「国内家電メーカーのテレビ事業に未来はあるのか」――敗因を見極め、今こそ感覚のズレを正すとき本田雅一のエンベデッドコラム(15)(1/3 ページ)

「日本のテレビはもう売れない」「韓国勢に負けた」――。日本メーカーが手掛けるテレビ事業は韓国メーカーに追い抜かれ、“敗者”のレッテルを貼られてしまった。しかし、映像品質や3D技術に目を向けてみると、日本は世界トップレベルの力を持っている。敗因を見極め、フォーカスを正しい位置に再設定できれば、この苦境から抜け出せるはずだ。

» 2012年07月18日 09時45分 公開
[本田雅一,@IT MONOist]

 “モノづくり”をテーマにした本連載。筆者はこれまで電機、IT、通信といった企業を中心に多くの取材を重ねてきた。その中の1つ、輸出産業として、日本経済の中でも大きな役割を担ってきた電機産業は、各社が巨額の赤字を計上したこともあって、その競争力や(モノづくり)企業としての力量に疑いの声や批判の声を浴びせられており、苦境に立っている。

 ただ、長くこの分野を取材してきた筆者にとって、やや疑問に感じる批判や現状と乖離(かいり)した意見を耳にすることも少なくない。現在、電機メーカーは大きな岐路に立たされている。それは間違いない。だが、失敗の原因を正しく見極めなければ、何かをあらためることはできない。その原因を安易に決め付けるのは危険だ。

 というわけで、今回は国内電機メーカーが手掛ける「テレビ事業」について、あらためて考えてみることにしたい。


製品の品質に対する誤解と認識のズレ

 先日、ある新聞のコラムで「“高画質化”ばかりに気を取られ、さまざまなWebサービスと連動する『スマートテレビ機能』の開発をおろそかにしてきたから、日本メーカーは韓国メーカーに負けたのだ」という趣旨の批判が掲載された。しかし、このコラムを見た業界関係者およびそこに近い位置にいる人たちは首をひねったはずだ。

サムスン電子の「Smart TV」 参考 サムスン電子の「Smart TV」(※出典:Samsung Electronics)

 なぜなら、「テレビ」という商材である限り、“高画質化というアプローチ”は避けて通ることができないからだ。

 テレビ放送であれ、インターネット配信であれ、Blu-ray/DVDであれ、“テレビ受像機”という商品は、他メーカーと同じコンテンツを“画面に映し出す部分”で勝負しなければならない。テレビという商材に関してユーザーニーズの調査を行うと、トップは必ず「高画質であること」になるそうだが、この結果は、テレビという商品の根本的な位置付けによるものだといえる。

 では、この“高画質”という部分に関して、「今、日本のメーカーがどこか(海外メーカー)に負けているのか?」というと、全く負けていない。テレビだけではなく、映像関連の製品で日本メーカーが画質などの品質面で負けている商品分野はおそらくない。だからこそ、“価格が高いこと”がこれまでは(現在でも一部ユーザーに対しては)許容されてきた。

 ただ、放送規格がフルHD解像度で止まり、デジタル技術であるが故にスペック上の差がほとんどなくなってしまったことは確かだ。消費者の視点からすると“デジタル化”により品質は底上げされたわけだが、それに伴い、以前ほどメーカーごとの“違い”が明確に感じにくくなった。

 しかし、画質などの“映像品質”に関しては、これまでと変わらず日本メーカーは優秀だ。筆者は各社から発売される最新テレビを一通り評価・テストする機会がよくあるが、映像品質に関していえば、その差は縮まってはいない。

 もちろん、“貧すれば鈍する”ということはあるかもしれない。今後はあまりぜいたくな仕様のテレビを作ることができなくなるだろう。しかし、実は、それは日本メーカーだけの問題ではないのだ。テレビメーカー各社によると、「米国で販売されているテレビの80%以上が500ドル以下になってきている」そうだ。

 これは、テレビそのものの価値が落ちたというよりも、アナログ時代に比べて極端に参入障壁が低くなったことに起因する。パネル生産メーカーの競争により、誰でも容易にディスプレイパネルを調達できるようになったこと、そして、フルスペックのテレビを作るためのLSIセットがこなれてきたことなどにより、テレビという商材を取り巻くビジネス環境がより厳しくなったことが理由だ。

 ここで思い出されるのがDVDプレーヤーの普及期である。あの当時、DVDプレーヤーを誰でも簡単に作れてしまうところまで“コンポーネント化”が進み、価格競争をしかけた中国メーカーまでもが利益を上げられずに赤字を計上するといったことが起きた。今のテレビは、それと同様の現象が“もっと大きな規模”で起きているといえる。

 これまで“高付加価値”をウリにしてきた日本のテレビメーカーは苦境に立たされている。では、今、勢いのある韓国メーカーは“楽”な状況にあるのだろうか。いや、それは間違いだ。為替の面で有利な分、顕在化しにくいものの、韓国においても、テレビ事業そのものは難しい局面に差し掛かっている(テレビ向け表示パネル事業も厳しいが、これはまた別の理由)。

 くだんのコラムでは、多種多様なWebサービスに対応する韓国製テレビのスマートテレビ機能を称賛しているが、日本のテレビに同様の機能がないかというと、そんなことはなく、優れた面も多い。そして、そもそもスマートテレビ機能で勝負が決している事実も(現時点では)ない。

シャープのAQUOS クアトロン 3D「LC-80GL7」 参考 シャープのAQUOS クアトロン 3D「LC-80GL7」。YouTubeやSkypeなどのWebサービス対応、ネット機能も充実している(※出典:シャープ)

 利益を出せない経営陣が批判されるのは当然だが、もともと大きな利益を出してきた日本の電機メーカーそのものに価値がないということはない。「何がダメなのか」をしっかりと見極める必要がある。その評価のポイントがズレてしまっては意味がない。

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