動作を防ぐUVLO(低電圧ロックアウト)機能を備える。ロジック入力はTTL(Transistor to Transistor Logic)互換となっている。動作温度範囲は−40〜125℃。車載ICの品質規格であるAEC-Q100に準拠している。パッケージは8端子のSOP。

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