DMSで見た最新CAE&CADのいろいろDMS2012を歩く(2)(2/2 ページ)

» 2012年07月11日 11時00分 公開
[水野操 テクノロジーコラムニスト/3D-GAN,@IT MONOist]
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Actranと音響解析のいま

 連成解析の話題が続きます。

 MSCのブースで最後に説明を聞いたのが、音響解析ソフト「Actran」です。同社は2011年に、その開発元 Free Field Technologiesを買収しています。

 最近の製品開発では、その品質において、「音」に関して問われることが少なくありません。音といっても、単にその大小だけではなく、「心地の良い音か」「硬い・柔らかい音か」といったパラメータもあります。現代の製品開発においては、そのような、さまざまな観点から音の解析をすることが求められていますが、それをかなえるのがActranといえます。

Actranにおける空力騒音解析の概要(Aero-Acoustic Analysis)

 同製品はFEMとIFEMモデルがベースになっており、境界要素法と比較すると「計算時間が短い」というメリットがあります。さらに、並列化をサポートしており、大規模計算にも対応しています。

 構造振動と音響解析を連成させたり、あるいは構造そのものから発生する放射音を解析し予測することも可能です。「液体や気体が流れるときの音」も解析対象にできます。例えば、「ダクトからの放射音」がそうですね。

 機械製品は、さまざまな騒音源が組み合わさって構成されているものです。その中で一番大きな騒音源が解消されれば、今度は別の音源が問題になる……、ということも起こります。「音そのものも、製品(機能)の一部」という場合であれば、音響解析も、構造解析や流体解析と絡めて考えていくことも必要だと言えそうですね。

 ちなみにActranユーザーには、“航空機メーカーの双璧”といわれる企業の1つ、エアバス・インダストリー(Airbus Industries)がいるとのことです。

アルテア

アルテアのブース

 さて、“CAE(解析)つながり”ということで、今度はアルテアエンジニアリング(Altair Engineering:以下、アルテア)のブースに出没しました。まず紹介してもらったのが、同社CAE「HyperWorks」の新製品「AcuSolve」です。同社は、2011年1月にその開発元 米ACUSIM Softwareを買収しています。

 AcuSolveとは、CFD(流体解析)のソルバソリューションで、製品単体としても使用可能ですが、「剛体運動とのカップリング」や「構造解析プログラムとの連成解析」も可能で、マルチフィジックスにも対応しています。

HyperWorksの概要

 アルテアにとって流体解析は新分野です。ユーザーがこれまで使用してきたほかの流体解析ソフトからの乗り換えも含め、ライセンス数を伸ばしているとのことで、「販売は好調」とのことです。

solidThinkingの利点と課題

 「今年の出展で、特に目新しいものは?」と私が尋ねたところ、対応してくれたアルテアの北邑剛氏いわく「solidThinkingです」とのこと。実はsolidThinkingについては、MONOistの私の連載で紹介したこともあり、「その後のこと」が気になっていたのです。

 「昨年までとの大きな違いは何か?」といえば、「製品名の変更とともに、既存製品のラインアップの違いが“より明確に”なった」ということでした。

 これまで、solidThinkingは以下のような2製品で展開していました。

  • 「solidThinking」:モデリング機能モジュール
  • 「solidThinking Inspired」:作成した3次元形状をベースに「モーフォジェネシス(Morphogenesis)」と呼ばれる機能で解析をし、構造物への負荷を考慮した形状が検討可能なモジュール

 これまで、この2製品の価格差は、“アドオンモジュール程度”しかありませんでした。

 実は個人的に、その価格設定について少々違和感を覚えていました。そのことを同社の中の人に、“実に勝手なボヤキ”として申し上げたことがあります。というのは、モデラーとしてのsolidThinkingは素晴らしい製品ですが、「デザインのフェーズで簡単に活用できる」Inspiredは、「単なるアドオンモジュール以上の価値がある」と思っていたからなのです。

 かといって、最近のCADにおいて、「ソリッド、サーフェイスを含めて、安価な製品の機能が充実している」中、モデラーの方は価格競争力を意識しないわけにもいきません……。

 別に、“独断と偏見に満ちた”外野の(私の)意見を聞いたが故では決してなくて(笑)、同社がビジネス的検討をした結果でしょうが、今回の製品名変更には、価格変更も伴っていました。

「solidThinking」は、「solidThinking Evolve」に

 これまで「solidThinking」と呼ばれてきたモデリングモジュールは、新たに「solidThinking Evolve」(以下、Evolve)という名称が与えられました。

 製品の機能そのものとしては、従来のsolidThinkingと変わりません。UIそのものも「従来と同じ」ということなので、これまでのユーザーも安心して使うことができるでしょう。

 機能は変わらないものの、価格については“大幅に”下げたということです。

solidThinking Evolveの概要

 Windows版、Mac版の提供は従来通りですので、「Macで動くCAD」かつ「CADで本格的なDesignがしたい」ような方にとっては、「機能は変わらずに、価格が下がった」わけですから、より選択肢としての魅力が高まったのではないでしょうか。

「solidThinking Inspired」は、「solidThinking Inspire」に

 Inspireについても私の過去記事で紹介していますが、微妙に名前が変わりました。前バージョンまでは、「solidThinking Inspired」でしたが、このバージョンから「solidThinking Inspire」になりました。最後の「d」がなくなったのです。

 前述したモーフォジェネシスの機能を用いることで、実際に自分がデザインする構造体に、意図する荷重が掛かったときに、「問題のない形状なのか」最適化を試みる解析が可能です。「形状に対し、どこをどう止めるか」「荷重をどう掛けるか」といった設定は非常に簡単です。材料は、「取りあえず、何か指定しておけば」解析できます。

 通常、解析は、「ある程度設計が進んだ状態」で、「解析専任者や設計者が実施する」ことが多いでしょう。ところがInspireの場合には、「デザイナー(意匠担当)自身が、モデリングを進めながら」、ごく初期の段階で構造の最適化を進められます。製品開発の現場にとって、“新たな武器”となり得るのではないでしょうか。価格設定についても、「解析ツール」として考えると廉価でしょう。

 アルテアがsolidThinkingを販売開始して以来、着実にユーザー数を伸ばしているとのこと。「デザイン系CAD」としての知名度という面でも、ここのところ従来のアルテアの顧客のみならず、デザイン系の顧客からの需要は確実に増え続けているとのことです。

 同社では、EvolveとInspireをサポートするエンジニアについても、既に増強しているとのこと。CADやCAEにおける“業界内活用地図”がある程度安定してきている中、それらがどのような形で広がっていくのか、あるいは、どのような機能強化が図られていくのか、実際にsolidThinkingを使ってみた私としても、今後の展開を楽しみに見守っていきたいと思います。

 さて今回は、CAEネタから始まりつつ、CADへ足を踏み入れていきました。

 「このまま続けて書こうか」と思ったのですが、実は「CAD/PDMネタ」が、盛りだくさんなのです。CAMの話もありますし……。

 なので、第2回は、ひとまずここで終わりますが、間もなく、その続きとなる第3回をお届けする予定です。引き続きよろしくお願いします。

Profile

水野 操(みずの みさお)

1967年生まれ。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。マルチ・ディメンション合同会社社長。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わったほか、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開しているほか、マーケティングやIT導入のコンサルティングを行っている。著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。



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